ブラインド
 2階のもう一つの部屋にも、壁際には業務用の棚が置かれていた。応接室のようでもあり、そんなに余裕のある経済状態でもなさそうなので、きっと家族が集まりくつろぐ居間だったに違いない。夜には夫婦の寝室にと、兼ねていたのかも。

 上を見上げると・・・



シャンデリア
 70s風、スペイシーなデザインのシャンデリアがぶら下がっている。これを作ったデザイナーは安易に『未知との遭遇』に出てきたUFOから、もしかしたら着想を得たかもしれないが、選んだ御主人の方にしてみれば、徹底した『丸豊デザイン』を貫き通した結果によるものだろう。それはこれまで見てきた店外・店内の装飾品を見れば、もう言わずもがなである。

 大手家電メーカーの工業デザイナーより、北の果ての”いち”ドライブイン・オーナーでしかない御主人のデザイン哲学の方が、遥かに洗練され芯が貫かれているという、目から鱗ものの発見に、思わず膝を打つ   



外へ
 その真髄が凝縮された『丸豊電飾サークル』の塔が、こちらの部屋から常に見えるように配置されているのは、単なる偶然だろうか。



かっぺい
 合板の安っぽいカジュアルなタンスの引き出しに、『ダッシュ勝平』の色褪せたステッカー。

ダッシュ勝平(1)
『ダッシュ勝平』は、1979年4から1982年まで少年サンデーの黄金期を支えたバスケットボールマンガ。



引き出し
 同じくサンデー連載、『うる星やつら』のラムちゃんステッカーも。カーマニアの息子の愛読誌は、ジャンプではなく、サンデーだったようだ。

 東京だと個人でやっているお店がこっそりと土曜日にジャンプを売っていたりするが、その昔、北海道旅行をしていて、さすがに土曜は無理だけど月曜には売っているだろうと本屋に行ったら、<火曜日発売>だと知らされ、愕然とした思い出がある。ネット時代の現在ではどうでも良い発売日の時差だが、丸豊の息子が心待ちにしていた、数日遅れの少年サンデー、数日遅れの中古車情報誌・・・。

 募る地域格差への不満。東京一極集中からの疎外感。噂では神保町の交差点にある本屋では、サンデーなら月曜日に入手できてしまうとか   

 そんなどうだっていい些末な事の積み重ねが、やけくそ大暴走の引き金になったのか、ならなかったのか。


 マンガのステッカーを家具に貼ったりと、そこらの少年と何一つ変わらなかったような彼が、後に、人を殺めることになろうとは、想像だにしなかっただろうと、改めて鬱屈とした思いになりながらも、引き出しの中を確認すると・・・・・・



キャッスルお飲み物券
 先ほどもみかけた、『ミートハウス キャッスル』のお飲み物券が”ごっそり”とあった。

 仮定をしてみる。犬のおしっこが、縄張りを主張するマーキングならば、子供の貼るステッカーは、それと同じようなものと言えないだろうか。「この二段は僕の引き出しだよ」と。つまり、本丸のドライブインは父親が仕切り、付属的施設のミートハウスは、息子の担当ではなかったのか。

 羽振りの良いドライブインを拡張したかった父親から、高校卒業と同時に、新設するミートハウスの仕切りを頼まれた息子。二つ返事で承諾をする。彼なりに知恵を絞り、割引お飲み物券で釣る方法を発案。卒業した高校の同級生、その就職先の同僚、後輩、たっぷり印刷屋で刷ってもらったので、景気よくばら撒いた   



2階台所
 『キャッスル』という名は、あれほどの強い『丸』へのこだわりをもつ御主人のアイデンティティー、哲学からすると、あまりにも隔たれ過ぎてはいないだろうか   という気は薄々感じていた。

 全面的に親父の援助を受けながらも、独自路線を打ち出すことで、「少しづつだが親離れをしつつあるんだぞ」というところをアピールしておきたい息子。ゆくゆくは、あわよくば、丸豊を越えたい、と勿論、心の裡では沸々とその野望、思いをたぎらせる。



苔
 2階を見回ったが、限定された『子供部屋』といったものは無いようだ。居間兼夫婦部屋が2階。1階には車雑誌やミニカーなど、息子の遺留品が多く見られたことから、思春期ということで親から距離を保ちたいこともあり、彼の部屋は1階にあったのではないかと推測する。深夜にこっそり遊びに行ったり、彼女を連れ込むにも都合がいい。

 窓が開け放たれたままなので、自然の影響を強く受け、荒れた家族用の台所を一瞥し、今一度、1階へと向かう。


 最終見回りの1階では、見逃していた実に多くの『丸豊の断片(ピース)』を掘り起こすことに成功をする。御主人の趣味、原点、母親が習っていた意外な伝統芸能。

 そして、あの冷たかったファザーシップ、ビッグファーザーが廃墟探索者に魅せた、もう一つの側面、訴えたかったもの、沈黙のメッセージを受け取ることに相成る   


つづく…

 「許したファザー・シップ」 廃墟、『ドライブイン丸豊』の闇.6

こんな記事も読まれています