小幌駅 礼文駅
 車中泊をすれば朝には窓ガラスに台湾かき氷を敷き詰めたような霜がびっしりとこびりつく。それを道中のダイソーで購入をした雪掻き棒の先端のヘラで削ぎ落とすのが朝の日課。

 みぞれはもう見たが本格的な雪はまだのようだ。北海道の人からしたら、これぐらい真冬ではないのかもしれないが、東京からやってきた痩せ気味のいい歳をしたおっさんからすれば、車中泊起床時の凍えるような寒さは殊更骨身に沁みる。体感温度マイナス二十度と言っても決して大袈裟ではなく、泣き言も漏らしたくなる。

 宿は室蘭駅前の老舗ビジネスホテルに一泊。

 車で室蘭を出発して登別を経由し、苫小牧まで行く予定。

 前日に、「秘境駅」の中でも、その到達難度から”最高峰”と称されている「小幌駅」が、苫小牧とは反対方向だがなんとか行ける範囲にあるという情報を掴む。長万部の手前だ。行き当たりばったりの旅行なのでしようがないが、本来の目的地とは反対の方向にその秘境駅はある。

 前にネットでざっくりと確認をしたことがあったが、あれはあんなところにあったのかと。

 いつかは自分で行くだろうからと、事細かな情報はインプットしていなかった。車で直接行けないのと、併設してある小屋にホームレスが住んでいるとかいう話しだけは記憶している。

 以前、生まれて初めてインドに行こうかという時、期待を大きく膨らませ過ぎて、古今東西、今昔、インドに関するあらゆる本を読み漁った経験がある。

 それこそ、古くは堀田善衞の「インドで考えたこと」から椎名誠の「インドでわしも考えた」まで。藤原新也の「インド放浪」、蔵前仁一の「ゴーゴーインド」。その他、無名の著者などによる『これだったら俺の方が面白く書けるだろ・・・』といった買うに値しないだろう本まで、ありとあらゆるインド本を読み尽くすことに。

 実際自分でインドへ行ってみると、確かにまれに見る経験が味わえる国ではあるものの、本に書かれている以上の感動はなく、むしろゴミ溜めのようなゲストハウスにいる生気のない目をした、日本ではお目にかかれないような日本人と他愛もない雑談をしたことが今でも忘れられない思い出として残っている。

 ということもあり、実体験が事前の予備知識に侵食され物足りなくなるという虚しさを再度経験しないためにも、小幌駅に関する情報を敢えて無に近い状態にとどめ、近年プチ・ブームさえ起こしているという秘境駅、その中の最難関到達度と称される秘境駅の中の秘境駅、「小幌駅」へ本来の予定を変更してまで   行ってみることにする。
 


秘境小幌駅 礼文
 秘境駅、小幌駅へのアプローチの仕方、考察。

 鉄道旅行をしていれば、周遊券なり青春18きっぷがあるだろうから、各駅停車を乗り継いでいって小幌駅で下車をすればいい。

 車で旅行をしている場合はどうだろうか。

 本来僕は気楽な鉄道旅行が好きなのだが、今の北海道の虫食い路線図では、道内を効率よく旅行をするのは至難の業である。なので泣くなく車を使用している。

 そこで、車での旅行中につかの間の汽車旅情を味わおうと、車は室蘭に置いて列車で小幌駅までを往復しようと思いつく。

 ただ、それだと往復だけで半日以上潰れてしまうことが判明。

 貧乏車中泊旅行をしているというのに、高額な乗車券にもかなり問題がある。

 いろいろシュミレーションをした結果、小幌駅の隣駅である「礼文駅」へ車で乗り付け、車は駅前に駐車しておく。礼文駅から列車に乗り一区間、念願の「小幌駅」へ行くのがベストだと導き出す。



