ワイングラス
 隣りの呉服屋さんの気配を敢えて3メートルほど横方向に感じながら、それゆえに細心の注意を払い、早朝廃屋探訪を続ける。

 部屋に鎮座するのは、昭和の音楽室にあったような、重厚な木製キャビネットを備えたエレクトーン。背後の壁には『BARBEE BOYS』の文字。ボジョレーヌーボーが流行りだしたのは、彼等が活躍をしていた頃ぐらいだろうか。グルメマンガの”うんちく”をしたり顔で語りつつ、右手を円運動させながら、解禁直後のワインを飲んだかもしれない、グラスも。

 各部屋で拾い集めた昭和の断片。廃屋の影に埋もれようとしていた奈井江のオーパーツ。勿忘草。それらを溢れそうなほどこんもりと抱えて入った部屋でご対面のエレクトーン。卓上の品々・・・

 そして、”人いきれ”を確かに背中で感じたように気がして、振り返ると・・・。”それ”をみた瞬間、全てのパズルのピースが繋がり合わさり、

『ジョージ交流館』の本当の意味が判明することになる   



侵入
 侵入へと誘ってくれた部屋をこの角度から。あと何年、数十年、菊池桃子さんは、廃墟違法侵入者を、監視し続けるのだろうか。現在NPO理事をやっているそうですが、これも何かのご縁、陰ながら、応援させていただきます・・・



がらくた
 厳選して捨てられていったような品々。電気のスィッチは相当に古い。
 


ひき
 エレクトーンのある部屋に入室する。よろけそうな脚のテーブル上にはブームの頃の影響を受けまくりのそれ、和式ゴザ部屋には不釣り合いな、ワイングラス。白ワインのボトルは下に転がっている。籐製の布団たたき。紙製ガムテ二段積み、未使用。アクセサリー入れの、コルクキャップ付きガラスボトル。見づらいが表面にはスヌーピーのイラスト。

 侵入者である”廃屋探索者”を、満面の笑みで、暖かく大歓迎をしてくれたのは、煌々と、発光しているかのような、所さんパンチングボール。今や、世田谷ベースに居を構える、スーパーカーコレクターだが、ここでは、昭和の時代よりの、奈井江長屋廃墟管理人に甘んじている。だが、来る日も来る日も、燦々とした太陽光と紫外線を全身に受けながら、張りもよく、艶もあり、輝きさえ感じられるのは、なお現役で大活躍をされている現状の、イメージ補足もあってのことだろうか。

 現実的な話、ゴム類はただでさえ真っ先に劣化をしてしまう。空気を入れる風船類などは、あっという間に萎んで縮んで硬化する。
 
 目移りしてしまう昭和からの贈り物、残骸、を検証していると、気配を後方より感じ、振り返ったその時   



メッセージ
 全てのピース、意味、謎、もやもやとしたもの・・・が、氷塊し結合する。

 東京に対する希望、切望。心の叫び。愛の告白。怒り。否定。愛憎。連絡。便り。

 ヒムロック&ホテロック。


 ヒムロックはよく聞くのですが、ホテロックもファンの間ではおなじみなんでしょうか。
 


てるみ
 これはまさしく、昭和のLINEだ。昭和64年の1月3日の書き込みもあれば、平成元年も集中してある。さりげなく愛をほのめかして、探りを入れてみたり。連絡方法と何時合うとかの日程決めには、特に苦心をしている様子。

 手のひらの上で、一昔前のスーパーコンピュータを操る現代の若者。

 コンクリの壁に将来の夢、愛、たくましい想像力で、奈井江のiPadともいうべきこの原始の情報空間で、人間模様を巡らせた青春時代のほんの、1ページ。スワイプはできないが、その場には、仲間がわいわいと集まって、歓談、談笑、時には怒声。大勢の若者達の熱が、夜毎、たぎっていた。



パーティー
  1988年といえば、セガのメガドライブが発売になった年。

「息抜きパーティーでは、新しいもの好きの男子が、メガドライブを持ち込んで、動きがカクカクの『スペースハリアーII』をプレイして、その場が一気に冷めませんでしたか?」

 家主の子供部屋という可能性もあるが、それだったらこれほど多数の人達の連絡網としては使われないだろう。他人の家に来て「XX君、XX日に待ってるよ~」なんて壁に書くのは、いくらなんでもありえない。家主だった家族が去っていき、廃屋化してまだ日が浅い頃、若者達が集うようになったのではないか。



テニス
 リーバイス、ジェームス・ディーンのポスター。テニスラケットを持ったスヌーピー。スヌーピーはよくみると可動式。厚紙か薄い板で出来ていて、腕や足に関節があって、動かしてポーズがとれるようになっている。ラケットの柄部分が折れて、セロテープかボンドのようなもので補強をしてある。

