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 熱い想いをしたためたノートを、ゴシップ好きの”均”にのぞかれてしまったばかりか、余白に『  だいじょうぶか?』とまで書かれてしまったキョーコさん。

 自他共に認める金山&佳子の”パーフェクトカップル”が放つ眩しい光の影の下、密かにキョーコさんは純真無垢な”金山愛”を悶々と募らせていたわけだが、軽率な一片のメモの管理ミスにより、よりによって一番知られてはいけない人間に、一方通行の叶いそうもない愛を、気づかれるだけなら百歩譲ってまだしも、心配されてしまうという、このうえない屈辱を味わうことに。

    顔がほてってしまう。内容をバラされたら並木中にも行けなくなる。私をみじめにしないでおくれ。心の中で想うだけでいい、もう、金山君のことは・・・。

 諦めよう、彼(金山君)とは断絶しようと一旦は宣言をする。

 が、いつものように翌日には、金山・新情報を目ざとく仕入れてきて、楽しそうに日記に報告している今までと変わらない彼女がそこにいた。

 そればかりか、佳子さんというお似合いのパートナーがすでにいる金山君に知られたら死ぬほど恥ずかしい”片思い”のことを、均がバラしやしないかと羞恥心の淵で藻掻き苦しんでいた日のたったの翌日だというのに、担任の先生の誕生日が理由ではないだろうけど、状況が一変する。

 まだ中三の少女をして「均は前の私にそっくり」と、同情かまたは憐れみを彼に向ける。さらには、「悩みなら私に話してくれればいい」とまでキョーコさんはまるで高みから諭すように均へ言い放つ。

 「恐ろしかった」と一言呟いた彼女。

 いかにして均の口を封じ込めるに至ったのか。「みじめにさせるな」とまで恨み怖れた彼を今では気遣い、優しくいたわるまでになったその理由   

 金山君が頑なにプールに入らない謎。史之舞の新芸   

 劇的変化の生じた日にもうひとつ。彼女の感情の高まりを見事に表現してみせるあるアイテムが加わることになる。

 北の大地の廃屋にて、捕獲した一冊の日記帳。

 ヒグマが押し入って大暴れした後のような、物が乱雑に散らばるとある空き家の一室。

 カビが繁殖した布団にカーペット。雨露で湿った雑誌類。それらの間隙に横たわる、一冊のハードカバー本。屋根の崩れ具合と死角により、水に浸かるなどの被害からは免れていた。

 拾い上げてパラパラと中身を一部読んでみると、どうやら女学生の日記らしいことが判明をする。しかも、ある登場人物(現在まで未登場)と僕との奇跡的な共通点を見出し、驚愕してしまい、これは運命なのだとさえ思い、どうせこのままここに置いてあっても土に還るだけなのだから、とある少女が必至に生きた”証(あかし)”を世界で僕ひとりだけの頭の片隅にでも記憶させておくだけなら、記述者である彼女もいくらかは救われるのではと判断をし、持ち去ることにする。

 その後、記憶するどころか、ネットで連載を初めることになるが・・・

 日記帳はほぼ毎日のように書き綴られているので、当然、青春時代のある一時期が切り取られたものである。

 連日のように書いているのだがら、この前後にも他に日記帳が存在するのではないか   

 翌年の再訪では、抱いていた疑念を晴らすかのように、崩壊が加速度的に進行する廃屋の一室にて、さらなる日記帳を探すことに。

 結果として、勉強机の一番下の一番大きな厚みの引き出しの中に、結構な冊数の日記帳を見つけ出すことに成功。

 東京に持ち帰ってからランダムに数冊だけざっと目を通したが、その中に、ある一時期だけ、カラフルな蛍光ペンで書き込まれている部分を確認する。退色してしまってもう肉眼では判別不能だった。

 イエローやグリーンの蛍光ペンで彩られた判別不能の文字を見て、その時点ではまさかその日記を書き起こししてブログに載せるとは夢にも思っていなかったので、一部が読めないぐらいたいして気にもとめていなかった。

 私的に、僕が蛍光ペンを初めて手にした時は子供心に、『将来この蛍光ペンの文字って薄くなって見えなくなりそう・・・』と賢くも予見はしていたのだが、まさかこのような形で向き合うようになるとは思いもよらず。

