ぶつぶつ
 カーマニアの息子が読みふけった自動車雑誌の山と、宴の残骸の狭間に横たわる、ブツブツの何か。ひとつひとつを集積させ結合させて纏め作り上げた物のようだが、廃墟化してずいぶんと経つこの店内、退廃的で重苦しい空気が充満している中、辛うじて唯一の生気、そのなだらかな生物的曲線に目を奪われる。

 頭頂部に感じた柔らかな感触、まるで『良い子撫で』をされたかのようなほんのりと暖かい肌触り。勿論、気のせいなのは十分に承知するところだが、一体、この温もりは何なのだろうか   その先へと視線を移動させてみた。



スワン
 ビッグスワンが2羽、佇んでいた。僕へ眼差しを向けていたのは、丸豊のマザーシップ、ビッグマザーの母親だろうか。冷たそうな背中で明らかに廃墟散策者を拒んでいそうなのは、ビッグファーザーである、父親。ならば、エアロボディーの族車の横で、屍のように転がっているのは、丸豊の長男、ビッグブラザー、その人である。皮肉にも、その後の惨劇が、この狭い一角に於いて、象徴的に予見されていたという偶然、奇跡。

    息子の人となりの一端が、垣間見れるような資料を、この近くで発見する。
 


内容
 見て素直に思ったのが、何らかの障害があるのではないかということ。車を運転する年齢にしては、実に表現が幼すぎる。文章の構成力が無いのか、面倒なのか、文体が箇条書きだ。



ノート
 ・・・・・・少し勘ぐり過ぎたようで、どうやら英語のノートだったようだ。



ファンタ
 ビッグブラザーの面影が所々に散見されるようになって来たところで、彼の証しがより残されているだろう、2階へと、探索の範囲を広げてみる。

 階段を上ろうとしたその時、眼に入ったのは『ゆっくり走ろう北海道』のステッカー。一日最低2回は視界にはいっただろう、この文字列。その通り、ゆっくりと走っていれば、丸豊ドライブインはこのような廃墟化などにならず、廃墟散策者によって家中を蹂躙されるようなことはなかっただろう。

 暴君と化した、ビッグブラザーに起こった悲劇。一家崩壊の引き金とは・・・

 手がかりを求めて、階上へと進む。



階段上
 電球は外れたまま。トイレの電球に当時としては先進的な、蛍光電球を使用するようなエコロジーな御主人のことだから、客に眼が触れないような場所では、しっかりとした節電対策をしていたようだ。



階段
 金属の質感を確かめながら、息子や母親もこの手摺りを使用していたんだなと、束の間の一体感を噛みしめながら、丸豊の最頂部へと到達する。



棚
 これは業務用の什器。一瞬、2階のこの部屋で物販でもしていたのだろうかとの考えが巡るが、どうやら、1階で使用していた棚を家族部屋に流用したか、業務用の棚を個人で使おうと、わざわざ業者から仕入れたのか、どちらかだろう。



一望
 北海道らしい絶景に見とれていて、危うく見落としそうになったが、窓際に置かれているのは、トロフィー。例のボーリング大会の物のようだ。その他の遺留品も鑑みて、少なくとも、この部屋は子供部屋では無いことが濃厚である。



断熱材
 もう廃墟ではおなじみ、腐った畳と断熱材の饗宴・・・



プレート
 部屋の隅に唐突に『鍾乳石』のプレート。御主人の趣味かもしれない   この後、1階で発見されることになるある物の存在から、これはほぼ丸豊主人の趣味だろうということが裏付けられる   

 自然の奇跡に魅せられた、丸豊の御主人。



マガジンラック
 何気ないマガジンラックに見えるかもしれないが、側面の貝殻細工模様のこだわりは、実に丸豊御主人らしいと、言わざるを得ないだろう。



汽車
 なんと、真裏には室蘭本線が走っていた。乗客に「空き家を物色している不審者がいる!」と通報されても嫌なので、咄嗟に身を隠す。

 さて、いよいよ、丸豊の玉座を手に入れそこなった、ビッグブラザーこと、カーマニアの息子の部屋へと侵入を開始する・・・・・・



つづく…

「引き出しの中の野望」 廃墟、『ドライブイン丸豊』の闇.5

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