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 運動会のリレーで大逆転劇を演じてみせた金山君。なのに、あの時の勇ましさはどこへやら。日頃から熱い視線をひた隠しに送り続けるキョーコさんでさえ、彼の水泳欠席には疑惑の眼差しを向ける。

「なぜ  入 らない の かな   

 その理由は薄々感づいているようでもあったが、彼女は金山君を庇うようにしてあえて核心には触れない優しい気遣いをみせる。

    冬が長い土地にいるのだから泳げないことぐらい何も恥ずかしいことじゃない。でも陸上競技はなんでもこいの”友”が、こと泳ぎとなると気配を消してプールサイドで一時間ずっと体育座り・・・。

 日頃スポーツマンとして活躍をする金山君の高低差のあるギャップに母性本能をくすぐられたのか。自分も水泳を休んでいるので、共通した弱い一面があるということで、思いがけなくも親近感を持ったのだろうか。

「でも 金山君も入らないの,ステキな金山君  !」

 ともすれば、泳げないカナヅチの人が仮病を使って水泳の時間を休んでいるという・・・決して褒められるようなことではない可能性もあるのに、たとえそうであってもキョーコさんは”愛おしい”と盲目的に、金山君への恋心を  形勢は不利ながらも(佳子さんというパートナー)  より一層深めていく。

 金山君の兄、「金山春彦」の存在。

 兄の春彦は前歯が欠けていて猿似だという。情報としてもたらされるぐらいだから、相当な歯欠けとしのてインパクトがあるのだろう。

 更には春彦の顔は”友”とそっくりだとか。兄弟だから必然的にそうなのだろうが、歯欠けの部分は差し引くとしても、兄の間の抜けたイメージの並びで金山君が語られるのはいかがなものかと釈然としない彼女。

 一緒くたにされ、歯欠けの猿似であると金山君までが嘲笑われたような気がして、これは侮辱だとキョーコさんは憤る。間接的に金山君がバカにされたような気がして許せないのだ。


 母と一緒に車で街まで行ったキョーコさん。

 そこでおねだりをして買ってもらったのは「冷やしラーメン」。

 昨今、東京のラーメン店などでみられる、一般的な冷やし中華ではなく、通常のラーメンを冷やしたタイプを、数十年も前にキョーコさんの家では独自に作り上げていたのかと当初思われた。

 が、北海道では、通常の冷やし中華を、かなり昔から「冷やしラーメン」と呼んでいることが判明する(一部かもしれない)。

 ちなみに、こだわりの冷やしラーメンの具材は、次の日の朝にごく自然な形で流用されることになる。
 
 夜は史之舞と海を眺めに行く。そこでの一言   

「でも 私 は町が好き なのよ  なんとなく いい かん じ」

 都会に憧れる少女の願望か、大自然の中の一軒家に住む少女の気分転換による何気ない軽い一言だったのか。

「デートをするには最高かも   

 少女は頭の中でイメージトレーニングをする。叶えさせてあげたい小さな夢。日記を書き起こしている本人さえ二日程度しか先読みをしていないので、”金山愛”の本当の行方はまだ知り得ていない。でも実の当の彼女は知っているという、これまたパラドックス。

 すでに夕ご飯の冷やしラーメンを食べた後だというのに、喫茶店では史之舞がお金が無くなるまで食べ続こることに。その食いっぷりをあきれた様子で記述するキョーコさんも実は負けじと、チョコパフェとミックスサンドを喰らう。夜、胸焼けなのか、苦しくて寝られないほどに。

 前の晩にあれほど平らげながら、翌日の朝には、冷やしラーメンの具材を流用した豪華な朝食。加えて、デザート二品まで食す、彼女。

 昨晩宿泊した史之舞の家が水浸しになる被害を受ける。

 音楽鑑賞中に激しい雷雨が家を襲う。

 駅まで史之舞と行き、お買い物。そこで、史之舞に関するある基本的な謎が解き明かされる。

 史之舞と別れ汽車で地元の駅まで帰る。先に降りていったのは金山君、その人。

 山角君の家の前では、一緒になって遊ぶ佳子さんを目撃。

 好司君(山角)のことも見ることができて幸せと喜ぶキョーコさんだったが、その舌の根も乾かないうちに、結構な長文を用いて、修学旅行での”あの”ときめきを回想しつつ、金山君への恋心を切々と語りだす   



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 ( 7月 23日)
9:00 ごろ おきて
朝食  (肉 私がやいて やった .
ハム . レタス  トマト  、 コーヒー
パ ン ) を 食べた  、
アイス を 食べて スイカも食べた、
しかし 今日は  洗たくを した 。
史之舞にかかったらどうにも

