裏廃屋-12
 鎮座していたシニアカー。全体に赤錆がびっしりと。固定物入れ兼、時には背負ってリュックにもなる2WAYバッグの汚れやくたびれ具合を鑑みると、シニアカーがここに置いたままにされてから、十年前後ほど経過しているだろうか。塀を一つ隔てて、完全に時間が止まってしまっている。

 どういうわけか、このシニアカーを転がして街を歩いている人はお婆さんばかり。支えてくれて安定感良し、荷物を入れて良し、街中で腰掛けて休憩に良し。こんな便利な道具を使いこなすお爺さんをまず見かけたことがない。今のお年寄りの年代では、男子たるもの妻に頼まれ買い物をすることなど恥である・・・のような保守的な古い考えがあるのかも。よって足の悪いお爺さんは頑なに杖を使用すると



裏廃屋-15
 使用主の目線からの風景。

 お買い物に行った先のスーパーなどで、ワイヤーと南京錠を組み合わせた手製の鍵でシニアカーを駐輪場の柵などにロックする。百均でそれぞれ見繕ったのだろう。お婆さんのシニアカーなどを狙う非情な物盗りなどいないと思うが、念には念を入れての用心深いお婆さんだった。

 最後の主(あるじ)はお婆さんなのか。だとして、人も羨む東京の閑静な住宅街の中、今は廃屋ながら、広い庭付きの立派な一戸建て注文住宅。整理や相続をする身寄りなどいなかったのだろうか。



裏廃屋-10
 お爺さんの痕跡を発見する。

 毎晩、食後に大瓶のビールをあけるのが日課のお爺さん。お婆さんの趣味のお花のためにと、戻ってくるお金を惜しむことなく酒屋に瓶を引き取らせず、花壇の柵用にビール瓶を喜んで妻に提供をした。深い愛情を育んでいた老夫婦の存在を確認する。

 ちなみに、サザエさんでマスオらがビール瓶で花壇を作る話しがあったらしく、ヤフー知恵袋で「通常あんな事しますか?」という質問がなされていた。僕でさえこのビール瓶花壇は保育園の時代まで遡らなければ記憶には無かったぐらいなので、そういう疑問を持つ人がいるのも致し方ないだろう。

 今考えると、子供が踏んづけて瓶が割れでもしたらかなり危険だと思うのだが、なぜこのようなビール瓶花壇が全国的に普及したのか。昔なら空き地や護岸工事されていない川でいくらでも石が取れただろうに。



裏廃屋-13
 水分や紫外線で劣化してひび割れた合成皮革のクッションが載った折りたたみパイプ椅子。

 ご老人が住まわれていた廃屋ではおなじみの物。僕も何度も見ている。時には景色の良い窓際に。またある時はガスコンロの脇に。しかし、庭に置いてあったのは初見である。

 映画「グラントリノ」では、元フォードの工場で働いていた主人公(クリント・イーストウッド)が息子や親戚が言うのも聞かず、治安が悪くなる一方のデトロイトの街中の家にひとりで住み続ける。時には差別用語も飛び出す、典型的な昔気質の頑固者。そんな彼の唯一の楽しみは、ピカピカに磨いた旧車「フォード・グラントリノ」を眺めながら、日がな一日家の玄関前にある椅子に座りひたすら缶ビールを飲むこと。



裏廃屋-27
 お爺さんが椅子に座ってビールを飲み、お婆さんが「行ってきます」というような光景があったとか。それを心配をし、「老人が意固地にならないで僕らと一緒に住みましょうよ」と言ってくれる映画のような子や孫は存在したのか。グラントリノの主人公はそう言われても自分が嫌われているのは百も承知なので、頑として子供らの誘いにはのらず、ひとりで老朽化した家に住み続けたが。



裏廃屋-14
 足つぼを刺激するイボ付きサンダルが。



裏廃屋-5
 座った椅子から見える庭の現在。その日・・・から全く手が入れられていない様子。



裏廃屋-7
 室外機へとつながっていたエアコンの配管。



裏廃屋-8
 室外機のウェイト入り台。室外機は金になるので特に都会では盗まれる場合が多い。ここも、ひょっとして・・・。



裏廃屋-16
 今まさに進み出る瞬間とはこうだったのか。



裏廃屋-4
 陽に当たる部分のほとんどが割れているポリカーボネート製の透明波板。それを支える組木も特に先端部分が腐り落ちている。

 頭上にはフックがあり、括ってある紐が下へと。



裏廃屋-6
 紐の先には洗濯物を干すのに使用されていた竿。太陽の光を効率よく取り入れるため、半透明の波板で庇を作り、その下に物干し竿を設置していた。



裏廃屋-21
 外皮をコーティングしてある竿。先端のキャップが元から無いのだとしたら、昔ながらの近所を回る竿竹屋からカットをしてもらい購入したということ。

 路上の竿竹屋はご老人をターゲットにして暴利を貪るので、できればホームセンターなどで買うのが一番良いのだが、足腰に不自由があるお年寄りではそうもいかない。



裏廃屋-3
 こちらのはコーティング無しの竿。紐で吊ってあるのではなく、柱に備え付けの金属フックにのせてある。時代的にこの錆だらけの剥き出し鉄製物干し竿の方が古そうだ。

 お爺さんとお婆さんだけの家にしては、物干し竿が多すぎやしないだろうかという疑問が湧く。

 老夫婦以外にもこの物干し竿を使用していた、ここから巣立っていった家族の者がいたのだろうと当然ながら思ってしまう。



裏廃屋-32
 外界との片方通信の痕跡、裏口付近一帯に存在したそこはかとない闇の山々、さらなる試みを続けていく   



つづく…

「塀の中の失われた時間」 山荘風の空き家、ぬくもり探訪.3 

こんな記事も読まれています