かどや 座布団
 宴会場とおぼしき地下の大空間。すでに金目の物は盗られたか撤去でもされている。残っているのは再利用価値のなさそうなガラクタばかり。



かどや ガス栓
 ガス設備まで完備。

 個人の客には上の階で定食や揚げたてポテトなどを食べてもらう。団体客には地下の宴会場にて、目の前でジュージューとジンギスカン鍋を提供。かどやなりの棲み分けはきっちりとできていたようだ。

 今のトレンドはどうだかわからないが、当時、札幌で一番人気のあったジンギスカンの店に行った時のこと。

 こじんまりとした店内。もう何十年もやっている老舗のお店。

 夕方のオープンとと同時に入店。カウンター席に陣取ったのは僕以外にも、常連らしい仕事帰りの作業着姿の肉体労働者風の男性など。個人的にうれしいことに一人客が結構散見された。本来、そのような店だったのだろう。

 肉は冷凍ではなくて厚切りの生ラム肉。今まで札幌ビール園の冷凍薄切りパリンパリン肉しか食べたことがなかったので、その違いに驚く。

 ちなみに、初期の桃太郎電鉄をやっていたら、『札幌ビール園のアイスクリームは濃厚で最高!』なんていう情報がゲームの中にあり、それが長い間頭の隅にあったので、札幌ビール園に行った際に思わず飛びつくように念願のそのアイスを注文。が、カップに入ったアイスは泥団子程度の満足感の無い大きさ。日本全国を食べ歩いている”さくまあきら”が言うなら味は確かだろうと食べてみるも、乳脂肪分の割合が狂っているのか、アイスというよりただのホイップクリーム。量は少ないしメレンゲみたいな泡にも近いクリームなので物足りないことこの上なく、たった二口でペロッと平らげてしまう。ふわふわ気味のアメリカ製のマヨネーズのようだった。以降、”桃鉄美味しいモノ”情報は信用しないことにしている。

 ひとり身でも気兼ねなく入店出来て、肉は札幌ビール園の四倍ぐらいの厚みがあるわで、こりゃ最高だと店自慢の極厚生ラムを熱せられた鍋に次から次へとのせていく。

 開店から十数分もすると客がこれでもかと更になだれ込んでくる。たちまち僕が座っているカウンターの背後に大勢の順番待ちの列。カップルが多い。食べログランキングの最上位の店なので本来の層とは違う人達も大挙して押し寄せて来ているようだ。

 建設現場帰りらしき汚れた作業服を着た僕の隣に座るおじさんは居心地の悪そうな顔をしているし、僕も後方から列待ちの人達の無言の圧力を受ける。

 OLらしき四人グループ。六人ぐらいのアジア人観光客。派手な服のカップル。ネットの普及により、老舗の煤けたジンギスカン屋にともすると場違いの人らがこぞってやって来て店内を早々に埋め尽くす。

『早よ焼いてうちらに席譲れ』と言われているようでとにかく落ち着かない。建設現場帰りのおじさんもそう感じたのか、焼きのピッチを混む前に比べて相当早めている。

 順番待ちの列は真後ろに平行の並びで加速度的に増殖。大人数の順番待ちの人達のプレッシャーを背中に受け、せかされるようにして、僕も肉や野菜を慌ただしく焼いていく。

 食べログさえ無かったら、常連の肉体労働者のおじさんも、こんな肩身の狭い思いはしなかっただろう。まあ、僕もここへ来ることは無かったかもしれないが。

 肉が厚いだけあってなかなか火が通らない。野菜類もぶつ切りなので同様に焼けるまでかなり時間を要する。

 建設現場帰りのおじさんはメンタルが強いのか、ピッチは早めてはいるものの、肉と野菜がしっかりと焼けるまで酒をグビグビやりながら待ち続けている。『最低限の時間は取らせてもらう。後ろに何十人並んでもこれだけは譲れない』と常連の意地を見せる。

 増え続ける人待ちの列に圧倒されて、もうたまらず、肉も野菜もまだまだ焼きあがってはいないものの、僕は食べ始めてしまった。

 いざ食べてみると、玉ねぎは生焼けで固いしとても苦い。肉はなんとか火が通っていはいるがこれまた固い。肉も野菜もしんなりするまで待たないといけないのである。

 特に生焼けの苦い玉葱をかっこむのは苦行。一見さんの観光客風情の一人客がちんたらくってんな、というクレームを僕が一身に受けているような気がしてもう我慢できず、玉葱の痺れで口の粘膜がひりつきを起こすぐらいの傷みも伴ったが、”意地”で完食をしてみせる。そして圧力をはねのけるようにして店を飛び出た。

 ”意地”(完食)というのは、もし鍋に野菜や肉が残っているのを、次の順番待ちのカップル達にでも見られた場合、『ひとりで食べてるのが恥ずかしくなって、顔真っ赤にしてアイツ逃げ出して行ったよ!』とでも勘違いをされて嘲笑されたら悔しいので、あくまでも僕は人より食べるのが早かっただけなのですという体で、表情は涼しげに取り繕って、余計な嘲りを抱かれないように全てを平らげたのだった。早くて完食までしていればこれ以上のケチはつかないだろうと   

 そんな病的なまでの被害妄想を催させてしまうぐらいの待ち人達らの精神的圧迫から辛くも逃れる。

 かどやの歴史のある地下宴会場でも、そのような他愛もないストーリーがいくつか生まれたりしたのだろうか。

 ちなみに、その人気老舗ジンギスカンのお店のオーナーは、店の売り上げを北朝鮮に不正送金していたという容疑で警察に逮捕をされてしまった。

 その後、僕は北朝鮮に観光で訪れることになったが、平壌の名物肉はラムではなく、鴨焼肉であった。食べ方のスタイルが似通っていたのは何らかの関連性があるのか、単なる偶然か、定かではない。



かどや 椀
 ここでビバークすると言ってはみたものの、畳の上をよく見れば、陶器の細かい破片が撒かれたようにある。砂埃で汚れも酷い。

 

かどや 壁紙
 湾曲し収縮する畳。

 窓際にあるので雨水が染み込みやすい。陽も受けやすいので湿った後はカラカラに乾燥をする。それを幾度となく繰り返す。い草は通常より加速度的に収縮をしていく。

 その結果、昨今のトヨタ車の”スピンドル・グリル”のような畳が、窓際へともたれかかる結果に。
 


かどや 垂れ
 次の訪問時には、撫でるようにして床へ着床していると推測。

 書きはじめの筆のように。



かどや 窓
 夏はラム臭を外へ追いやり、冬には風雪を防いでいた、窓。

 例の札幌の人気ジンギスカン店では、透明のビニール袋を用意してくれる。それにジャケットを入れてニオイ移りを防ぐ。かどやでは、そのような配慮があったのか。そこらへんの細やかさが、天と地の結果、つまるところの要因でもありそうだ。

 望むは洞爺湖。



かどや 小便器
 もう大宴会場は良かろうと抜け出す。

 やっぱりトイレ・チェックをしておこうと入ってみるが、綺麗でもなく、汚くもなく。至って普通の結果に。
 


かどや 階段駆け上がり
 もう十分ではないかと。

 ここまでは、もう階段を登りきったらすぐさま外へ出て車に乗り込むつもりだった。

 しかし、一階での再最終重点見回りにおいて、更なる昭和の痕跡を掘り起こすことに成功する。
 


つづく…

「かどやの顔と最終決断」 昭和の栄華、廃墟ドライブイン『かどや』の夢.9 

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