第一滝本館 鹿の顔
 登別の廃墟中華テーマパーク「天華園」で己の中の「中国」を、あの五重塔の中で発見する。

 あの頃の慎ましかった中国に、なんと、登別の山の中で触れて、あまりにも変貌してしまった、現在の彼らと比較をして愕然としながらも、『いつか憑物はとれる、この国だってそうだった』と、固くそう信じて、何もかもが輝いていた当時の中国旅行の思い出にむせび泣きながら、玉のような大粒の涙をぽろぽろと、塔の床へお洩らしのように染み込ませた、ひと秋の切ない経験。

 紅葉した山より充血をした目をこすりこすり、登別の山の中を車で走り抜けていたその時、突如、現れた、コンクリート製の建物。

 廃墟探索をする場合、大概事前に大まかにでも場所などをチェックしておくものだが、ここに関しては出合い頭といってもいいくらいの、思いがけない遭遇ともいえる物件だった。



第一滝本館 道横
 こんな場所によく建てたものだなと感心するくらいの、山の中。

 立地がよく著名な廃墟では、引きも切らず訪問者が敷地内を徘徊していて、すれ違いに挨拶をかわさなければならないほどだときくが、ここは北海道。毎度のこと最後まで僕ひとりだけだった。

 一見して、病院のようにも見える。

 ここは新登別という山間(やまあい)の温泉地。この建物が温泉関係の施設というのは、大方予想がつく。



第一滝本館 メイン
 最大限に陽の光を取り入れようとデザインされた窓の配置。

 老人ホームや保養施設、サナトリウムのような雰囲気もある。天華園といい、立地場所とコンセプトのどちらもが、ことごとく失敗をしているようだ。

 北海道の山の中に中国庭園を作っても、道外の客なら現地へ行った方が安い。鄙びた温泉街にIT企業の研修センターのようなものは場違いのような気がする。

 登別の2大悲劇として、後世に語り続けられるようなことがなければいいが・・・

 

第一滝本館 紅葉
 永久封鎖をされた、ここが入り口だろうか。ベニヤ板が打ち付けられていて、不届きな侵入者を寄せ付けまいと、強固な要塞を築いている様子。

 無数の蛾でもたかっていると思ったが、紅葉をしたカエデかなにか。何が悲しくてこのような建物周りに咲いてしまったのか。もしかしたら、周囲の自然景観を損ねると考えた所有者が、植物で建物を覆ってしまおうと目論み、種を蒔いたのかもしれない。結局生えてきたのは入り口付近だけだったとか。



第一滝本館 入口付近
 施設入り口前の色付きタイルの残骸。露天風呂かもと思ったが、いくらここを囲ったとしても、入り口の真ん前で入浴はありえない。温泉施設なら少なからずそれも考えられるものの、いいとこハイヤーの待機場所だろうか。



第一滝本館 一本木
 経営者による廃墟緑壁化計画によりばら撒かれた種子は、その大部分がアスファルトの上で枯れ果てた。

 ドラム缶の切れ端の中の土へと落ちたものは、奇跡的に発芽をし、時代が時代なら「退廃芸術」として糾弾されそうな作品のような姿としておさまっている。



第一滝本館 基礎
 優雅な庭園がかつてそこにあったことをしのばせる光景。

 中途半端なコンクリの基礎部は、手っ取り早く壊せそうだから取り除かれたのか、あるいは、不審火で火災でも起きて燃えたのだろうか。



第一滝本館 うっすら
 剥げてきてはいるが、うっすらと表記はまだ判別できる。



第一滝本館 読み
 これは、登別温泉にある第一滝本館がかつて経営していた「ホテル滝本別館」だった。

 屋根の上に室内タオル干しスタンドみたいなのがあるが、全部で五つあるので 「第」「一」「滝」「本」「館」 というパネルが掲げられていたと推測する。「第一滝本館」自体が会社名でもある。



ホテル滝本別館 ななめ
 アメリカの田舎にある給油所のよう。

 本来ならひっそりとした温泉街であるのに、とどまるところを知らない経営者の野望が、山肌を削り、大量のコンクリートを土へ壁へと流し込み完成させる。それから数十年後の成れの果て。紅葉したカエデに侵食されつつある、崩れた石の残骸。



ホテル滝本別館 はなれ
 敷地内には別棟がいくつかあった。一瞬、葛飾北斎などの浮世絵の襖だろうかとも思ったが、画像を拡大したところ、単なる建築資材が立て掛けてあるだけだった。現地でもわざわざ近くへ行きはしなかった。もしそうだとしたら「日本の間別館」のような存在も考えられたが、単なる施設の拡張にすぎなかったか。



ホテル滝本別館 バス停
 廃サイロのリユースか? ここまでバスで来る人は果たしているのだろうか。いたとしても、近くの旅館でバイトをする、高校生ぐらいだろう。その他でここの使用者といったら、疲れ果てたチャリダーが、寝床として有りがたく活用するぐらいか。



ホテル滝本別館 庭園
 のどかな廃墟ホテルの広大な庭園にて、昼前のひととき、お散歩を楽しむ、とあるひとりのおっさんの優雅なたたずまいに、さえずる小鳥たちも注目することしきり。

 白樺が眩しすぎるし、かれこれ数時間、観光客が誰一人として来ない、この北海道の廃墟は、なんて平和なのだろうと、喜びをしみじみと噛みしめる。



ホテル滝本別館 給水
 あの上には、給水タンクがあったのだろうか。映画「仄暗い水の底から」では、タンクの中に子供の死体があったが、ここのもチャンスがあれば是非、確認しておきたいところだ。

 城塞化した廃墟ホテルにて、そろそろ綻びをみつけるべく、探索者としての全神経を研ぎ澄ませる・・・



ホテル滝本別館 綻び
 廃墟探索歴はそう長くはないものの、近頃では、建て付けのほんの僅かな撓みから来る戸や窓の限界点、”綻び”を、嗅ぎつけられるまでになっている、どちらかと言えば、人の営みの痕跡を嗅ぎまわるタイプの、人情派廃墟探索者。重い高いと拒み続けていたが、ようやくフルサイズの一眼を買ったのは、つい先日の最近のこと。

 その彼が、長袖のジャケットを着こみ、足場を探しつつ、どの角度からも睨みつけてくるようだと噂の、動き出さんばかりの鹿が待つという、館内へと、遠慮気味ながらも、はんなりと、足を踏み入れる   

 

続く…

「廃ホテル地下の暗がり」 鹿旅情、廃ホテル滝本別館.2 

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