カローラ廃屋 ママチャリ
 横尾忠則の「Y字路」を彷彿とさせる、「Y字路の廃屋」があるから是非見に来てくれと、情報提供者よりの誘いを受け、訪問してみることにした、今回の物件。

 場所は、西武新宿線の下落合駅から徒歩五分もかからない、駅前で購入をした「からあげクン」がまだ熱々のままいただけてしまえるような、ほぼ駅前と行っても差し支えない近い距離にそれはある。

 住宅密集地だが、見えて来たのは、原生林のように好き勝手に伸び放題の、森林レベルに膨れ上がった木々で周囲を威圧している、とある敷地。

 突如出現する道にせり出した街中の異様な群生林に、ママチャリで走行中の、恰幅の良い主婦も、心なしか距離をとって走行中。

 それにしても、電動アシスト付き自転車が普及したせいか、明らかに体力不足の太目の中年女性が、とんでもないスピートで街中を疾走して行く姿には、毎度のこと驚かされる。



カローラ廃屋 Y路地
 横尾忠則の場合、少年時代に通った模型屋が無くなっていて、その跡地をカメラに収めたことが、「Y字路」の作品作りの発端となったようだが、この見事なまでのお手本のような”Y字路”の突端には、一台の廃車両が置かれていた。



カローラ廃屋 車庫
 見覚えのある車両。

 廃車両と断定をしたのは、僕のよく知る車種だからでもある。



カローラ廃屋 うしろ
 カローラ2。ハッチバック。

 僕がよく知るカローラは、こんなに丸みを帯びていなくて、カクカクしたやつだった。

 アメリカに数ヶ月住んでいた時、これの前ぐらいの型のハッチバックのカローラ2を所有していた。日系人から2000ドルで買ったはいいが、既に10万キロを走行していた過走行車だった。北米大陸旅行に出たものの、途中でオルタネーターが故障をしてしまい、バッテリーがゼロになり、ハイウェイのサービスエリア(地平線が見えるようなただの大地)で一夜を過ごす羽目になったり、フレームが曲がっているからなのかすぐ偏摩耗をしてタイヤがパンクをしてしまい、空気の抜けた細いスペアタイヤのまま、サンフランシスコ市内を丸一日走らされたりと、とにかく、散々な車だった。

 それだけに、世代は違うものの、馴染みがあり、愛着があり、郷愁さえ感じる、あの「カローラ2」と、この時代、東京のど真ん中で、巡りあう偶然   



カローラ廃屋 うしろ2
 まずチェックしたいのが、ナンバーの地域表記。廃墟だからといって他所から来て車両を不法投棄する人がままいる。これはこの土地の所有者の物だったとみて間違いないだろう。

 この車種の販売期間が1986年5月~なので、バブルの頃、なんらかの原因で家ともども、手放された可能性が高い。

 Y字路の廃屋、実はこの車両から背後へと、かなりの土地面積があり、まるで幽閉されたかのようなブラック・スポットの敷地内は、廃屋一軒だけではなかった。



カローラ廃屋 前部
 車検証でも確認してやろうと意気込んだが、助手席側は大木が邪魔をしている。運転席側は密接した枝で前進が不可能。強引に押し切ったとしても、ズボンが擦過痕だらけになり、帰りの電車内で非常に浮いてしまうことになり、想像するだけでも、その状況は耐えられそうにない。

 それにしても、新宿に近くて通勤にも便利なこの場所。小奇麗な住宅が並ぶ治安も良さげな界隈。家屋数件が建ち並ぶ広大な敷地が、30年ぐらいも放置されているとは、おそらく三世代家族がそれぞれ入居していたと思われるが、一体、何があったのだろうか。家屋も車もある日突然捨てられていったという状況のようなので、ここもまた、今まで僕が見てきたような廃屋と同様、「夜逃げ」なのか、「事件」なのか、ボンネットに積もる枯れ草の山を見て、ますます疑問を深まらせずにはいられない。



