登戸-16
 多摩川18歳全裸遺体事件の手掛かりを追い求めて、対岸まで足を伸ばして行ったものの、レトロな旧車群をただただ眺めるだけで終始し、無駄な時間を過ごしてしまうことに。

 現在警察は、遺体発見現場より遡った上流の多摩水道橋のたもと付近を重点捜査中。それならばと、溺死した遺体が流れ着いた、水門前の引き込み口へ直接乗り込み、警察が見逃したかもしれない事件にまつわる品などを発見できやしないかと、向かってみることにする   

 現在まで少年の名前は公表されていない。何らかのトラブルを少年が抱えていたという知人らの証言はあるものの、自殺か事件かの警察による公式な発表はまだ無し。

多摩川18歳全裸遺体、死因は溺死 事件の可能性も


 遺体発見現場への目印となるのがこの「登戸の渡し」跡の碑。

 前方の土手を降りた水門前の水路が問題の場所で、道を隔てた後方にはポンプ場がある。



登戸-17
 ポンプ場に付随した水門の正式名。

 水門の両側のフロント部分(川側)にテラスのような空間があり、そこである物を見つける。



登戸-6
 途中で消えてしまっているお線香。

 真新しいので、関係者が午前中にでも来ていたのではないかと思われる。

 自ら少年が死を選んだとして、裸で多摩川に飛び込もうとするだろうか。

 何者かに殺された後、川に流されて上流方面からここへ辿り着いたのか、あるいは、この場所に全裸遺体のまま投げ込まれたのか。

 少年が絶望をして、多摩水道橋から飛び降り自殺をした可能性もなくはない話し。

 橋の高さが微妙であるがゆえに、敢えて自ら真っ裸になり、真夜中の凍えるような寒さの中の川の水温とあわせて、死に至るようにと、彼なりに画策したのかと。

 警察がアクアラングまで使って多摩水道橋付近を大掛かりに調べていたのは、一応、自殺の可能性も探っていたからだろう。近くに小田急線の鉄橋もあるが、自殺で使用するなら、本来人の通行できない鉄道用の橋はわざわざ選択しない。



登戸-18
 カミソン君の時のように、山のような花束やお供え物で溢れているのを想像しつつ、辺り一帯を見回す   



登戸-14
 一瞬、そのものが横たわっているのかと思った。

 周囲では皆避けるように遠巻きに人々が行き来しているので、淋しげであわれにも思い、寄り添うようにして近づいてみる。



登戸-7
 「星を継ぐもの」というSF小説がある。月面で宇宙服姿の遺体が発見されるのだが、炭素測定器で調査をしてみると、五万年前の遺体であることが判明をする。五万年前の地球に、そんな高度な文明が存在をしていたのか、または、別の星からやって来た異星人なのか。宇宙服の遺体は『チャーリー』と小説の中では名付けられるが、僕のイメージとしては、映像化をするとすればまさにこの川辺で横たわる彼は、チャーリーにしか見えなかった。

 ただのパーカーではなく、人の気配を漂わせているような肉厚感。万能服の宇宙服のようであり、生身の肉体を包んでいるような体躯の重量感。全裸だった彼を、できるだけ暖めてあげたいとの気遣いが見て取れる。



登戸-13
 自殺か殺人かもまだ判明していないからなのか、本名の公表は控えられたまま。

 この時点で献花をしたりお供え物を持ってきている人は、かなり近しい人達なのだろう。



登戸-3
 たこせんとコカ・コーラ・ゼロフリーが大好物だった  僕の中であえて呼ばせてもらえるならば  チャーリー。

 宇宙服のようなパーカーの中に、ハンガーの針金のような物が見え隠れしている。これはクリーニング屋に預けて引き取ってからそのままのを直に持って来たからなのか。それとも、針金を湾曲させて膨らみをもたせることで、人間のようにみせる演出であるのか。下にはデニムを履いているということもあり、後者ではないかと推測する。



登戸-4
 新宿方面へ進行中の小田急線。

 

登戸-8
 警察が見落とした遺留物でも無いかと、周辺探索を開始。



登戸-9
 ほんの数メートル脇にあった、美少女アニメグッズらしき物。

 これらが、商品そのものなのか、パッケージの箱だけなのか、UFOキャッチャーのプライズであるのか、興味が無いので見当もつかないが、お供え物ではないことは確かだ。

 盗んできた美少女グッズの配分で揉めた・・・という線もなくはない。引き続き行われる捜査のためにも、瑣末な品々ではあるものの、ささやかな状況証拠として、ここに提示しておきたい。



