つつじヶ丘 廃アパート 1階
 用意万端、満を持して、廃アパート敷地内へと足を踏み入れる   

 1階部分。安そうな傘が幾つもぶら下がっているが、住人の気配は無い。かつて、木造の風呂無しアパートに住んでいてことがある。まさにこのような感じで、1本の透明ビニール傘を掛けておいたが、2日後には盗まれていた。時はバブル期、日本経済が最高潮に達していた頃。現在の方が明らかに日本そのものが貧困化しているけど、この豊かに実っているバナナのような傘の束は何なのか。

 僕のアパートの住人にたまたま盗癖があったのかもしれないということか。
 


つつじヶ丘 廃アパート 傘とバッテリー
 ユアサのバッテリーにフットポンプ。バッテリーに関しては、最近ではただで引き取ってくれるどころか、お金さえくれる場合がある。前の住人か部外者が置いていったのかは不明だが、このバッテリーが放置されたのは、鉛の需要の変移を考慮しても、リーマンショック以前のことに違いない。



つつじヶ丘 廃アパート 1階のくも
 巣を張り巡らした、毒々しい柄の蜘蛛。前方を注視し、体を必要以上に折り曲げないとこの罠にはかかってしまうことから、ここ最近の訪問者はいないと推測。

 2軒ほど家が隣接しているが、どちらも雨戸を閉ざしていて空き家の様子。



つつじヶ丘 廃アパート 深淵
 咳払いや微妙にステップを強めに踏んで足音を鳴らしてみる。向こうからの反応は無い。



つつじヶ丘 廃アパート 1階奥
 1階1番奥の部屋。朝顔を育てていたのか、年月によるものか。廃アパート全体の緑化の第一歩を、ここに見る。



つつじヶ丘 廃アパート 1階奥より
 畑に森林、廃アパートに廃屋2軒。都会ながら陸の孤島のような辺鄙な場所に、アパートを建てた理由が、ますますわからない。



つつじヶ丘 廃アパート 2階へ
 自分以外の物音がしないことを確認しながら2階へと   

 先の踊り場で反転をしたその時・・・



つつじヶ丘 廃アパート 宴
 侵入者による賑やかな『宴』の跡を発見。捕獲したエロDVDを肴に発泡酒でも味わったのか。ヘビースモーカーとはいえ、わざわざ灰皿を持参して、吸い殻を綺麗にまとめているあたりは、最低限、紳士的な振る舞いのできる人間なのだろう。おそらく灰皿は常設状態になっていて、几帳面な”彼”は束の間の安らぎを求めて、ここへと度々やって来ているのかも。



つつじヶ丘 廃アパート 青年雑誌
 灰皿の位置からして、彼が座っていた場所に積まれたエロ雑誌。今時、紙のエロ本を本屋、もしくはコンビニで購入をし、それを隠れ家的な廃アパートまで持って来て、ビール一杯、読みふける   
 
 昭和で見かけたような光景だが、たまに街中で時間を持て余している時、立ち読みでもしようと本屋へ行くと、エロ本コーナーやアサヒ芸能等を売っている週刊誌コーナーにいるのは、お爺さんばかりなのに驚く。ネットへ入っていけず、現代の情報社会から取り残されてしまった、でも性欲だけは強い老人が最後に行き着くのが、本屋のエロ本コーナーという、格差社会の暗部、底辺部・・・



つつじヶ丘 廃アパート 青年雑誌寄り
 「人生を踏み外せばおまえもこうなるぞ」と、頭の中で3回唱えて、敢えてトラウマにすべく、眼の前の光景を目に焼き付ける。
 


つつじヶ丘 廃アパート 上からハイエース
 廃アパートでの絶望的な情景に気が重くなり、気分転換にと見下ろすと、上からのハイエースとその死角にゴミの山。先程は確認できなかったルーフ部に、年月による退色、劣化がある。長期間放置されているのは間違いない。



つつじヶ丘 廃アパート 2階共用スペース
 2階の共用スペース。そろそろ、唯一住んでいる可能性のある『小林』さんの部屋へと近づく。漂う生気を全く感じられないが、ご在宅なのだろうか。



つつじヶ丘 廃アパート 2階表札
 特注らしい『石取當(あたる)』さんこだわりの表札。自分の苗字の『石』に強い思い入れと誇りを持っていたようだが、立ち退き時には置きっぱなしにして行ってしまった。


