エリア8ビル 金属壁
 情報提供者により、西武新宿線の下落合駅近くに位置する、とある廃墟マンションの情報が寄せられる。

 「あまり見たことのない”巨大な金属製の目隠し”で全体を覆われた、不気味な廃マンションを見つけました」とのこと。

 彼によると、「おそらくこの廃マンションのオーナーは向かい側にある豪邸の主(あるじ)の可能性があり、高層階のマンション住民より見下ろされ覗かれる状態になることを避けようと、静かな住宅街には不釣り合いで大仰な、金属製の巨大遮蔽板を設置するに至ったのではないか」と。

 メールに添えられていた廃マンションの画像をみると、確かに、熟練職人により丹精込めて作られた「おろし金」のような金属製の覆いが、マンション前に築かれている。

534701 スーパーハイカット銅おろし金特大1 5196y



 送られてきた画像を凝視すると、屋上スペースは住民に開放されていたような痕跡があり、廃墟マンション完全登頂も可能のようである。屋上への入口が、団地などによくあるような人ひとり通れるか通れないかの、アンテナ設営時のみ使用する非常用の小さい穴ではなさそうだ(一般的に使用されているので)。

 以前に探索に行った「都会の森に埋もれた廃アパート」では、屋上を目指したものの、まさに上記のような電気工事士ぐらいしか使用しないような「穴」だったこともあり、上への侵入は断念した苦い思い出がある。

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 更なる補足情報としては、すぐ横にも廃墟が隣接しているなど、何かと収穫も多そうなので、早速、駆けつけることにした。

 そこにて判明をしたことは、隣接する廃墟というかゴミ屋敷の成れの果ての荒廃した廃屋と廃マンションのただならぬ関係性。加えて、廃屋横の新しめの家と廃マンション、この3つの意外な相関関係。情報提供者が見逃していた、廃墟マンションの真のオーナーとは   
 
 【情報提供者である”サブ”さんには、重ねがさね、この場を借りてお礼申し上げます】



エリア8ビル 木々2
 向かいの豪邸横に球技場があるわけもないから、飛んでくる異物から建物を保護する必要はない。建物が密集しているので強風避けでもない。周辺にマンションはたくさんあるが、このような巨大金属板を設けているのはここだけだ。

 家屋の屋根にアンテナを数十本も設置する人がいるように、「サイコパス」という線も捨てきれない。



エリア8ビル ごみ
 「電磁波からマンションを守っているのだ」と叫ぶようなオーナーの可能性もあり、いつでも逃げ出せるような態勢、心構えで臨むことにする。まあ、そういうことも十分考慮済みなので、このような活動に於いては、常に俊敏に動けるよう軽やかなジョギングシューズを履くようにしている。

 ジョギングシューズが良いもう一つの理由。カメラの構図を変えるためしゃがんだり立ったりする時に、足背(そくはい)への負担がかかるが、ジョギングシューズだと素材が柔らかいために、しなやかに可動、動かせる。これがブーツや安全靴だったりすると素材が固いため、足を折り曲げられず、半中腰のような状態で「どうしよう・・・」としばし考えこみ佇むことになり、大変情けなくなる。

 ただ、北海道の山の中などでは、もっぱらロングのコンバットブーツである。瓦礫や泥濘だったりと、条件が違うのでいたしかたない。それでもってのローアングル時足背部圧力分散方法は、恥じらいがありつつも、大股大開脚で臀部を惜しげも無く開け広げることである。相撲取りのような股割りまではいかないが、今ではそれなりの角度を出せるようになってきている。大開脚をしつつカメラを構えているという、傍目から見たら変質者的な格好になるが、北海道の廃墟では一日いても自分以外を見かけないようなところばかりなので、屋外でどんな醜態でも存分に晒すことが可能となる。



エリア8ビル モニタ
 目隠し廃墟マンション前に捨てられて行った廃品の山。

 エンジニアが、究極の排熱性でも追求したのか、全身穴だらけの、蓮コラのような、ブラウン管モニター。東京だと、お金を払っても市は引き取ってくれず、業者へ持って行こうにも数十キロもある重量を担ぐのは不可能。「怪しげな廃墟マンション前に捨てるしかないでしょ」と、当たり前のように置き逃げされたようだ。

 数年前だったらブラウン管モニターやブラウン管テレビは業者が引き取ってくれてお金までくれた。東南アジアでまだ需要があったのだ。ところが、今や、かつてブラウン管を必要としていた国の彼等が、下手をすれば日本人より裕福になってしまい、「日本は物価が安い!買い物天国だ!」と日本へ買い物ツアーにやって来るようになってしまった。対照的に、金が払えず、廃墟に不法投棄をする日本人・・・



エリア8ビル 時計
 豊かだった頃の日本に時計の針は戻りそうにもない。

 先日、たった1スクープのアイスが100円ということで、女子高生達が行列を作っていた。ネットのニュースにはその光景を「まるでディズニーランド!?」と形容するものもあった。日本の現状が貧し過ぎて涙が出てくるような話である。行列の横では、タイ人や中国人が、化粧品や家電製品を買い漁っているというのに。

