廊下の端、行き止まりにはカウンターがあり、呼び出し専用の電話が置かれていた。
後方は部屋とつながっていると思いきや、狭いただの密閉空間。戸やドアも無い。
人が中へ入る時には、大股でこの木製の大型カウンターを、乗り越えていたのだろうか。
『女中控室』の表記。
こんな狭小空間が、女中さんの控室だったとは・・・。
控室に入る場合は、このカウンターを上から跨ぐしかないのだから、女中さん達の出で立ちは、着物やスカートではなく、ロングパンツ・スタイルだったに違いない。
ホテル内を探索すべく、ひとり淋しく、階段を登ったり、降りたりをしていると、
都度、この鹿と顔を合わせることになる。
外部からの侵入を防ぐため、この非常口は板で塞がれていた。
昼間からこの場所で別の侵入者達と鉢合わせになったとしたら、かなり気まずい空気になりそうだ。それを最大限避けるため、加えて、車中泊を快適に過ごすためにも、北海道での廃墟探索は、雪が降るまでの初冬、11月上旬頃と、決めている。
移動するごとに、また鹿。
見る角度によっては、肉付きがよく、太っている印象も。
どの階の壁も、内装が剥げ落ちてきている。部屋側の壁はシミひとつ無いのに。
外壁が崩れ、その隙間から雨水などの水分が浸透して内壁まで達し、腐食させてしまっているからだろう。
この腐りようだと、再生は困難か。
世界のバックパッカー用格安宿計画に暗雲が垂れ込める・・・
横からの、澄まし顔の鹿。
集中管理されたエアコンが備え付け。
昨今の設備の良いホテルでは、個別の空調になっていて、自分で温度を変えられる。
北海道ではクーラー設備の無いビジネスホテルも多いので、一括管理されているとはいえ、この時代にエアコンがあるだけでもかなり良い方だ。
とある八月の暑いさなか、東室蘭駅前にある、老舗ビジネスホテルに宿泊したら、その夜は熱帯夜だったというのに、エアコンが設置されていなかった。おかげで、窓全開、汗だくになりながら、真っ裸で寝るはめになった。北の方に位置する、有名チェーン店ではないビジネスホテルに宿泊する際は、注意が必要だ。
ユニット式バスではなく、全体にタイルが敷き詰められた、個別のバス・トイレ。
端々に、中級より上を狙った若干の高級感が滲み出ている。そのコンセプトが、山の中では宿泊費が高過ぎると判断をされてしまい、お客を失う理由となったのか。
フロント及び女中控室への直通電話。
ハードオフへ買い取りに持って行っても、査定額0円と予想。せめて、黒電話なら現金化できたはず。
警戒心を抱きつつも、襲い掛かってきそうな鹿。
鹿の横を駆け抜け、更なる部屋へと。
冷蔵庫も完備だった。
普通、窓は建物と平行に設置されているが、ホテル・オーナーのこだわりによる、自然光を極限まで建物内に取り入れる頑なまでのコンセプトゆえ、窓が斜めに、太陽の来る方へ向けられている。そのため、付け足したかのような、余剰にも見える三角のスペースがどの部屋にも存在してしまう。
廊下の端の壁。
深夜に大勢で心霊スポット巡りのついでにでも来て、ライトで照らしでもしてみれば、大声のひとつもあがりそうな壁だ。
また移動で給湯器越しの鹿。心なしか寂しげだ。
暗がりでひとり、鹿ばっかり撮って、なにしに来たのだろうと、多少の疑問も湧いてくる。
刑務所みたいな殺風景な窓の形は、断熱を考えてのことか。
キャットタワーかとも思ったが、このホテルの営業当時には、あまり普及していないどころか、まだそのような室内ネコ遊具文化は無かったはず。よって、これは盆栽や花瓶などを飾る台だったと推測。
乱暴者の侵入者によって破壊され、放置された扉か。
跨って記念写真を撮る輩達もいたかもしれない。
鉄の扉の部屋へ入ってみる。
特筆することもない、ただの倉庫だった。
分別はしっかりと行われていたようだ。
階段を経ての、
寄り気味の、愛くるしい鹿。
よく画像を観察してみたら、角の先に紐が結んである。倒れないように、結んだ紐を上へ引っ張ってあるようだ。
この状態で、何十年間も、鉢の木が生き長らえることが可能だろうか。天井からの水漏れは見受けられない。
よく出来た人工物。
紳士浴室。
しっかりと施錠されていた。
方々を見尽くして、結局ここへと戻って来る。
最後に真正面から接写で鹿を捉えて、周囲に注意を払いながら、外へと出ることにする。
その瞬間を発見されたら、言い訳のしようがなく、今までの合理的で機敏な行動の全てが無駄になってしまう。
無事脱出。建物外周を歩く。
今となってみれば、壁に並ぶ細い窓の意味合いが、良く分かるというもの。
採光とプライバシーの兼ね合い、せめぎ合いが、あの形、位置、配列を、建物にもたらした
誰も来なくて一人っきりの庭園。
建物を再利用した格安ホステルは無理でも、この庭で車中泊やキャンプだったら、脈はありそうかも。
のどかで優雅な廃墟ホテルの庭園に、何時間でもたたずめる雰囲気だったが、フェリーの予約日が迫っていることもあり、鹿ぐらいの収穫しかなく若干の不満が残りつつも、次の物件へと、急行することにした。
終わり…
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