ホース
 時折裏手を通過する室蘭本線の車両から身を隠しつつ、逢ったこともない、面識も一切ない、失踪状態の”ドライブイン家族”の残留物を漁り、真実を紐解こうと孤独に抜け殻を彷徨う、肺虚散策者    



衣装ケース
 もう、2階には未練がないので、少し駆け足気味で見まわった1階を、最期に丹念に探索をしておきたい。

 この紙製の蓋は和服入れだろうか。丸豊母の嫁入り道具だったとしたら、これほど哀れな余生はない。着物だったら型崩れをしないように、入れ物ごと持ち出すだろうから、置いて行かれた挙句、中は侵入者によって弄ばれでもしたのだろう。

 夫婦の輝かしい歴史さえ奪い取った、”加速した息子”のフルスロットル   



たくぎん
 ありました。北海道廃墟物件について回る、<たくぎん>の痕跡。経理をしていただろう母。丸豊が栄えていた瞬間の、せめてもの証明(あかし)。<たくぎん>と丸豊の崩壊、どちらが先だったのかは知るべくも無いが、先日、西新宿のとある場所を徘徊していた時、なんとも、ずたぼろに成り果てた<たくぎん>の残骸と奇跡的に邂逅。

 『こんなところにまで、丸豊の呪縛が僕を引きつけるというのか・・・』
再訪、ひろゆきハウスの最期
 
 せめて、ドライブイン撤退は、息子の事件の影響によるもので、経営状態は良好でなんの問題もなかったことを、心より願うばかり・・・



手帳
 母親の遺留物付近にあった<吟道範典 第4巻>。どうやら詩吟がお母さんの趣味だったようだ。年頃の息子は、ちょっと下品なエアロで纏ったハイソなセダン。父はボーリング。配膳をしながら、鼻歌まじりに吟じる母親。

 絵に描いたような幸せな家族の像がいやでも目の前に浮かび沸き立ってくる。



鍾乳石
 2階にもあった父親の残像でもある、鍾乳石の痕跡は1階にも。どういう家庭環境で育つと鍾乳石に興味を持つようになるのか、見当もつかないが、とにかく、壮大な時間を経て形作られる自然の芸術に、心を強く奪われていたことは、間違いなさそう。

 とんかつやラーメンを作りながら、合間に、厨房の傍らで鍾乳石の写真集を開き、満足な笑みを浮かべるご主人。そんなささやかな幸せさえ奪ってしまった、事件、言うなれば、世間体という、村社会が裁くルール、無言の圧力に屈した、父・・・



見返りスワン
 先ほどは拗ねて背を向けていた”ファザー・シップ”が、今度は『わかってくれたかね』と言わんばかりに、廃墟散策者を暖かく迎え入れてくれ、その眼は、夫婦で仲良く鎮座して、穏やかであり、分別のある訪問者に平静を装うも、あまりの執着的な徘徊に、警戒心も見て取れる。

「もう少しで終わります」
 許しを乞うてみる。

 納得する父親と、凛々しい背中で応える”マザー・シップ”。改めて、苦渋の選択だったことは明らかで、誰がそれを責められるものではない。



伝票
 夜逃げ案件にありがちな、日記やプライベート情報が書き出されたメモなどはなかった。



倒壊
 部屋によっては崩れそうで危険な状態だ。



風景
 侵入者の流入を防ぐことはできない。せめて、僕だけはきちんとしておこうと思った。



乱雑
 崩れたのか。崩されたのか。



廊下
 息子のミニカーが行き着いた未来。一家が想像だにしなかった現在。デロリアンは<ホバーボード>や、<自動紐締めナイキ>をみせてくれたが、焼けただれた軌跡の先にあったのは、この廃墟。



籐製
 向こうは向こうで、マーティーはパーキンソン病と闘っていたり、現実は厳しくもある。



遠景の塔
 息子は悪くはなかった。まだ若くいくらでもやり直せた。
 これらを犠牲にしてまで抗うことのできない、見えない地域のルール。

 卒塔婆のような丸豊の塔から自分の車をフル加速させ、一時的に息子の気持ちを演じてみて、こみ上げてくる憤怒の思いを喉元で抑えつつ、少しのきっかけで物事が一瞬に破壊されてしまう恐ろしさを、体現できたかのような錯覚を味わう。いつ身に降り掛かってもおかしくはないと、戒め、次の廃墟へとまた進みだす。



おわり…


こんな記事も読まれています