 その蛍光ペンだらけの日記のページは、一度確認しただけなのでどの日記帳かは忘れていたものの、突然、相対することとなる。

 それは、史之舞が動物モノマネの第二弾を披露した日。キョーコさんが均と和解をして全てを打ち明けた日だった。

 一度は、「これも人生、成り行きなので判別不能の蛍光ペン・ページは諦めよう。飛ばすしかない」と匙を投げた。無駄だとわかっていても、ダイソーで老眼用のメガネを買ってきて見てはみたが、薄い蛍光文字が濃くなるわけでもなく、ただ文字が大きく圧迫感が増すだけの結果に終わる。

 そこで、フォトショップを使ってみてはと思いつく。

 明るいやコントラストを弄ってもさほど変化はしない。色相や彩度も同様。

 半ば諦めかけた時、トーン・カーブでチャンネルをグリーンにしてからツマミを動かしてみると・・・

 いにしえよりアイヌの魂が受け継がれる”北の大地”にて葬り去られるはずだった、彼女の青春時代の記録。

 一度目と二度目は二年の歳月ををかけて北の最果ての地の瓦礫より救出。三度目はフォトショップでパラメーターを弄ることにより無事、復活する運びとなった   



18-19
 1978 ( 53 )  7月18日

今日  種村先生 のたん生日だって,
言って た 。 均, 前の私と そっくり
でも  そこは ガンバっての りきるのだ ,
BUT  男 と 女はちがうからなあ,
少しちがう考え方 した方が きっと
なやみも少なくなる と思うよ 。
ガンバレよ  私に なやみを話してくれたら
力  に なってやるよ 。 *ナーンチャッ て
金山君 に 明日会えるかな ?
まけるな   くじけるな  GOOD NIGHT ,

 1978    7月 19 日  20● 0:13

今は , 8:30分 7 分 くらい に 目ざめ て
服きて . かお洗って カバン持って 学校に直行
少し ちこく し たけど あ ー しんど  かった。
 集合 体育もあ っ て 50 m , 幅を  やったのダ,
外でなのだけど  男女わかれ たの . 金山君 っ て
なぜ か カッコイイよね 彼! 左 ききよ。山角*君も。
まけるな  くじけるな  オヤスミ マせ!

種村先生の誕生日なのに特にねぎらいやお祝いの言葉はない様子。日記内では正直な反応を示すキョーコさん。

>均, 前の私と そっくりでも  そこは ガンバっての りきるのだ ,

昨日、赤面モノの秘密を”均”に握られて狼狽していたのに、今日は一転して大上段に構えて物を言う彼女。形成が逆転でもして、まるで均が窮地に陥っているかのような言い方をする。

>BUT  男 と 女はちがうからなあ,

女の私は乗り越えられたけど、男はそうはいかないと、女性の優位性をアピール。もしかして、大の男(均)がか弱き女性のメモを盗み見てその内容を言いふらそうとして、正義の第三者にでも均が諌められたという、キョーコさんにとって胸のすくような痛快な出来事があったのか。

>少しちがう考え方 した方が きっとなやみも少なくなる と思うよ 。

前日まで、怒りに震え苦悩していた彼女だが、うって変わって、均に対して強気に攻めている。明らかに上位に立ってしまっている。

>ガンバレよ  私に なやみを話してくれたら 力  に なってやるよ 。 *ナーンチャッ て

最後のオチで落とすために長い前フリによる自虐的なネタが進行していた? 読み手はまんまと騙されてしまったという、彼女の意のままによる高度な文章テクニックが用いられていたのか。それとも、キョーコさんと均の状況を一変させるような出来事が実際に起きたとか。「恐ろしかった」とまで彼女に言わしめた”こと”の詳細は、後日判明をすることになる。



20-21a
 1978     7月20   10:35

また 史之舞が 帰って来たのら .
人の部屋 で 「ブ ー ブ ー  ブ ー ブ ー 」 うるさい。
明日 , 集体あるんですよ .  なんと水泳 でも ,
私は  かぜひ い て るので 入 っ ら ないの  .
見るだ け .  金山君ね .
均に言 って し もう た  . だっ て  スゴク
 おそろしかった 均君 .均君 もっ と
まわり見てよね.あまり考えすぎるね .均
 オヤスミ マ セ
 まけるな  くじけるな  かぜなおそう .