 こうにも  つかれた  .
家 も水 び た し じ ゃ  .
 つか れた か  ら  く わ しい内容
書かない !
 次に 家 の 中 で  レコ ー ド を
 きいたり した . 雨 もふ っ て いたり
かみなりが したり  すご か った
でも 私が  帰る 時 にはやんでい た  .
史之舞 も 来て とたのん で ,駅 ま で
さ そっ た  . バス で 行った  .  時間があった ので
史之舞 の  ストッ キング の  つきそいを した.
ステ ー ション で  バイ バイを した  .
駅 では 立 って いた . すわる場所 がないのよ  .
藤淵 →東藤淵  → そして 並木 .
その時 ,  おりて 行った のは 金山君 だったので
す .  この 汽車にのってるなんてしらなかった .
知っ てたら それなりに なんとかしたのに .... 。
でも  2学期まで  見られないと思ったら
金山君を見れたのです  . しあわせ  .
山角君が 自分家 の前 で母親を前 にして
あそんで ました , む じゃきな人よ 、 佳子ちゃんや
マドさんも  . 他の人もいてあそんで た 。

>朝食  (肉 私がやいて やった .ハム . レタス  トマト  、 コーヒーパ ン ) を 食べた  、アイス を 食べて スイカも食べた、

わざわざ言及してはいないものの、明らかに昨晩の冷やしラーメンの具材を流用している。翌朝の朝食を考慮しての母親にわざわざおねだりまでして買ってもらった冷やしラーメンとその他具材であったということなら、将来有望な節約主婦になりそうな予感。

昨晩は冷やしラーメンを食べた後に喫茶店でミックスサンドにチョコパフェを食した彼女。その翌朝に、かなり濃い内容の朝食にデザートまでもう二品。思春期のこの頃が一番食べ盛りなのだろうか。

>家 も水 び た し じ ゃ  . つか れた か  ら  く わ しい内容書かない !

家という言い方をしているが、昨晩は史之舞の部屋に泊まっているので、史之舞の家(部屋)という意味だろう。

水浸しの要因を説明していないのはなぜか。雨漏れによる水浸しであったら、そのように素直に書くと思われる。

水浸しと言い放つ直前にこのような記述が。
 
>史之舞にかかったらどうにもこうにも  つかれた  .

つまり、史之舞が手のかかる幼子のごとくはしゃいだからなのか、洗濯を手伝いながら要領の悪さから盛大に水を史之舞が室内へぶちまけたのか、といったケースが考えられる。

実はこの史之舞という人。ここまで書いておきながら、男性なのか女性なのかよくわかっていない。なので三人称を使えず、ただひたすらに違和感がありながらも名前を連呼して書き記していた。

史之舞はキョーコさんにお小遣いを渡すような年上でありながら、夜通しネコや豚の物まねをやったりと、体は大人だが内面は童心を保ち続けている人というのが、日記からうかがえる人物像である。毎日のように施設に通っているというのも、それらに起因していると思われる。

このような人なら部屋に水を突然撒いたりやりかねないだろう。キョーコさんも怒るに怒れず。説明をする気にもなれないし、怒りを自ら収めるしかない。

本来この日記は他人に見せるために書かれたものではないので、姉妹か兄弟かなんていう説明は当然のことながら省かれている。引っかかっていたその部分がやっと、次からの文章内容により判明をすることになる。

>次に 家 の 中 で  レコ ー ド を きたり した . 雨 もふ っ て いたりかみなりが したり  すご か った

冬は氷と雪で閉ざされ、夏には激しい風雨に雷。

>史之舞 も 来て とたのん で ,駅 ま でさ そっ た  . バス で 行った

史之舞の施設内にある部屋に泊まったキョーコさん。実家へ帰るためには駅まで行かなくてはならないが、ついでに見送りに来いと史之舞も誘う。

>史之舞 の  ストッ キング の  つきそいを した.

ストッキングを買う史之舞さん。女性だったようだ。今の時代ならユニクロのヒートテックを履くおっさんもいるが、当時のストッキングとはステテコではなく、女性の履くストッキングのことを言っているとみて間違いない。

自分としては史之舞さんを男性だと仮定して書いていたので意外ではあった。

>駅 では 立 って いた . すわる場所 がないのよ  .

この駅へは何度も行ったことがあるが、待合室にはかなりの数の座席がある。夏休みシーズンということもあり、旅行客などで賑わっていた様子。

>藤淵 →東藤淵  → そして 並木 .その時 ,  おりて 行った のは 金山君 だったのです .

