夕張市内を散策していても、観光客はおろか、地元の人もほとんど見かけなかったが、夕張駅・駅前にある、SF映画の未来都市の建物のような”スーパー銭湯”にだけは、まとまった数の人の気配があった。
夕張の寂れた様子を半ば無意識に僕は『とんでもない過疎の町だな。住宅はどれも老朽化して崩れかかっているし、歩いている人は年寄りばかり。明かりが灯って人が集まっているのは”セイコーマートぐらいだろ・・・』と嘲り、経済破綻をした町の凋落ぶりに呆れつつ、日本の遠くない未来を暗示しているような光景に、身の引き締まる思いがするが、現在こんなところを徘徊している自分の将来”こそ”を一番心配せねばと、己の足下をじっと見る。
夕張で唯一活気のあるスポットがスーパー銭湯。
疲弊した街を散策していて、何か自分が裕福な国から”負の遺産”を視察にやって来た大臣にでもなったような錯覚に陥り、上から夕張市民を見下ろしているような気分にもなる。僕だけではなく、ここへ来た人は皆それに近い感覚になるのではないだろうか。
が、駅前のスーパー銭湯だけは違った。駐車場にはフェラーリやポルシェは無いものの、結構新し目の車が何台も駐車している。ザハ・ハディド氏のデザインを鋭角的にしたような建物の無数の窓からは光が眩しくこぼれ、それぞれに楽しげな夕張市民の顔が躍っていた。彼らは、バブルの残り物であるスーパー銭湯を、『ここぐらいしか行く所は無いし、少ない支出に見合う夕張でも数少ない場所』とでも思っているかもしれないが、それを外界の下から見上げる僕は、大体の内情を理解しつつも、どんどん卑屈な気分になっていき、そっちがそういうことならもっと暗部をさらけ出してやろうかと、間違った行動意欲をみなぎらせることに。
自宅に帰ってから冷静になり、撮りためた画像を確認すると、思いがけずも、憧れの目でさえ見たあの”スーパー銭湯”の写真は一枚も撮っていなかったことが判明。無意識か意図的だったのか。生活保護でお金を貰っている人に対して、非正規の人が嫉妬をするのに近いような、捻じれ曲がり複雑に入り組んだ心の”闇”のようなものを、自分の中に見たような気がした。
寒いとはいえ、まだ初雪が降っていないということもあり、積雪は無し。破格の資金を投じたと思われる銭湯とは対照的な、いく分か老朽化してくたびれた様子のスキー場施設群。
スキーシーズンはこれからなので、今はまだ警備員さえ配置されていない。
シーズン中の夜には、煌めくネオンがケバケバしそうな、電飾盛りの橋。通行止め。
スーパー銭湯とはうってかわって、当然、駐車中の車はゼロ。
地元の客は少なからず来るだろうが、市外や道外からはどうなのか。
最近テレビで夕張の話題をやっていても、逼迫した市の厳しい財政事情と若い市長、それか夕張駅廃止の話題ぐらいしか見かけない。
まぁ、それだけ話題があるならじゅうぶん過ぎるとも言えるが。
閉館中ということもあるが、あまりに無機質過ぎて、ここも破綻しているのではとさえ思った。
あのハイエースは長期放置の廃車ではなさそうなので、スキー場の廃業は免れているようだ。
駅前にゲレンデがあるのなら、冬はわんさか人が押し寄せるだろうと、誰しも思う。
僕も昔は一時的にスキーをやったが、今はさっぱり。周囲でも見かけないし、スノボーでさえ下火。皆、スマホでゲームばかりをやっているのが実情。
ゲレンデでプロジェクション・マッピングをやったり、ロボットアームを装着して物凄い切れ味のターンが可能になるとか、画期的なソリが発明されるなど、何らかのイノベーションでも起こらない限り、スキーの復活はないのかも。
そして、以前、大夕張のゴーストタウンと記述したこの場所。コメント欄より情報が寄せられて、正確にはここは「夕張市南部青葉町」であるとのこと。大夕張はもう少し先だそうだ。
ご指摘下さいました「killdozer」様、ありがとうございます。
青葉町の崩れた町並みの探索を、引き続き行うべく、四方八方へとより一層、眼光を光らせる
長期の紫外線に負けて引き千切れた、店舗の軒先テント幕。
当てずっぽうの推測では、黄色(肌)と赤(血)の配色によるイメージから、肉屋だったのではないかとの緩やかな確信を抱く。
※当てずっぽうの推測は見事外れていたらしく、こちらは、「ニシムラ」というかつて札幌にあった有名ケーキ店の支店だったそうです。
コメント欄よりご指摘いただいた「たっち」さん、ありがとうございました。
テント布は横のスナックも同様。
それぞれの窓にはカーテンがそのままで、人の気配さえ感じさせるが、周囲の風化した映画セットのような光景を見れば、まずそんなはずはないと断言できる。
侵入し放題の環境がすぐ目の前に。
どれにしようかと悩むこと数分間。狙いを定めた僕は、とある廃墟の敷居を跨ぐことにした
つづく…
「廃商店街の恨み」 夕張廃墟世界、孤独探索.5
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コメント
コメント一覧 (5)
どうも、こんばんは。
こんな今では西部劇のゴーストタウンみたいな場所に、パチンコ屋があったのにも驚きましたが、有名なケーキ屋さんの支店まであったんですか。当然需要があって、クリスマスケーキなんかも売って賑わっていたんでしょうね。そういう情報を得ると、見方もまた変わってきて、より切なくなります。情報、ありがとうございました。
「黄色(肌)と赤(血)の配色によるイメージから、肉屋だったのではないか」と推測されているお店は、実はケーキ屋さんです。「ニシムラ」という札幌のかつての有名ケーキ店の支店です。以前、この地に行ったときには既に閉店となっていましたが、まだテント幕は破れておらず、店名を知ることができました。
画像と探索記録のデッドストックは相当あるのですが・・・筆者の時間的余裕とやる気次第で再開するかもです。
killdozerさんも廃墟ブログをやっているんですね。月あかりにうっすら浮かぶ炭鉱施設跡の写真が印象的でした。僕が北海道に行った時はスケジュールがタイトで、夜は憔悴しきって車かビジネスホテルで熟睡してました。次は余裕をもって、夜の写真も撮ってみたいです。
大夕張の定義というか、実際のところの解説は参考になります。数日訪れただけでは、そこまでの思いや事実はわからないので。
>「キリ助」
ネットで見ましたが、哀愁漂う造形物ですね。昔行った時にもしかしたら道端で見ていたかもしれないですが、思い出せませんでした。