北朝鮮の学校へ見学にやって来た。
例によってまた僕ひとりだけのために、これだけの人数の人達が集まって授業を行ってくれた。
この教室に滞在したのは十数分ぐらいだったか。僕が教室から出るのとすれ違いで、中国人団体客が騒がしくやって来た。 どんなに中国人がお喋りしようが、声高に叫ぼうが、生徒達は振り返ることもなく、背筋をピンと伸ばしたまま、前方を見つめ続けていた。おそらく観光コースにこの学校が組み込まれていて、毎度のこと外国人が見学に来ているから、もう慣れきってしまっているのだろう。事情を察しないで純粋な見方をすれば、あれほどはしゃいで煩い中国人達に対して、全く動揺せず微動だにしない生徒達は、逆に不自然に思える。
子供のように振る舞う中国人の大人達の多愛も無さそうな会話を聞いて、選抜・厳選されただろう優秀な生徒達は一体どのように思っているのだろうか。
観光客に見せるための授業なので、生徒が意見を言ったり、先生の脱線したフリートークなどは全く無し。
中国人達がやって来るまでは、薄気味悪いほどの静寂の中、淡々と授業が行われていた。
もしかしたら彼らは洗脳具合がかなり深く、普段からこんなに従順で”半ロボット”のように命令されて動くのだろうかとも思ったが、僕や教鞭を執る先生から死角になる席では、笑みをたたえながら男子生徒二人がヒソヒソ話をして、『やれやれかったるいな』のような会話をしているようだったので、あくまでもこの静まり返った授業の様子は、対外向けの仮の姿なのだろう。
『勉学に、音楽に、運動にも、全てにおいて実りある学生生活を!』 のようなことが書かれていると推測。
日本で言えば理科室のような教室へ移動。
剥製の技術はなかなかのもの。
どの部屋にも彼らの肖像画がある。
観賞用の卓上剥製。
やらされてる度が更に増したかに見える、理科室での化学実験をしている生徒達。
生徒一同、その冷たくもある能面気味の表情は、心が入っていないというか、探究心が微塵も見受けられないというか。
それぞれ各種バラバラの実験器具を、遊園地のアトラクションの人形ロボットのように、繰り返し反復運動のように動かしていた。「形だけやってますよ」 でしかないそれらの不自然な動作に、双方無駄な時間を費やしてしまっているようで、申し訳なくもあり、心苦しくもなる。
あと、女子学生は皆可愛い顔をしているし、男女共に肥満の子や極端に背の高い生徒がいない。見られることを意識した人選なのだろうか。
申し訳程度に手首を動かして実験をするフリをしている生徒達だが、僕の視界から死角になりそうな一番奥にいる生徒などは、一瞬だけ素の表情を見せて隣の友達と談笑をしていた。
ビジュアルでの説明に重点を置いているのは、外国人向けアピールか。
先生が描いたにしてはうますぎるし、印刷物でもなさそうだし、プロの絵描きにでも描かせているのかも。
化学の授業に、女性の先生が登壇中。
背中と後頭部の眼で、彼らが僕を値踏みしているような気がしてならない。バックパッカー風情がひとりで何をしているのだと。
白頭山のことでしょうか。
科学や音楽でお国に貢献しなさい。
両手でひろげているタスキのようなものは、もしかしてプリンター用紙・・・
奥の防寒着を着込んだ男性が校長先生。生徒は薄着だが、真冬なのに教室内は暖房が効いていないので身震いする寒さ。薄着で寒さに立ち向かうことで、己に打ち勝つといった、根性論的な精神鍛錬の意味合いでもあるのか。
手前の高そうなマフラーを巻いている男性が、二代目引田天功のガイドも受け持った、二人いるうちの若い方のガイドさん。
女生徒からすると、警戒心しかない僕への冷たい視線。
僕が背後に回り込むと、彼に追い詰められたような緊張感が走るのが分かった。彼も僕も義務感からやっているだけ。当然、双方何の実験をやっているのかは全く理解していない。
背中で僕の気配を感じ取ると、咄嗟にレバーを掴み上下させる女生徒達。お次は僕の番だと、身構える男子生徒。
これがこの教室一番の呼び物的実験らしかった。プリズムに光源を当て光の屈折を確かめる実験。
七色に分かれた光が映し出されようと、もう何度もやらされているので、彼自身は特に感動も無く無表情だった。
手が止まっていたはずなのに、僕が振り返ると慌てて上皿天秤に分胴を乗せはじめた少女。
所在なさげに実験を主導している女の子の影に隠れるもう一人の少女。
女の子の髪型が全員同じだが、強制でもされているのか。
優秀な生徒を顔写真入りで表彰。
音楽によって人民達の生活を輝きのあるものに。
微妙な化学の授業を見学させられた後、校内を移動し、講堂のような場所へ連れて行かれた。
そこでは、女学生楽団による、盛大な歓迎セレモニーにを受けることになった。
つづく…
「女学生歓迎接待の思惑」 バックパッカーは一人北朝鮮を目指す.13
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コメント
コメント一覧 (2)
中国人観光客の団体が来るたびに、プリズム照射をやらされているのかと想像すると、胸が痛みました。
あと北朝鮮、剥製技術が高過ぎ!