”運命を感じる”と言いたげな書き方をするキョーコさん。

>この 汽車にのってるなんてしらなかった .! 知っ てたら それなりに なんとかしたのに .... 。

「それなりなんとか」とは、どういうことなのか。明るく振る舞って挨拶をして、ボックスシートの対面に腰を下ろすとか。何気ないきっかけの会話が、一生モノになる場合も当然ある。不自然ではない形で金山君と二人だけになるチャンスを逃してしまったとも言えるキョーコさん。

>金山君を見れたのです  . しあわせ  .

見れただけで幸せだと思ってしまうほどのピュアさを持ち合わせているのは、せいぜい中学生ぐらいまでだろうか。何時までも持ち続けておくれと願うこの初々しさ。

>山角君が 自分家 の前 で母親を前 にしてあそんで ました

金山君に対する日記内での書き方は、まるでもうひとりの自分へ問いかけるかのよう。山角君になると親や先生に報告でもするような書き方になっている。

>む じゃきな人よ 、

酪農の手伝いをしたり料理を作ったりしているキョーコさんからすれば、自宅前で母親を前にして遊び呆ける同級生の男子は、子供っぽく無邪気に見えるのも納得か。もはや親目線に近い。

>佳子ちゃんやマドさんも  . 他の人もいてあそんで た 。

その家庭環境から、キョーコさんだけが特別に自立していたという可能性もある。施設に通う姉の面倒も見なければならないのだから。



23c
 並木で 12.  13分 くらいおく れた
 で も  好司君の 母も 見れた の  で よかった,
 でも金山君 が  のって いた なんて今でも
胸がおかしい  ,金山君  私  !
あなたのこと  ほんとに 好きになった の
 でも .あの修学旅行でも  バス の  かい 談の続きは.
私はまるで 年上の人って かんじ で いた,
今で も あの時の  ことを思い出すと
私は年上の 人にかんじる  ,  でも 友彦君好き
友!  あ と は  . 行間辺 について オシマイ
お やスミ  部屋 かた ずけよって
金山君  .友!  片思いでも  いいよ .  オヤスミネ.!
     まけるな  くじけるな  Goodナイト

>で も  好司君の 母も 見れた の  で よかった,

金山君ほどではないとはいえ、山角君の母親さえも、見れただけでもうれしいと漏らす。将来姑とは仲良くやれそうな彼女。

>でも金山君 が  のって いた なんて今でも胸がおかしい  ,金山君  私  !

SNSが発達しまくりまくったこの現代において、ここまで人と人の出逢いを尊ぶ人がいるだろうか。もはや西野カナでさえ触れない領域。同じ列車に乗っていたというだけで胸が苦しいと   

>あの修学旅行でも  バス の  かい 談の続きは.私はまるで 年上の人って かんじ で いた,

中学生ぐらいなら、体格や精神年齢も女子の方がまだ上だったりする。ちなみに、僕はそこそこ腕力に自信のある左利きだったが、中学生の頃、クラス一番の怪力だったソフトボール部の女子(右利き)と腕相撲(どちらも左腕で)で勝負をした結果、大惨敗をして大恥をかいた経験がある。

>今で も あの時の  ことを思い出すと私は年上の 人にかんじる  ,

家では家事をこなしたり家業を手伝うキョーコさんがクラスメートの男子を子供のように見るのは無理もない。

>でも 友彦君好き 友!

つき合うのかはともかく、思いを伝える日はやってくるのだろうか。当のご本人は彼女が毎晩のようにここまでして慕っていたということを、数十年後の今、知り得ているのか。

>金山君  .友!  片思いでも  いいよ .  オヤスミネ.

最近お気に入りの呼び方「友!」を連呼するも、片思いでいいよと、まだあくまでも控えめで消極的な彼女だった。



 まもなく終業式を迎えるにあたり、地域によってはそんなことに時間を割くのかといったことを、二時間も授業を潰して行う。

 バスケの授業では上月先生が例の話しとやらをしだして、キョーコさんが最近覚えて多用するようになった言葉「憤慨」を用いて激しい怒りを表す。

 唐突に登場をする兄貴。今まで一緒に住んでいたとしたら、全く話題に出てこなかったのは史之舞のような理由があったりするのだろうか。
 
 キョーコさんと兄は将棋をやったりする仲。

 対局をしていたまではよかったが、例の恋人一覧表みたいな紙を、兄貴に見られてしまう。

 それが原因なのか、夏休みの開放感がそうさせるのか、キョーコさんは突如「フりょ(不良?)したい」と力強く宣言をする   



つづく…

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