秘境小幌駅 案内板
 早起きをして室蘭を旅立つ。

 早朝の礼文駅に到着。

 駅前にあった、かなりラフな手書きの案内図。

 礼文島と何か関係でもあるのかと思ったら、礼文とはアイヌ語の(沖へ突き出たところ)に由来するとのこと。



秘境小幌駅 ホーム
 礼文駅駅前もホーム上も人の影は無し。

 ホーム後方の小道を挟んですぐ、山々がそびえる。すでにここですら秘境駅のたたずまい。



秘境小幌駅 礼文駅ホーム
 厳しい寒さと人のいない駅。

 北の最果て汽車旅情を全身で体感中・・・。

 稚内駅の並びに、「さいはて」という”くたびれた”旅館がある。   『俺は日本最北端に辿り着いた旅人なのだ・・・』とそこの前を通るたびに都度感傷的になってしまう自分がいる。憧憬の念さえ持ちその旅館をじっとただ見つめ眺めることしきり。何しろ名前が良い。

 かなり年季の入った旅館なので敬遠して宿泊したことはなかったが、一度、列車が遅れて深夜に稚内駅へ到着した時、寝るだけだからこの際思い出にと、泊まってみたことがある。部屋はカーペットに炬燵で至って簡素だった。

 朝目ざめて窓を開けたら、深夜には気づかなかったがすぐまん前が、稚内駅から少しはみ出た車両止め。次に乗る特急がもう眼前に停車をしている。列車の運転手に寝ぼけまなこを見られたら恥ずかしいので、すぐカーテンを閉めるほどに近い。駅前旅館に”偽りなし”の光景がそこにはあった。

 哀愁漂う駅前旅館だったが、稚内駅のリニューアルとともに、駅周辺部も再開発をされて、「さいはて」を含む古びた旅館などは一掃されてしまったとか。



秘境小幌駅 ワンマン列車
 そうこうしているうちに列車がやって来る。ワンマン式。



秘境駅 列車内
 誰もいない車内。後方の車両には若干名の乗客がいる。

 小幌駅下車は僕ひとりだけだろうか。その方が都合が良い。次の列車まて一時間前後もあるので、もし他にも誰かいたらコミュニケーションをとるために余計な神経を使わなくてはならない。数人いたら写真にフレームインする気苦労もでてくる。

 僕ひとりだけであってくれとひたすら祈る。



秘境駅 下車
 小幌駅で下車をしたのは僕だけだった。 

 運転手兼車掌が驚きを隠せない表情をしている。

 シーズン中ならともかく、寒い冬の日の早朝、男がひとりで降り立つ駅ではないのかも。



秘境駅 去る列車
 去る列車。

 置き去りにされた子供のような寂しさを味わう。



秘境駅 トンネルへ
 この時点では感慨深く、見えない手を大きくふるような面持ちでいたが、秘境駅とはいえ室蘭本線ということもあり、以降、呆れるほどビュンビュンと列車が通り過ぎていった。



秘境駅 左右
 完全にトンネルの中へ入るまでお見送り。

 室蘭を背にして、左側に海を見下ろす崖。右側がそり立つ山。

 山と崖に囲まれ閉ざされた小さな空間の中に存在する駅。それが「小幌駅」。


小幌駅 向かい側
 向かい側のホーム。



小幌駅 貨物列車
 贅沢な運び方をする貨物列車が通過中。



小幌駅 駅名標
 ざっと見えるだけでも、線路を隔てて建物が左右にそれぞれ一棟ずつ。



秘境駅 アップ
 やさぐれた自由人が住む可能性のある小屋もあるとか。



秘境駅 トンネル口
 鉄道関係の建物二つに謎の小屋。加えて崖下探索となると、次の列車が来るまでの約一時間前後で間に合うかどうか。



小幌駅 トンネルと空
 そんなに盛りだくさんなら、数時間滞在すればと思われるかもしれないが、何しろ寒い。冷える。体の芯を温めてくれるような退避場所は無い。

 滞在一時間が我慢の限界と言える。



秘境駅 その先
 茂みの奥になにか見える。



秘境駅 小屋へ
 人が住むという例の小屋を発見。

 話しぐらい聞いてみようと、訪ねてみることに   



つづく…

「廃施設、重点見回り」 秘境・小幌駅、冬のひとり滞在.2


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