肉眼では判別不能の蛍光色で彩られた一日。次の日は通常のペンで書かれていることから、心の動揺をPOPな色で是非とも表現をしたかったのかもしれない。封印されかかっていた、とある少女の1978年7月20日の記憶を、なんとか白日の下に蘇らせることに成功する。

どういうローテーションなのかは分からないが、今日も帰って来た史之舞。時折話題に出ると「帰って来た」という言い方をしていたので、てっきり施設住みで週末になると一時帰宅をしているのかと思っていた。この頻度だと、どうやら数日置きに家からただ通院していると見るのが正解か。

>人の部屋 で 「ブ ー ブ ー  ブ ー ブ ー 」 うるさい。

キョーコさんに時々お小遣いをくれる目上のはずの兄弟が、「ブーブー ブーブー」と今度は豚の物まねで妹を困惑させる。

数十年後の未来から僕が言えることは、今、その瞬間を楽しみなさいということだけだ。自分より大きい史之舞が子供のように無心に豚の物まねを夜通しやり続けてさぞ迷惑なことだろう。高校受験を間近に控えているというのに。ただ、近い将来、あの瞬間が、かけがえのない貴重な時だったのだと、実感をする日が確実に来てしまうことになる。そのためにも、『ネコ、豚と来たら次はヤギでもやってよ!』ぐらいの兄弟孝行の気概を是非、キョーコさんにはみせて欲しい。そうすることで、大雪山の雲の上より、史之舞も温かい目でキョーコさん家族達を末永く見守ってくれることだろう・・・・・・とはいえ、その先にあるのは、崩壊間近の廃屋。まるでタイムパラドックスのようになるわけだが、実際にはどうなることか。

>明日 , 集体あるんですよ .  なんと水泳

一年の間でも外で運動をする時間が限られる北海道。それなのにしっかりと水泳の時間がもうけられていた。集体をする学校は地域を代表するようなモデルケースの中学校。財政の厳しい地方都市ながら、見栄を張って無理してプール施設を作ったのか。

>私は  かぜひ い て るので 入 っ ら ないの  .見るだ け .  金山君ね .均に言 って し もう た  . 

キョーコさんが風邪でプールに入らないのはわかる。そして、この文脈からすると、てっきり僕は金山君が”均”に諌め忠告でもした(例のメモ盗み見のこと)のかと思ってしまっていた。自分(金山)がキョーコさんの恋愛対象になっていることはひとまず置いておいて、キョーコさんにしたら触れて欲しくないゴシップを言いふらそうとしている”均”に、「それはいかがなものか」と、クラスの女の子がより一層引き寄せられてしまうような、麗しいほどの正義感を金山君が発動したと。

>均に言 って し もう た  . だっ て  スゴク おそろしかった 均君 .均君 もっ とまわり見てよね.

しかし、このように区切ると、事情が明快に判明をする。金山君に恋バレしそうだったキョーコさんは、もしかしたらの現実に  一方通行の愛(キョーコ→金山)を金山君に鼻で笑われ否定をされる可能性  恐怖さえ感じ、それよりはと均に正直にことの詳細を話し、口止めの約束も取り付けたと。

>あまり考えすぎるね .均

余計なこと考えないでそっとしておいてくれと、キョーコさんは均に乞うように夜更けにひとり呟く。



 金山君が頑なに水泳を休むことに疑問を呈し、疑惑さえ募らせていくキョーコさん。そんな中、金山君に兄がいることを聞きつけ、名前の情報まで入手する。兄の顔の造形や、ある動物に似ていたり、歯の形状の詳細までも知るに至る。金山兄の具体的な容貌の情報を精査すると、かなり残念なことになるという結果になり、兄のことでありながらいたく憤慨をする。

 翌日には、母と車で町まで行って買い物をする。そこでは、当時もあったのかと思うような食べ物を購入。

 夜になると史之舞と海へ行き、その後、喫茶店へも。お金が無くなるほど食べまくる史之舞を横目に、キョーコさんはその場所に金山君と来れたらなと、まるでデート場所を下見でもするかのように、茶店内を注意深く観察し始める   



つづく…

「少女が夢を語る場所」 実録、廃屋に残された少女の日記.29
  

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