登戸-2
 いい加減な推理をすると”彼”にどやされそうな気もする、得も言われぬ存在感が辺りに漂う。



登戸-10
 引き続き、美少女アニメグッズ。

 その真新しさは、お供え物とたいして程度が変わらない。

 エロ本を川原に捨てるという文化が昭和にはあった。恥ずかしくて家の周囲で処分できないからだ。

 これらのアニメグッズをここらへ捨てる理由があるだろうか。

 この布に遺体を包んでここまで運んでくる。遺体だけを川へ捨て、布は敢えて川辺の遺体付近に放置しておく。一緒に布を川に捨てると当然調べられて足がつく。いらないアニメグッズの空箱と一緒に投棄しておけば、誰も犯罪に関わった品だとは思わない。アニメファンの部屋にはブルーシートなど見当たらなかったので、こんな可愛らしいタペストリーしか用意できなかった苦肉の策だったのかも。



登戸-11
 アニメグッズの推理が仮に本当だとしたら、とてもいたたまれなくなるような至近距離に置かれていた、単独の花束。

 先ほどから自分以外の存在から発せられる葉の擦過音がする。抑え気味の咳払いもかすかに聞こえたような気が。このような現場で徘徊をする変わり者は自分ぐらいだし、ここは岸辺で本来ならのどかで緩やかな時間が流れる、猫か水鳥しか寄らない殺風景な場所だ。



登戸-5
 まさか、ごついカメラをぶら下げた怪しい人間が遺体発見現場をうろついているという連絡が警察に入り、不審者として僕がマークされているとでもいうのか。ざっと見た感じでは、辺り一帯、僕以外に人の存在はないはずなのだが。私服刑事でも隠れているのではと、注意深く見回す   

 後ずさりをしながら、一歩、また一歩。

 多摩水道橋付近では、まるで”彼”が憑依したかのような猫が警察の大規模な捜査状況を見守っていた。

 肝心のここにも、どうやらそれはいたようだった。宇宙服の遺体のような場所から、およそ三メートル弱しか離れていない場所に。

 僕がさんざん歩き回ろうとも、シャッターを押しまくろうとも、ぶつくさ独り言を呟こうが、動じることなく、彼(チャーリー)の傍らで悠然と構えて、見守るかのように横たわっていたのだった。



登戸-12
 パーカーのお供え物から約2.5メートルの極めて近い距離。まるで守護天使のような”河原世捨人”が寝ていた。

 僕の視界に入らなかったのも納得。

 昔、荒川のウォーターフロントが開発され始めた頃、新築のマンション群を対岸から撮ろうと思い、未開発だった藪のような一帯に入り込んでうろうろしていたら、川岸のコンクリート部分にホームレスが寝ていて、足で通り道を塞いでいた。密集した藪が岸まで迫っている場所なので、小道を進むにはホームレスが投げ出している足を飛び越えるしかない。撮影スポットへ行くには小道を進むしかなく、仕方ないので助走をつけてからホームレスの二の足を飛び越えた。着地してから三秒ぐらいは反応が無かったのでやれやれだと安堵していると、横になっていた足が突如動いたか否や、「誰だおまえ~!」と怒声とともにホームレスが猛然と追いかけてきた。数百メートル走ってようやく巻いたものの、重量のあるアルミ製のカメラバッグを携えて全速力で走ったので、肩が痛いのと全身均等に粒の汗が吹き出て、精も根も尽き果てたのだった。

 それ以来、ホームレスにはトラウマを感じてしまい極力避けるように心がけている。

 遺体発見現場近くで横たわる、この河原世捨人の人にも『テリトリーを荒らすな!』と凄まれるかと思ったが、ここ数日この周辺はマスコミで賑わったこともあって、彼もそれは織り込み済みの様子。いつまでもひたすらに気持ちよさそうに寝つづけていた。



登戸-19
 もうこれ以上無駄だとわかりながらも、川面のチェックもおこたらずに調査を行うものの、収穫は無し。



登戸-57
 現在まで、事件が解決するどころか、メディア等から続報も聞こえてこない。

 全裸だった少年に暖かい服を着させてやろうと、上下にモコモコとした肉厚の綿がこんもり入っていそうな服をあてがってあげた関係者の切なる想いに応えるためにも、警察には早期の事件解決を望むばかりである。
 


おわり…