ダッシュ
 四日間に及んだ、札幌周辺部への修学旅行を終えて、一気に、怒涛の勢いで、日記を書き終えたキョーコさん。

 北海道の過疎地域であるがゆえの、他校と合同での修学旅行がもたらした、友との出逢いがあり、大都会札幌での目移りするような、刺激的なショッピングを経験し、そこでは、かねがね計画していたと思われる、念願の「指輪」を購入するに至った。この月に十五歳の誕生日を迎えた自分へのご褒美か。親や兄弟へか、あるいは、すっかり魅せられてしまった、金山君への愛情表現としての、想いを伝える品であったのか。ここまでのところでは、自身の内面をさらけだしているこの日記内に於いてさえ、想いを寄せている人への言明は避けている様子。

 ただ、ここ数日で急激に膨らんだ、今にも暴発しそうな、抑えられないでいる、本人曰く「くるいそう」とまでのたまう、熱き感情の発露を、もう、どうして良いのやら、自分の裡におしとどめられないでいる彼女。

 一見して、淡々と観光や買い物をこなしていたかようだった、冷静にもみえたキョーコさんが、突如”乱れた”と言っても大げさではなく、変異を生じさせたのは、やはり、夜の押しかけ”男女トランプ・プレイ”からであったに違いない。あれ以降、少女はすっかりと、変わった、というか、己をそのまま出すようになった。恥じらう隙も自身に与えず、尻込みは損だとばかりに、ありのままの自分を、包み隠さず、ぶちまけるまでになる(日記内でだが)。

 溜まりに溜まった彼女が、願いよ届けとばかりに、今まで圧殺していた”うちなる愛の言霊”を、これみよがしに、人生初と思われる”ポエム”という形をもって、堂々と、臆面もなく披露をする。どこから着想を得たのか、それは、ある植物を題材にした、内容的にはまだ少女さが抜け切らないものであった。

 僕があの崩壊寸前の廃屋から、キョーコさんの日記を拾い出さなければ、青春時代の一時の淡い情念が篭った、このポエムは、土に埋もれて微生物の餌にでもなっていただろうことは、ほぼ確実であったが、果たして、公開までする行為は正しいのか、間違っているのか。人からすれば、赤面ものの、若かりし頃の創作ポエムを、託したわけでもない、見ず知らずの内地の男によって、まさか、数十年後の二十一世紀にもなって、書き起こされることは、本望であるのか、「これ幸い」の境地にでも、なってしまっているというのか   

 1978年の瓦礫の間隙よりサルベージされた、中三15歳少女による、未来に向けた希望の唄が、今、どこか虚しい思いを抱かせながらも、世に公表されることとなる。



27s
27ポエム
ほんとに くるいそう . あの日々 を もう1度 .
この修学旅行は とても スバラシイ 思い出 になりそうだ
まけるな くじけるな    Go     
  つけくわえて . ガイドさんと オフロの中で あっちゃった !

1978 (53)   5月27日  (28 0:51)
あいたい あいたい もう一度 。
わらた い わらいたい もう一度 .
あのたのしい日々を もう一度 . みんなですごした日々 もう一度
忘れられない あの日をあの時を .
ほんとうに もう一度 あじわいたい .
すごしたい . 今はそれでむねがいっぱいだ .

  クローバー みつけた
  四つ葉のクローバー みつ*けた
  しあわせがくるだろうか?
  おまえにそのような力があるだろうか?

  おまえにそんな力があるならかなえておくれ
  私のねがい.
  この彼への思いを .
  いつのまにか 目でおって
  いつのまにかわすれられなくなっていた
  なくてはならない人になっていた.
  クローバーよ
  四つ葉のクローバーよ
  つたえておくれ この想い
  つたえておくれ この想い
  しあわせに しておくれ
  おまえに そんな 力があるのなら…… 。
  この想い. クローバーよ!

 ではこのへんで
   マケルナ     クジケルナ
   ゴー go    GO !
     GOOD  NIGHT ! 