 テーブルの上のガラスボトル。テニスのスヌーピー。永遠の憧れ、ジェームス・ディーンのポスター。『ジョージ交流館』の前身は、少なくとも、菊池桃子ファンの男の子、スヌーピー好きの女の子、がいた可能性が高いのではないか。



サイン
 ピースサイン。全ての変遷を見つめて来た、所さん人形。東京からわざわざやって来て、あれやこれやと詮索を続ける廃屋散策者を見て、何を思う。空気の充填をいつまで保っていられるか、僕が廃屋探しの旅をやめるのが先か   特に競争しようとも思わないが・・・



紙
 私はどうしたら良いのですか?信じられないことばかり

 実に控えめな、女性と思われる悩みの横には、力強く大きな自己主張、美唄市茶志内の18歳の永田君。好きなタバコはエコーズのようですが、現代のツイッターやフェイスブックだったら、プチ炎上してそうです。



ダイヤリー
 今日は外で40分ぐらい一人でまってました
   バッカみたい


 同じ人が書き連らねていて、日記形式のようになっている。他の廃墟の落書きと違うのは、秩序が保たれていること。例えば雄別炭鉱の廃病院みたいに、周囲に人家が無くやり放題だと、女性性器の絵やエロネタなど、品位のかけらの無いようなものばかりになる。

 隣りが呉服屋で、ひっそりと忍び込むから、バカ騒ぎは出来ない。特定の仲間内の書き込みだから、暗黙のルールが守られていて、相互監視の抑止効果がある。ここは、綺麗な廃屋でもあった。
 


エレクトーン
 俯瞰で見る『ジョージ交流館』のメインデッキともいえる部分。またの名を『奈井江ベース』か。所さんが世田谷でギターを弾けば、少女は奈井江ベースでエレクトーンを奏でる。

 このキャラクターを前面に出していた時、カケフくんや間下このみさんが活躍をする番組がありましたね。どっちも今ではえらい変わり様になってます。



天
 合板の屋根によく見られる症状。ふやけたような剥離。先人少女のお気に入り、スヌーピーの痕跡。



椅子
 学校からパクって来たような椅子。押入れに物は無く、一家夜逃げではなさそうだ。



衣装
 80年代バイクブームの残滓。現在のサービスエリアや道の駅でバイク乗りをみると、大抵40歳以上のおっさんばかり。幅をきかせているのが、アメリカンポリスのコスを着た、お爺さんに近いハーレー軍団。高齢化した日本特有の光景ですね。

 ファミコンでもないかと、覗いてみる・・・



開
 綺麗に整頓されて何もなし。



袋
 どこかでみたような・・・



コンセント
 羽幌炭鉱跡の廃病院でも全く同じコンセントを見た。今まで一切見たことが無かったので、病院施設専用のコンセントかなんかだろうと思ったが、もしや一部の古い北海道の家では、これが普通に使われていたのかもしれない。



どんぶり
 定食屋でもできそうな、大釜と大鍋。兄弟二人の四人家族としてはでかすぎる。

 その先の気になる視線。



近辺
 廃屋の残骸で願い乞い、待ち侘びるように佇み続ける、サテンのドレスを着たお人形。「廃墟散策者が参りましたよ。ジョージ交流館に集いし若者達は、あなたに全く感心が無かったのですね」

 それにしてもえらく中途半端な長さの暖簾だ。高身長一家で、毎回顔面にビタンビタンとぶつかるから、カットでもしたのだろうか。



タグ
 真新しくタグまで付いている。その下には何故かのし袋。スヌーピーを卒業した少女は、リアル系ドールへと興味が移行したのか。黄色の着物を着た女の子は、佐渡のたらい舟を漕いているのだろうか。

 昭和天皇ご崩御後より、もしかしたら、僕以外に興味をもってあげられなかったかもしれない、寂しげなドレス少女の人形。スヌーピー少女に向かい入れられ、やがて置き去りにされ、去りゆく背中を見届けてから、数十年。鮮やかなルビーレッドの眼に再び映ったのは、ワークウェアに革パン姿、帽子は深めの”廃墟散策者”。



外
 真紅の視界から緩やかに遠ざかり、廃屋『ジョージ交流館』の窓、正確に言えばカーテンの隙間より、道路を5分ほど窺う。頃合いをみて道路へ弾き出されるように飛び出した。刹那、咄嗟に”奈井江町の住人です”オーラを全身から醸し出し、何事も無かったようにゆったりと歩き出す。『僕は郵便局に用がある、僕は郵便局に用がある』と念仏を唱えながら・・・

「今度来る時は、郵便局でワンコイン貯金でもして、通帳に記帳しよう」

 もう、10時だというのに、相変わらずやっているかやっていないかわからない郵便局の横を車で通り過ぎ、空を見上げ遠景にそびえる錆びた大櫓に向かってハンドルを切る。
 
 
おわり…