洞爺湖 飾り
 とうやこ幼稚園の庭、というか、長期放置されていなかったら、そこは運動場だったのか。かつては園児の笑顔で溢れていただろうその場所には、いくつかの錆びた遊具があった。



洞爺湖ようちえん 草
 正式名はなんだろうか。少し調べたところ、「ジャングルジム」として一括りにする人や、「ジャングルジム アーチ」のように、ただ付け足している人、「アーチ型雲梯(うんてい)」のように、正式な学術名であるかのように呼んでいる人など、どうも統一されたた呼称は無いみたいだ。なので、それらの間を取って、「ジャングルアーチ」と僕の中では名付けてみた。



洞爺湖 ジャングルアーチ
 ジャングルアーチに間近まで寄る。

 地面よりの不均衡な力が鉄柱に伝わった結果、大型ハンマーで殴られたような窪みができている。

 足で圧力を加えて強度を確認する。誰もいない元幼稚園の敷地内の遊具を、いい歳をした大人が、幼少の頃に戻ったような無垢な顔をして、アーチに登ってみようと試みる。

 ちょうど、頂の付近まで登って留まる。

 それから、アーチの尾根に仰向けに寝るようにして、頭部を下にする。逆さ貼り付け状態。尻は凹んだ窪みにピッタリ収まった。背中はジャングルアーチの曲面に沿うようにして密着。体が落ちないように、足の甲を鉄枠に引っ掛ける。



背面跳び
 しばらくの間、背面跳びのまさにその瞬間の写真のような絵面で静止した。瞼を閉じると、意識が薄れていき、睡魔が襲ってくる。

 誰もいないし来ないから、熟睡しても一向にかまわない北海道の奥ゆかしさに、心から感謝をして、安心して意識を遠のかせてみる。



洞爺湖 天井
 地獄のような入口を目にする。夢か現実かの区別もつかないぐらい凄まじい光景。

 ここまでの被害を受けていたとは、想定外だった。



洞爺湖 天井2
 噴石が打ち破いたのか、建物の劣化だろうか。損壊部からの雨や雪の流入により、建物全体の崩壊は一段と加速をする。どこの廃墟でも見る瓦解の前兆だ。



洞爺湖 残骸
 自然災害の恐ろしさを未来へ伝えようとの判断を下された時から、これらには手が加えられず、ただ朽ち行くのみの運命に。



洞爺湖 ベアー
 そんな荒廃をした絶望的な中にも、一筋の光明があった。

 探索者を瓦礫の深淵へと導いてくれたのは、微笑みのフロンティ君。

 ”フロン”から想像するに、ガス(フロンガス)会社のマスコットだろうか。



洞爺湖 フロンティ
 状況を知ってか知らずか、無邪気に、「あの椅子に座ってみたら」と言わんばかりに、木まで生えている廃墟化した職員室へ招き入れる、フロンティ。



洞爺湖 フロ
 現実と妄想の狭間を徘徊する”廃墟探索者”には、このフロンティ君が不思議の国のアリスの白ウサギに思えた。

 ついさっきまで、リア充カップル達の眩しい愛のふれ合いを堂々見せつけられ、気まずく隠れるようにして逃げ帰っては来たが、この世界では水先案内人の彼の通りについて行けば、迷うことはないだろうし、大恥をかいて、赤面ものの失笑を買うような失態も防げるだろう。



洞爺湖 チェア
 椅子の上には先生お手製の座布団があったと思う。その上に天井のパネルが落ち、水分をたっぷり含んだ座布団とパネルの相乗効果で、腐食が加速度的に進行中。

 彼に言われるままに、これに座ったら、ボロボロに砕けたパネルの屑の粉が、スボンにまぶしたように、かつ、繊維の奥に入り込んで、拭いても拭いても白く伸びきって擦れた状態になる。

 咄嗟の合理的な判断で、どかっと腰を下ろしてしまうことを回避する。



洞爺湖 背中 彼の首に注目したい。

 この大惨事の中、ほぼ無傷であるばかりか、倒壊した机の角で首部分を支えられて、まるで仁王立ちして立ち尽くしているようにに見える”フロンティ君”は、軌跡の生還者であるとしか言いようが無い。

 調べてみたら、このフロンティ君、1989年の北海道はまなす国体のマスコットキャラとのこと。

 おそらく、北海道を象徴する言葉でもある”開拓”から名付けたのではいかと思われる

 幼稚園だったらポケモンやミッキーなどがもてはやされそうだが、ここは職員室である。取引先や経営者のしがらみが優先するのだろう。大人の事情による結果として、職員室のアイドルマスコットとして長期に渡り愛され、大災害に於いてもただ一人生き残ったのが、彼という存在だった。



洞爺湖 天井抜け
 ほんの少しずれてこの真下にいたら、現在の彼の振る舞いは無かった。机が背後でもんどり打って斜めに倒れなかったら、立ち姿でのまるで生霊であるかのような躍動感のあるお出迎えは、あり得なかった。偶然が、4つぐらい重なっての、奇跡。



洞爺湖 あおぞら
 父母の会が発行をした「あおぞら」。平成12年の3月は、まさに、2000年の噴火があった時期。

 多少の絵心があった親御さんが描いたに違いない。線に迷いが無い。実に手慣れたイラストである。



洞爺湖 カルタ
『にっこりと こっちを むいてね はい パチリ』 

先生方が、園児に言葉を憶えさせようと、用意していた「カルタ」。


『あめの ひは いつも ふたりで おでかけさ』

 まるで火口展望台での僕を嘲笑っているかのような内容に”ドキリ”としたが、これは、子供用の親子で楽しむカルタである。内容は、雨の日の幼稚園送り迎えを想定しているに違いない。よって、お母さんと子供のことを”ふたり”と表現していると思われる。



洞爺湖 立哨
 侵入者から”とうやこ幼稚園”を守るべく、まるで立哨でもしているかのような、あらゆる奇跡により成し得られた、フロンティ君の奇跡の構図。

 よく凝視すると、後頭部の毛並みが顔のようにも見える。満面の笑みで出迎えてくれたはずの彼が、今度は泣き出さんばかりに、悲しげに手をふって別れを惜しんでいるようにも見えた。


 次には、2頭の象によって守られているという、トイレのチェックを、まだ醒めやらぬ非現実の滞留する時の中で、覗いてみてやろうと、ジャングルアーチ上で逆エビ反り状態のプルプル震える体をして、足元だけは前後に軍隊歩調で、目的の場所へと向かい出した   



つづく…

「予見されていた業火」 廃墟、とうやこ幼稚園と噴火遺構.5 

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