 まだ日本の景気が良かった頃、短期間だが渋谷で勤務をしたことがある。109の前をいつも通るのだが、毎日といってもいいほど、何かしらのサンプルを配っていた。時には、市場価格1000円以上もする外国製の100%ジュースのボトルもあったりした。

 当時の渋谷では毎日が大盤振る舞いのようで、それこそ、飲み物やスナック類は自腹で買う必要のないほど、ため込むことが出来た。100円アイスで並ぶ現在の女子高生達をバカにしつつも自分は、109前の無料配布のジュースやスナック菓子を貰うため、列に何度も並び直したり、同じ人からでは気まずいので、行ったり来たり、サンプリング要員のお姉さん達の間を渡り歩いたりした結果、バッグの中は無料クッキーとハイチュウで溢れんばかり、なんてことも・・・



エリア8ビル ボルト
 錆だらけ。かりん糖のような風合い。工業用の大きなネジまで捨ててある。金のみならず、公共のモラルさえ失ってしまったのだろうか。



エリア8ビル 松崎ビル
 不法投棄の品々から一旦離れ、廃墟マンションの裏側にあたる踊り場付近を彷徨っていると、目に飛び込んできたのがこの看板。マンション名の表記は見つからず。

 確認したところ、向かいの豪邸の主人がこの廃マンションのオーナーでないことが、どうやら判明をした。では、誰が?という謎が湧き上がる。

 目隠し遮蔽板はやはり、発狂をしたオーナーによる、電磁波からマンション守るための建造物であるのか。それとも、このマンション・オーナーと、豪邸の主(あるじ)との確執が生み出した、妥協点を模索したうえでの、最終結論なのか。



エリア8ビル 目隠し
 重厚な鋼材で組み上げられた巨大な遮蔽板。

 豪邸の主(あるじ)はこの辺りの有力な権力者であると仮定する。その彼の邸宅真ん前にマンションの建設が決定した。「おまえは俺の家を上から監視するつもりか!」マンション・オーナーに凄む主(あるじ)。さりとて、マンションのオーナーだって、庶民からみれば財力による、世間に通ずるある一定の力を持ち合わせている、権力者でもある。それゆえ、二人による、見える見えないの景観闘争が勃発した   

 解決策として生み出されたのが、この無用にも思える、巨大な金属の壁なのか。遮蔽目的なら木立で十分ではないかと考えられるが。



エリア8ビル 壁
 ボルダリング用に良さ気な反り立つ壁。



エリア8ビル 目隠から
 この先では、まず、建物の表に回り込み、住居部分の窓を詳細に拡大をして、廃マンションであることの再確認を実行する。そして、その昔に営業をしていたという、一階部分の「エリア8カフェ」を詳細チェック。更に、隣接する廃屋を調査することで、付近一帯の有力者達の権力構造が判明をすることになる   



エリア8ビル カフェ
 廃マンションの一階店舗部分には、前を通る新目白通り「都道8号」から名をとったと思われる、「エリア8カフェ」が併設されている。もしや営業中かとも思われたが、中をを覗くと什器類は撤去済みの空洞状態だった。

 営業を開始したのは、建物の風化具合も鑑みて、ドラマ「Xファイル」が流行っていた1990年台頃か。

 四方周囲を徹底確認してみたが、マンション名の痕跡を示す表記は一切見当たらない。あるのは、しいて言えば、例の個人名を冠したビル名のプラスチック製ボードぐらい。

 近所の人が、廃墟になってある程度時間が経過をしたこの廃マンションの名を呼ぶ場合、どのように表現をするか考えてみる。裏の目立たないところに掲示されている、あのプラボードをみる人はごく僅かだろう。ただでさえ、廃墟化して物騒な佇まいであるのに、不法投棄品が陳列された裏側へノコノコやって来るのは、そこを通り道にしている、ある一定の限られた付近一帯の住民か、廃墟趣味の変わり者などの、極めて限定された人達だ。なので一般的には、目立つ場所の際立つ表記でありキャッチーでもある、「エリア8カフェ」のイメージが強く頭に残り、それをマンションの名と無意識に結合させるだろう。「そうそう、なんだっけ、あそこにある誰も住んでないマンション、エリア8の上にあるやつ・・・ エリア8マンション   」 

 便宜的にそう呼ばれている可能性が高いと考えられる「エリア8マンション」。カフェ周りをなお一層の検分を行い、その後、周囲一帯の廃墟・廃屋の詳細探索を遂行。後に、完全登頂を目指すべく、ドアノブ
による住居確認を行いつつ、上へ上へと屋上踏破に向けてただひたすらに突き進んで行く   
 


つづく…

「オーナーの微笑み」 廃墟、『エリア8マンション』~完全登頂記.2 

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