北朝鮮旅行 寝台コンパートメント
 平壌駅行きの夜行列車に乗り込む。中国国内での寝台コンパートメント使用は、正確に言うと2回目。前回は北京駅から満州里経由、モスクワ行きのシベリア鉄道。その時のコンパートメントは、ベッドが縦に3台並んだ3人部屋で、今回の部屋と比べて半分ほどの狭さだった。当時、北京からのシベリア鉄道のアレンジは、「モンキービジネス」という旅行会社が定番だった。僕もそこからチケットを買ったのだが、モスクワ市内のいかにもバックパッカーおあつらえ向きといった、ドミトリーも用意してもらい、値段はそこそこ、満足できる内容だった。ちなみに、僕以外にはドイツ人、オーストラリアに留学中の日本人が一緒のコンパートメントだった。僕も日常英会話ならそつなくこなす方だが、もう一人の日本人は発音も流暢なペラペラの英語を話した。しかも授業で覚えたというドイツ語ダンケシェーンに始まり一通りの挨拶を披露。しまいにはドイツの童謡をフルで歌い出すもんだから、同乗のドイツ人は大喜び。二人して気が合い盛り上がってずっと喋り通していた。苦痛なまでの疎外感を味あわされた僕は始終、最上段のベッドに横たわり、「体がだるい・・・」と嘘を言い、窓の外に広がる退屈なシベリアの原野をずっと眺めていた。

 バッグを座席に置く。2段ベッドが2つある4人部屋。シベリア鉄道の時と違い、いくぶんかゆったりとした部屋だ。国際線のシベリア鉄道の車両には中国版とロシア版があり、当然作りや装備が違うわけだが、僕の時はたぶんロシア版だったと思う。乗車して3日目にドイツ人が「頭が痒すぎる」とロシア人の車掌に泣きついたら、30cmくらいの細いホースが付いた漏斗を貸してくれた。僕もドイツ人の次にそれを使用したのだが、要はトイレ内にある手洗い用の水道の蛇口から出る水を漏斗で受け止めて、漏斗の管につながっているホースより流れる水をシャワーとして使う、という代物なのだ。実際やってみたが、生ぬるいお湯が出たのは良かったものの、水圧が雀の涙、チョロチョロでお話にならず、頭皮を湿らす程度が精一杯。しかも、水を温めるのに炭を使用しているため、それがお湯に混じっているらしく、頭皮と毛根部分が真っ黒になってしまった。

 今回はコンパートメントに僕一人。「国境越えオナニーが捗るな」などという、中学生みたいな発想が浮かんだか、浮かぼうかとしていた、その時、静寂を破り扉が開かれ、2人組のスーツ姿の男が入ってきた。先客の僕がいるとは思っていなかったらしく、相手も少し驚いたようだったが、僕から英語で挨拶をしてみると、上司と部下に見える2人のうち、若い部下らしき男の方が、英語で返してきた。

 彼等は早々に着ていたスーツを脱いで畳むと、2人とも似たような上下ジャージに着替えて、くつろぎモードに入った。

 上司の方は英語が話せないものの、終始にこやかで人当たりは良さそうだし、部下も拙いながら英語を話してくれて、笑みを絶やさないでいる。どうやら北朝鮮へ行く中国人のビジネスマンだろうと思った。

 窓の外のプラットホームをみると、おそらく朝鮮労働党の幹部の人達ではないかと思われる、30人ぐらいのスーツを着た集団(全員揃いの黒)が、横一列に並び、壮行会のようなものをやっていた。全員黒スーツ姿の軍団はあまりにも異様で威圧的であり、押しの強い中国人達も彼等を警戒しているのか、遠巻きにして近寄らず、わざわざ距離をとって周囲を行き来していた。

 「全員黒装束なんて中国の人でも怖くなるでしょ?」と北朝鮮の人達を皮肉交じりに茶化す内容を、英語を話す部下へ投げかけてみる。その他、「あんなに箱詰の荷物があるけど、電化製品でも密輸してたりして」とか、会話が弾みそうな話題をふってみるも、いまいち反応が薄く、トークが咬み合わない。もしやと思い、
「ひょっとして北朝鮮の人ですか?」と聞いてみると、2人とも満面の笑みでニ度三度頷いた。

 国際版都市伝説としてよく囁かれ話で、北朝鮮のホテルには各部屋に盗聴器があり、シャワーのお湯が出ないと口に出すと、翌日には直っていたり、もう一個欲しいと言ったコップが勝手に置かれていたりと・・・ のような話は聞いていたから、まさか北朝鮮人民と日本人を同一コンパートメントに同乗させたりするなんて、ともすれば、北の国家体制への不信不満を強く抱かせるような、人民に知らされていない貴重な情報が、僕の口よりもたらされる可能性もなきにしもあらず、なのだが、一体、どういうことなのだろうか。

 厳格な監視体制なんかは実は無いというか、そこまで(中国の列車コンパートメント内)手が回らないのか。日本人といえどもバックパッカーレベルの人間などマークなんかされないというのか。

 意外にも話やすい感じの北朝鮮人のお二人。聞けば、車の部品のセールスマンだという。ロシアや中国で商談を終えての帰りだとのこと。ということは、北朝鮮内で部品を製造しているということになるが、果たして本当だろうか。今の世の中、北朝鮮国内で作られた製品、部品を、車に組み込んだりして、採算性など取れるのだろうか。そもそも、中国製やロシア製とはいえ、国際基準に見合うようなる品質をクリアしているのか。車部品は隠れ蓑で、冗談ではなく、核兵器関連の部品でも売り歩いているのではないかと思った。

 その他、食糧不足や飢饉のこと、モスクワのホテルでのコールガール体験など、打ち解けたということもあり、驚くほど、いろいろと興味深い話を彼等はし始めた・・・



つづく…

「入境、中朝友誼橋」 バックパッカーは一人北朝鮮を目指す.4