夕張 廃墟
 数ある廃墟や廃屋の中から、無作為に選び出して侵入を試みる。



夕張 パチンコ台
 横たわるパチンコ台。手動のレバー式ではなくて、丸いハンドルの電動式。台は羽根物でメーカー名は「HEIWA」。家庭用に改造された物だと本体に後づけされた枠や台があるはず。この台はパネルのみで構成されているので、実際にお店で使用されていた台に違いない。

 手前にシャッターの中柱。室内は奥行きがあるものの、パチンコ屋のようなきらびやかさはない。

 そう大きくない町なので、そこに存在していたパチンコ屋だとしたら、遠くまで出掛けられない老人を相手にした、小規模のこじんまりとしたお店といったところではないだろうか。炭鉱夫の嫁がパートで店番をしているような、場末のひなびたパチンコ屋さん。



夕張 ドル箱
 僕の推測を裏付けるかのように、パチンコ店の在りし日の痕跡を発見。野晒しのドル箱の中には、パチンコ台の釘。ゼロ戦の絵柄が描かれたチャッカーのカバー。虫の死骸も。

 それにしても、パチンコの釘がこんなにも長いものだとは。表面に出ている部分はせいぜい1.5cmぐらいだろうから、貫通して板の裏側へ飛び出ていそうだ。

 剥製の中身の正体やパチンコ釘の長さだったり、物の行き果てる場所、現代遺跡ともいうべき廃墟においては、その残滓からどうでもいい豆知識が絞り出される。

 年金受給者の元炭鉱夫に愛された、町中のお手軽パチンコ店。

 今、彼らは、夕張駅前の”スーパー銭湯”が大のお気に入りだ。切に願うのは、若き市長さん、そこだけ(スーパー銭湯)はなんとしても続けておくれよと。巨大ロケット客船のような突飛なデザインのスーパー銭湯の各窓から窺えた、この世の至福といった最上の笑みを浮かべるご老人達   

 国のエネルギー政策に翻弄され、市の巨額赤字財政に希望を断たれ、聞けば、夕張市は、行き場の無い炭住住みのご老人が、死するのをただ待ち続け、天界に召されると同時に、建物をこれ幸いと取り壊すのだという。代替のアパートを用意することもなく、半廃墟みたいな炭住に死ぬまで住まわせ続けるという仕打ち。

 テレビではそのやり方を合理的で整合性があるかのごとくの説明をしていたが、お国のために命を削って過酷な炭鉱労働をしたご老人の辿りついた先が雨漏りがして腐食をした炭住であるというなら、そこには絶望しかない。

 束の間の安らぎを求めて通う場所が、あのスーパー銭湯だというなら、窓に映された顔が一様に笑みであったのは、頷けるというもの。



夕張 電話番号
 小規模ながらパチンコ屋だったことを決定づけるような、電話番号表。

 他所のパチンコ屋、遊戯組合の電話番号などが並んでいる。当時は景気がよく、皆お金を使っていたから、小さい町の片隅にも、一杯飲み屋のようなパチンコ屋が存在していたのだろう。



夕張 ヴィレ
 猫の額のようなパチンコ屋に集うご老人。飛び出しそうなロケット型スーパー銭湯に集まるご老人。

 行き着いた先はどちらもとても暗い。目の前を覆われたように感じつつ日の陽射しの下に出る。

 寝そべるように横たわる、「VIRRE COFFEE」の真っ青な自動販売機。初見であった。

 調べてみると、ある年代の人にはお馴染み「VIVO(ビーボ)より美味いのはVIVOだけ」のキャッチ・コピーで知られる、VIVOの「ヴィレ・コーヒー」ということらしい。

 缶取り出し口の上あたりにこう書いてある。

『FOR YOUNG MENS RITCH COFFEE BEANS』

 缶コーヒーのメインターゲットが若い男性なのは、この頃から同じようだ。当時ここには、大勢の若者達がいた証しでもある。



夕張 全壊
 ヴィレコーヒーの販売機から頭をもたげると、人差し指でひと押しさえすればすぐさま倒壊しそうな木造家屋。

 傍らの紅葉した木々のアクセントにより、一層鮮やかにひきたてられる崩落木造家屋。これを美と感じるようになってきたのは、バックパッカーとして、世界中の絶景を見終えてしまった頃ぐらいからだろうか。



夕張 シャッター
 招き寄せるシャッターの口腔。



夕張 緑
 飲み込まれにいった先には、「緑の家」ともいうべき、SF小説好きの少女がかつて住んでいたという、民家兼食堂であった。

 たっぷりと水分を含み、いつ抜けてもおかしくない状態の床を、震える忍び足にて、念入り細密探索を”これでもか”としていくことになる   
 


つづく…

「グリーン・フォールのトラップ」 夕張廃墟世界、孤独探索.7 

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