※コメント欄よりご指摘を受けましたが、これは「石敢當(いしがんとう)」と呼ばれるもので、中国の福建省由来、沖縄や九州では魔除けとして用いられている石標のようです。

 ということで、メィゾンつつじヶ丘には、中国の人か沖縄出身者の方が住んでいた可能性が大いにあり。

 その昔、不動産屋で部屋の見取り図をペラペラとめくっていた時のこと。あるアパートの図に赤ペンで「沖縄の人×」とあったので、店員に「どういう意味ですか?」と聞くと、沖縄出身の人の部屋に毎晩大勢の人が集まり、酒盛り大会を連日行うので、懲りた大家さんがもう二度と沖縄の人とは契約をしたくないからとのこと。

 今だったら人権問題にも発展しかねない事柄だが、当時、偏見がまかり通っていた時代にも、メィゾンつつじヶ丘の大家さんは、沖縄出身者だったかもしれない住人を、その包容力で温かく部屋へと迎い入れ、魔除けの石標まで設置を許していたということなのか。
 


つつじヶ丘 廃アパート 2階ドアノブ
 ドアノブに、拙いポケモン知識を総動員するとこれはたぶん『プクリン』。初代のポケモンが発売されたは1996年なので、少なくともその頃までは、子供のいる家族が住んでいた。





つつじヶ丘 廃アパート 2階の小林さん
 遂に小林さん宅の前に。表札には訪問販売業者がマーキングをすると言われているが、その形跡は一切無し。本気モードではなく、もし中にいてもできれば気づいて欲しくないので、そうとう弱々しくドアを叩いてみる。

 反応無し。耳をドアにあてて澄ましてみても無音だ。この状況でもし住んでいたら、本当の占拠屋なので、いずれにしろあわなくて正解だろう。



つつじヶ丘 廃アパート ネーム
 3階まで来た。メィゾンつつじヶ丘のロゴ。時折横の道に人が通るが、こんな廃アパートで撮影をしている人間をみてどう思っているのだろうか。通報を避けるため、適当に口元を動かし、SUUMOに登録しようとしている不動産屋の体でそれらしく振る舞うなど、細心の注意を払いながら行動中。



つつじヶ丘 廃アパート 屋上へ
 エロ本お爺さんは登ったのか、登らなかったのか。



つつじヶ丘 廃アパート 2階奥
 無作為にドアノブを握って施錠チェックをしてみたが、どこも閉まっていた。



つつじヶ丘 廃アパート 畑より2
 最後に、遠景より撮ろうと畑の縁部分に入り込んで撮影をしていたら、

 「農協の人?」

 前歯の無い老人より声がかかる。ここでは正直に、
 「古い建物が好きなんです」
 と言ってみる。あまりにも不自然なこの建物の秘密が、もしかしたら聞けるかもしれないと思ったからだ。

 格好などを見て違うと思いつつも、地主さんですかと尋ねると、アパートの地主さんとは懇意らしく、「あの人は甲州街道の向こうに住んでいる」そうだ。建物はもう数十年もこのままで、”もったいない”を連呼していたが、「この場所じゃしょうがねえな」と捨て台詞を残し、足早に去って行った。

 もしや、との直感が働き、撮影を終えてカメラをメンテするふりをして、その老人の足跡を遠目で追う。よろよろとしながら、アパート方向へ一旦行きそうになるが、真反対の方へと、視界より途切れる。

 前歯の無い親切なご老人が、あの、踊り場エロ本お爺さんではなかったことに安堵しつつも、自分への将来的な戒めの意味も込め、退廃的な宴の惨状を思い浮かべ反復し、階段で座りこんで読みふける老人の顔を、イメージの中で敢えて自分に置き換え、

 「もっと出世しよう!!」

 どこにぶつけていいのかわからない怒りの発露を、ペダルにのせ、何かを悟ったような後ろ姿を帰宅途中の学生に見せつけながら、コンビニに一旦寄りそうになるも、はたと気づき、多少晴れやかな顔で、家路についた   



「廃アパートのスーツケースを開く」1日1廃【小ネタ】

終わり…

再訪、廃墟アパートの幽霊住人を検証しに行く 

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