カローラ廃屋 フェンス
 ここの廃墟敷地内では、一番格上と思われる二階建ての建物が見える。周囲は切れ目なく塀で囲まれている。




カローラ廃屋 ポスト
 開けられたままのポスト。個人への郵便などは無いことから、住民失踪?の事実は関係各所に行き届いているようだ。



カローラ廃屋 一階
 一階部分は雨戸もきっちり閉じられている。ということは、不意の蒸発でもないのか。

 この建物は今すぐにでも住めそうなぐらいの、グッドコンディション。



カローラ廃屋 消火器
 なんとか行けないものか。

 石垣の塀から枯れ草や落ち葉などが、こぼれそうになるほど、堆積してしまっている。足場は沈みがちで軟弱そうだし、ひしめき合う住宅街、四方八方360度に監視の目がある。

 おまけに、すぐ背後にお洒落な江戸小物を売る店があり、今この瞬間にも、出入りの客が、人からすればカメラを雑草に向けているとしか思われないこの哀れでもある光景を、怪訝そうに彼らは見ているに違いない。

 休日の昼間に、いいおっさんが、通報のリスクを冒してまで、人様の土地へ侵入をするなど、やる価値があるのだろうかと、今一度、熟考してみる。



カローラ廃屋 中村
 もうひとつのポスト。中村さん。

 バブル経済最高潮の頃、それともはじけた後? カローラ2を置いたまま、下落合より姿を消した、中村さん一家。



カローラ廃屋 メーター
 木造の平屋もあった。お爺さん夫婦のだろうか。メーターは不動。電動アシスト自転車のおばさんが通ったあたりにも一軒あったので、合計、三軒の廃屋が、この敷地内の森に存在することになる。

 三世帯家族が、一斉にどこかへ消えてしまったのか。



カローラ廃屋 裏口
 下落合の住宅街に突如熱帯雨林が出現しかのよう。

 枯れ草や落ち葉は、門の上部まで溜まっている。もし門に足をかけて中へ飛び降りたら、すっぽり首まで埋まりそう。



カローラ廃屋 全景
 寄れるまで寄って、なんとかここまで接近する。人の気配は勿論ない。カラーコーンにはどのような意味が?



カローラ廃屋 前景
 どうにか(中へ)ならないもんかと、目の前に人参をぶら下げられた馬のように興奮し、地団駄を踏みつつ、周囲の死角を入念に再チェックする。

 その時、ある一枚の妙な紋章を目にする。それは、僕が人生において、初めて見るものだ。それを取り込んで画像検索をしてみても、同様の物は見つけられなかった。この周囲にも似たようなのがあるのかと、半径20メートル(疲れるので)を確認してみたが、どうやらここにあるものだけのようだ。この廃屋周りにも一切他には無かった。つまり、唯一無二、誰かが何かを伝えるべく、ここの廃屋前だけに、掲げた紋章ということになる。



カローラ廃屋 マーク
 はじめはQRコードかと思い、スマホを取り出す寸前までいった。よく見ると模様のようであり、シンメトリーだ。下の紋章は上のを逆さにしただけ。

 鳥よけも考えられるが、それだと廃屋横に一部(上下二枚)だけ掲げる意味が何も無い。

 麻ひもで丁寧に結ばれているなど、一々仕事が細かい。



紋章2
 よく観察をすると、シンメトリーではなかった。気付いた瞬間、背筋が寒くなる。

 眼球のようなものが、もう片方では三日月のようになっている。



ゴミ屋敷BMX
 これは、以前訪れた近くのゴミ屋敷。パープルの自転車に注目して欲しい。



カローラ廃屋 自転車
 どちらも錆だらけの不動車。安物の怪しい”いかにも”中華製の会社名も共通しているし、BMX自転車という共通項もそうだ。何か意味があるのだろうか。なんらかの組織による”マーキング”の可能性が強いと思った。

 この「Y字路の廃屋」の周囲を更に三周ほど周ってみたが、紋章やBMX自転車マーキングの謎に関する手がかりは得られなかった。近所の人や、江戸小物の店の人に訪ねるほど厚かましくもないので、しようがなく、冷めたからあげクンの残りを頬張りながら、後ろ髪を引かれる思いで、微妙な謎を残しつつ、駅へ戻ることにした。



終わり…

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