有珠山 トイレ入口
 青色のゾウとピンク色のゾウの切り絵が仲良く貼られた、二つの戸。トイレのようだ。建物外壁に描かれた絵といい、園長は無類の動物好きだったのかもしれない。

 二頭のぞうが、まるで、傷ついて痣だらけになったような姿のまま、悲しげにこちらを見つめているように見えた。

 そういえば昔、飼い主から暴行を受けて顔面がボコボコに醜く変形をしてしまったゴリラ等、虐待を受けている動物達の取材をするために、広末涼子自らがアフリカまで行くという番組の宣伝をしきりにしていた時期があった。深夜にやっていた、本物のサルがアフレコでニュースを語り、ダウンタウンの松本と掛け合いをする番組の中でだったと思う。

  ちなみに、サルの声は、当時はわからなかったが、後年になって、ビビる大木だと判明した。番組との取り決めがあったのか、彼自身からは決してサルの声の本人だとは言わなかった(今でも)が、ある番組でひな壇トークをしていた時、周囲の煽りようで、彼だろうということの見当がついた。

 ”ビビる大木”自体は、これと言って面白味の無い芸人だ。唯一の芸が「こんばんみ」ぐらいの、いわゆる中山秀征系(大手事務所に寵愛され、声の通りがまま良く、そこそこ仕切れるが、笑いどころはない)の、存在意義がよくわからないタレントだが、こと、サルの声になると、毒舌が冴え渡り、虎の威を借る・・・ではないだろうが、大御所になり過ぎて弄られにくくなった松本人志に対して、鋭いツッコみや暴言を吐き、思わぬ笑いをかっさらっていた。

 もっとも、どこまで台本でどこからが、大木自身のセンスによるフリーな会話なのかは不明ではある。ネット上でバラエティ番組の台本が時々晒されている事があるが、大抵「ここまで決まってて言わされているの!?」と思うような内容ばかりである。

 その問題の番組は、サルと松本によるバラエティ・ニュース番組の特別編の予定だったらしいが、当時、広末涼子が単発でバラエティ番組に出演するのは珍しかったし、内容もショッキングなものだったので、個人的に大変期待をしていたが、あれほどしつこく番宣をしておきながら、一向に放送されることもなく、気づいたら母体の番組自体が終了してしまっていた。

 顔面が打撲痕だらけで歪み出血までしているゴリラを前にして、広末が号泣している映像を番宣では見せていたので、取材はもう終わっていたはずだった。

 あまりの悲惨な映像ゆえか、その特別番組は確かゴールデンタイムでの放送予定だったから、動物への虐待という、家族で団欒の時間帯ではタブーともされる内容だからなのか、ついぞ見ることもなく、幻に終わってしまった、広末涼子の動物番組。

 SNSの普及前だったり、関東のローカル番組だったということも原因なのか、その番組がお蔵入りになったこと自体全く話題にもならず、現在に至るまで、真相は知らされずじまいのまま。


 廃墟でたたずむ二頭のぞうの哀しげな眼に、人間を前にして怯えて震えていたあのゴリラの目を見たような気がした、廃墟探索者。

 あの幻の動物番組の行方がわからなくなってしばらく経った頃だろうか、広末涼子がキャンドル・ジュン氏と結婚をしたのは。心の深い傷と、喪失感を埋めてくれたのが、彼の温もりのある”ともしび”だったとでもいうのか。それならば、唐突ともいえるあのキャンドルアーティストとの謎めいた結婚も、まだわからなくもない。

 自分なりの一つの答えを導き出したような気がして、至福に浸りつつも、目の前の障壁を乗り越えるべく、いざ、トイレへと踏み込み出す   



有珠山 小便器
 先生方はしゃがんでやらないと、そこら中に飛沫を撒き散らすことになるだろう、児童専用の小便器。

 毎度のこと、廃墟に於いて、陶製の便器の輝きは、とどまることを知らない。古い廃墟ほど、より一層、光沢を放ち続ける。



有珠山 広いスペース
 思ったより清潔だったトイレを後にして、廊下を少し歩くと、広いフロアに出た。

 屋根を突き破り、多数の噴石が落下。



有珠山 垂れ下がり
 天井の内壁パネルは既にほとんどが落ちて、噴石とともに砕けて床を埋め尽くしている。

 むき出しになった骨組みが多数垂れ下がり、稲光のような軌道を形成している。



有珠山
 床が抜けやしないかと、出来うる限りの忍び足にて、前へ進む。



有珠山 さん
 いつまで建っていられるだろうか。



有珠山 セサミ
 気をつけて はじめはすべて 小さな火

 エルモやビッグバードをはじめとする、セサミストリート・オールスターズの警告も、有珠山大噴火の前では、空しいだけだった。

 ただ、全員前もって避難をし、死傷者は完璧に防ぐことができたのだ。



有珠山 舞台
 この広いスペースは、体育館や講堂として使用されていたようだ。



有珠山 教卓
 園長先生の長弁舌も、もう二度と、ここより発せられることはない。



有珠山 ビニール
 幽霊のようにしなだれかかる、防水シート群の成れの果て。



有珠山 教室への廊下
 奥へ進むほど、がれき類の堆積が増していく。歩行はますます困難になる。

 そして、いよいよ、園児達が元気だった頃の姿が偲ばれる場所、教室や遊戯施設への滞留を、試みる   



つづく…

「廃墟のオルガニスト」 廃墟、とうやこ幼稚園と噴火遺構.6

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