狂いそうになるほど、「スバラシイ」と、感想を述べている、キョーコさん。濃密な一時であった、あのトランプ交流会が、彼女の中で、人生の高みを一つ登るきっかけにもなったことは、間違いない。

愛を語りはじめ、大人の女に目覚めつつあるとはいえ、大浴場にて、年齢があまり変わらないバスガイドさんと鉢合わせになり、年相応に、茶目っ気をみせる、いつもと同じ彼女がまだそこにはいた。

感情の赴くまま、文章では伝えられないぼんやりとして輪郭はないが熱い心情を、”ポエム”にしたためて、唄い出す。

「あいたい、わらいたい、みんなですごした日々 もう一度」と、全体主義的な思い出の共有を語りだしながらも、クローバーへ祈念する本編の詩では、一途に、「彼」だけに対する想いが綴られている。

唐突になぜ「四つ葉のクローバーが題材に?」と訝しげに思う方がいるかもしれない。道内の有名企業には「よつ葉乳業」があり、駅のどのキオスクでも、よつ葉印のパック牛乳が売っているほど。おまけに彼女は酪農一家かもしれない人だ。四つ葉のクローバーに関する刷り込みは、東京の人とのそれとは、次元が違う。カルチャーの基本的な引き出しの一番手前に、四つ葉のクローバーがあると言っても、大仰な表現ではない。

キョーコさんは、せつなくも訴える。いつの間にか目で追って、いつの間にか忘れられなくなっていた、と。

印象的な自己紹介で、一瞬にて彼女の心を鷲掴みにした、あの金山君のことだろうか。それとも、まだ言葉にはしていない、それゆえ、一層大切にしておきたい、誰かなのか。

直言はしないものの、修学旅行を経て、一途に恋い焦がれて、四つ葉のクローバーに想いをのせて、北の果ての寒空の下、夢を抱きながら、深夜に書き記した、一遍の、少女の初ポエム   

それは彼に届いたのか、どうであったのか、その答えは、日記の最終章までにあるのか、まだ、定かではない。
 
 書き始めでも述べたが、実は、このことに関して、僕との、偶然過ぎる、まるでライトノベルの設定のようでもある、類似点があった。それを目にした時、廃屋の残骸の中で、あまりの衝撃に、キムタクがハワイでスマップの解散を知った時以上に、僕は、そこに、立ち尽くして、立ち尽くし続けた。このことが、日記を持ち去る一番の大きな原動力となったといってもいい。ちなみに、年齢ではない。それ以上のものと言えるだろう。



29
1978 (53)  5月28日 (日)  11:50
ただ ねむたいだけ.
ただ 一言  ああ ねむ
そして もう一言  彼らにあいたい . みんなにあいたい
涙がでそうなくらいせつなくなるんだもん
早く * 陸上大会こないかね!
 まけるな くじけるな  おやすみね。

1978 (53)  5月19日    30 0:10

よふかし しちゃ ダメ! ダネよ !
勉強もしてね . でもふかく考えこんじゃ なおダメ!
あしたにむかっての体力つけておかなくちゃ .
博くん♬あんたに あい~~た~い~もう一度♬
なんちゃって ゴメン、ゴメン、ゴネン ほんとうに 心から
あやまりたい 気持ち .ホントにつごうのよいワタシ ゴメンネ!
 まけるなクジケルナ  ファイト で~~     す。

一世一代と言ってもいい、ポエム披露の大仕事を終えたからだろうか、虚脱感に見舞われている様子のキョーコさん。

彼以外にも、皆にあいたいと、よほどあの時間を楽しく過ごしたようで、涙が出てせつなくなるほどの、愛おしい、かけがえのない思い出となったようだ。この文面だと、期待している陸上大会も、合同でやるのかもしれない。

>博くん♬あんたに あい~~た~い~もう一度♬

サザンの桑田佳祐が作詞作曲、高田みづえや原由子が歌った、「そんなヒロシに騙されて」のことだろうか。充実な日々を過ごせていることもあり、鼻歌も朗らかに、ペンもそれにあわせて、軽やかにすらすらと・・・

 しかし、悲劇は突如としてやってくるもので、翌日の、今から八時間後、危篤の知らせを受けることになる。加えて、よく聞き慣れない、家族の本業を断定できるかもしれない、ある作業を受け持つことにもなる。



つづく… 

「少女を襲う訃報とグラント開き」 実録、廃屋に残された少女の日記.10 

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