深大寺裏の廃屋-1
 平成二十七年の二月二十六日に施行された”空き家対策特別措置法”が徐々に浸透してきているのか、それとも僕の 周辺だけなのか、目に見えて空き家が減ってきている。

 先日も、いい具合に熟成具合が進行しつつあった近所の廃屋を、『そろそろ撮り時だな・・・』と満を持して撮影決行の判断を下し、早速行ってみたら、ちょうど家の解体途中だった。呆然と立ち尽くす僕の前で、大工の職人さん達が瓦礫を囲んで休憩中。大工さんらがスマホでポチポチとソシャゲをやっているのに妙な違和感が。皆無言でゲームをやっていて、従来の職人の世界とは全く異なる光景を目にすることになった。

 この法律はざっくりと言うと、問題があると思われる空家に対して、行政側が強い権限を持って対処できる、というもの。

 来る東京オリンピックにおいて、この傾向はますます加速していくと思われる。失われていく趣のある”空き家”を、行政から”目障りだ”と権限を発動され撤去されてしまう前に、微力ながら僕の手で、画像の記憶という形で「空き家・廃屋」を保存できやしないだろうかと思いつく。

 内部へ潜入できる物件は個別に記事をエントリーするとして、そうでないものは、このシリーズにまとめようかと。

 退廃的な気を放つ”空き家”のカタログ・アーカイブ。

 かねがね目をつけていた大物案件があったので、”今しかない””潰されてしまう”という焦りと使命感から、長年”寝かせていた”ともいえる蔵出しの場所へ、向かってみることにした。
  


深大寺裏の廃屋-2
  場所は東京都調布市のとある住宅街。久しぶりにその場所へ訪問したところ、なんと、すでに取り壊された後で、跡地には新築の家がほぼ完成の状態。大工さん達が数名いたが、あと数日で全ての作業が終わりそうである。

 空き家対策特別措置法は、僕の予想より遥かに早く進行している様子。

 それでもって、次に向かったのが、この予備的物件。数分の距離にある。



深大寺裏の廃屋-6
 毛量が多いが白髪で枝毛に悩まされている老婆。その髪がしなだれているような家。

 小奇麗な家が立ち並ぶその中の、廃一点。

 この一画だけが暗くて沈んだ負のオーラを漂わせている。本命のはずだった前述の廃屋のように、戸や窓が開いていて探索できるような無防備さは感じられず。



深大寺裏の廃屋-3
 向かいの家では専業主婦らしき人が、ベビーシートのある自転車に乗って帰宅。さりげなくこちらを窺っている。背後を通過するゴミ収集車。廃屋の敷地内に入ると、歩くたびに枯れ草の擦る音がして、その都度左の家から呼応するかのように、金属音が響き渡る。

 これぞ衆人環視社会か。思い過ごしか   

 都内の廃墟や廃屋ではいつでもこうだ。張り詰めた緊張感の中で、シャッターをこわごわ押すことになる。今、まさにこの”様”が、変質的行為に見られていやしないかと。おまえがカメラを向けているのは、アイドルや列車ではなく、ましてや国宝級の建築物でもない。こ汚い家だよと。

 北海道の山の中の一日中誰も来ないような廃墟で、独り言をぶつぶつ言いながら写真を撮っているのが、やはり自分には一番あっているような気がする。



深大寺裏の廃屋-5
 木製ながら縁側の雨戸は抜け目なく閉じられている。こちら側にあったと思われるガラス窓も、ポリカーボネート製の板で塞がれている。



深大寺裏の廃屋-7
 映画「アパートの鍵貸します」の時代まで戻らないと見かけけることのないような鍵穴。

 力任せに引けば開くかもしれないが、住宅街のど真ん中のこの状況では、とてもじゃないけど無理。
 


深大寺裏の廃屋-8
 入れる隙間はなかろうかと探すものの、張り巡らされた目の細かい網のような”植物”の旺盛な生育ぶりにより、思うようにはいかず。



深大寺裏の廃屋-11
 あったとしても、この程度。都内の空き家には本当にスキがない。
  


深大寺裏の廃屋-12
 ”閑静な住宅街”と書こうとする間もなく、誰かしらの往来がある。無茶はできなさそう。



深大寺裏の廃屋-20
 土の中で繁殖をしたミミズのようにも見える。



深大寺裏の廃屋-15
 後世へ語り継がれるべき、空き家ファイルへと加えるのか、審査落ちになってしまうのか。



深大寺裏の廃屋-21
 廃墟の庭にありがちな、まるで間欠泉が吹き出ているかのような、シュロ。

 

深大寺裏の廃屋-22
 異臭は発していないものの、近所の人が行政に駆け込みたくなる気持ちはわからなくもない。



深大寺裏の廃屋-26
 敷地内にあった浴槽。これも廃墟にありがちだが、離れの小屋に風呂があった可能性が大きい。耐用年数の長いコンクリート製の浴槽だけが残り、小屋は先に崩壊してとうの昔に片付けられたと。



深大寺裏の廃屋-29
 ドア上の庇にへばりついていた何か。



深大寺裏の廃屋-31
 これはもう、空き家ファイルに間違いなく加えられることになるだろう優良物件と断言してもいい   

 自分の裁量でどうともなるのだが。



深大寺裏の廃屋-33
 記念すべき第一号にと   



深大寺裏の廃屋-34
 この物件を背景にして記念写真を撮ったりしたい人は、



深大寺裏の廃屋-30
 関東では有名なお寺のすぐ近くなので、訪問してみるのもいいかもしれない。小高い住宅街の真ん中に位置している。

 とても狭い道に囲まれているので、徒歩か自転車で行くのがお勧めです。
 




No.001 「枝毛の家」【退廃、空き家ファイル.1】

訪問困難度 ★★ 駅からは遠いがバスの停留所や有名なお寺からは近い

荒れ果て度 ★★ 植物類に蹂躙されているものの建物の損傷は比較的浅め

付加価値度 ★ しいて言えば庭のシュロ

退廃度 ★★★ 周囲からの堕ちこみ具合が激しい

※荒れ果て度の高そうな空き家の情報、ご自慢の空き家画像(できたら複数枚、説明なども)をお持ちの方、ご提供お願い致します!

honoguraisanpo@yahoo.co.jp

Kailas まで



つづく… 

「二軒の睨み合う墓標、雲仙荘」 退廃、空き家ファイル.2 

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