かどや のらくろ
 入り口ドアに貼られていた、「のらくろ」のステッカー。「のらくろ」は田河水泡による戦前に描かれたかなり古い漫画だが、このステッカーの作風は一見して現代的に見受けられるし、キャラクターを使用している会社も「日本交通公社」ではなくてJTBになっている。

 ちょと調べてみると、「のらくろ」は「のらくろくん」として、1987年10月4日から1988年10月2日までフジテレビでリメイクされたアニメが放送されていたようだ。個人的には全く記憶に無い。ちなみに、アニメを制作したのは、「うる星やつら」でおなじみの「スタジオぴえろ」。

 大昔の漫画のリニューアル・アニメ化の「のらくろ」キャラなら、お年寄りから子供までの客層を惹きつけられるので、旅行会社にはもってこいだと広告代理店からのプレゼンテーションを受けたJTBが採用をしてはみたものの、当時全く話題にならず、後世の人々の記憶にもほぼ残ることもなく、悲しき末路の果てが・・・”これ”ということらしい。



かどや 交通公社
 こちらはJTBの前身、日本交通公社のステッカー。この頃は、キャッチコピーで情感に訴えかけ旅へ誘うといった、堅実な手法がとられていた。



かどや エース
 交通公社の国内旅行企画商品のブランド名「エース」のステッカー。

 トップブランドの大口ツアーを呼び込んでいた、1982年前後が「ドライブインかどや」の最盛期だろうか。そして、「のらくろくん」の目論見が外れた、1987年頃が衰退期だったのではないかと、ひとまず、ここでは仮定しておく。


かどや ポテトクン
 1980年の時の潮目をいともたやすく乗り越えることに成功した、廃墟散策者   
 
 ガラスを割ったのは例によって悪意ある侵入者の仕業なのか。

 オーナー自ら打ち砕いたとの意見が少なくとも、あるようにも見受けられる。

 恥ずかしくない経営理念と、町共々施設が発展して行くような輝かしい未来を、かどやの二個合わせ”どんぶり”オブジェに託したオーナー。

 が、万策尽きて全てが終わり、心血注いだ己の分身ともいえる「かどや」を振り返り、「これだけのものを、これで終らせて良いのか・・・」とその場に立ち尽くした、彼   

 それからのオーナーの行動は案外容易に想像できてしまう。

 人知れず朽ち果てていくのみなら、せめて、見ていってくれと。懐古趣味や下衆な覗き趣味でもかまわないから、俺がこの地(洞爺)に残した証を、記憶の片隅にでも留めておいて、数十年に一度でもいいから、朧気にでも思い出しておくれと。そういえば、どんぶりマークの洒落たドライブインがあったなぁと。

 「入ってくれ。そこの裂け目から飛び込んで、昭和の頃の煌めいていたドライブインを見学していってくれ。そして、後世に語り継いでいって欲しい。こだわりのオーナーが創り上げた先進的かつ機能的で皆に愛された素晴らしいドライブインが、こんな錆びれた片田舎の山の中に”奇跡的”にも存在していたのだと   

 そんな切なる声が聞こえたような気がしないでもなかった。

 オーナーの意志を感じ取ったかのような僕は、俄然奮起し、胸を張って勇ましく泰然としながら、背後の行き交う長距離トラックの中からの冷たい視線に怖じけることもなく、公明正大に、彼の指し示した時穴のような裂け目から、何一つ恥じることなく、多少の戸惑いがありつつ苦悶しながらも、侵入をするに至る最終決断を下したのだった   


 予想した通り、嫁さんの額には滴る汗など無かった。あれは単なる液だれであり、裏から塗り込んで表からのつるりとした”完成形”見てもらうという技法のため、後ろの層に位置する液垂れは表から見えることはないのだ。

 この手法は”マットペイント”、”マット合成”と呼ばれる技術でも用いられていた。CG技術が発達する以前のSF映画では、この技術を利用して背景の宇宙などをガラス板に描いていた。

 並の素人なら店内側から描いてしまいそうだが、この描き手は、どうせ場末のドライブインの子供だましのイラストだろう、といった、単なるやっつけ仕事で終わらせずに、洗練された映画技術の手法を密かに用いるなど、田舎の食堂のいち従業員で終わらせるには実に惜しい、高度な技術と高い志を持ち合わせていた、道南の知られざる”創作者(クリエイター)”だった   
 


かどや カウンター
 昭和のマトリックスに呑み込まれたかのような空間と向かい合う。

 合皮に纏われ縦溝で区切られたウレタンフォームを周囲に配置した、くすんだ柿色の円卓カウンターが、店内のシンボルだったようだ。




かどや マトリックス
 ライトサイクルのつばぜり合いが見えて来そうな幻想的な風景だが、白樺の柱やぶった切られた白樺のデコレーションが現実へと引き戻す。

トロン:オリジナル×レガシー ブルーレイ・セット (期間限定) [Blu-ray]
ジェフ・ブリッジス
ウォルト・ディズニー・ジャパン




かどや キリン
 キリンレモンと向かって右はキリンの炭酸だろうか。相当な強炭酸好きの人の痕跡のようだ。



かどや 食券
 ぶちまかれた、色とりどりの食券類。

 ナショナルのレコードクリーナーの説明書がある。よくわからないが、セーム革製の押さえか何かでレコードの盤を挟み込むとクルクルと電動式で回転をするのだろうか。それとも、先端のキャップを外すとスポンジ面が露出し、本体内より噴出された溶剤がそれに染み込み、すりすりと手を動かしてレコード盤を綺麗にお掃除しろよということなのか。後者だと家電屋が発売する意味があまりないようにも思える。



かどや ベランダのドア
 やはり、ただの”食った飲んだ”で終わるドライブインではないようだ。

 洞爺湖を一望できる、瀟洒(しょうしゃ)なイングリッシュ風のガーデンテラスが用意されていた。



つづく…

「荒んだ英国式ガーデンテラスとニポポ」 昭和の栄華、廃墟ドライブイン『かどや』の夢.4 

こんな記事も読まれています