平壌観光 食器
 前の日に高齢の方のガイドさんから、「明日、参鶏湯(サムゲタン)が名物のレストランに寄りますけど食べますか?大変仕込みに時間のかかる料理ですので、前日からの予約制になります」と聞かれる。

 ということはツアー料金に含まれていないということになり、追加料金が発生をするということだ。たいしてやりたくもなかったボーリングに散在をしてしまい、ドルの現金はもう僅かばかり。でもここまで来て、もう一生来るか来ないかの平壌まで来て、僕でも知っている名物の料理を食べないわけにはいかないだろうと熟考し、US$の所持金ギリギリではあったが頼んでみることにする。

 順番待ちのわんこそばに蓋をしたような器がテーブルに並べられる。

 

平壌観光 レストラン
 レストラン内は上着を着込んだ中国人で満席。外は極寒なのに高級レストランの暖房はたいして効いていないので、僕を含む中国人客も寒さをこらえて食べさせられることに。



平壌観光 参鶏湯
 参鶏湯とキムチやナムルなどの小皿。

 例によって味がない。アジアの大概の国では、テーブルに醤油や酢、味の素など各種調味料が用意してあり、自分で味付けをして食べるのが一般的。タイなんかではこちらが心配してしまうほどの大量の味の素をスープ麺に山盛りでブッかける。北朝鮮もそれと同様だったが、日本だとせっかく料理人が味を調えてくれた完成品の料理に、後から調味料を付け足すのは作ってくれた人に失礼という風潮がある。その染み付いた癖があるので、今回の北朝鮮でも毎回のように調味料を入れずに食べてしまうものだから、そのたびにガイドさんが怪訝な顔して『味が無いからそれでは美味しくないでしょう・・・』と何度も注意をされることになってしまった。



平壌観光 食卓
 味付けをしない状態だと確かに無味ながらもコクがあるような気はする。ガイドに促されて数種類の調味料を入れてみると美味しいけれども、想像の域を出ず、伸びしろがないというか、加えた調味料の分、味が変わっただけというだけの印象。料理人の匠の技による味覚の想像力飛躍の昇華効果がこれだともたらされることがないのだ。人が手間暇かけて一昼夜、肉がホロホロとなっていているという好印象は受けたが。

 中国もかつてはそこらの食堂で、何でも手作りの料理が食べられた。機械を導入するより手作りの方が安かったからだ。

 雲南省の山の奥深くの麗江に行った時のこと。麗江はナシ族を代表とする少数民族がたくさんいることでも知られる。また物価が安くて居心地が良いことから、まるで住んでいるかのような目の虚ろな長期滞在の日本人に何人も出逢えることでも有名な場所。

 安宿の周囲には外国人バックパッカーを目当てにした食堂が軒を連ねていて、見ようみまねの焼肉定食やとんかつ定食を出す日本料理屋(暇なバックパッカーが味を伝授)、ピザなどのイタリア料理のお店もある。富裕層向けのレストランではなく、バックパッカーに狙いを絞った安食堂である。

『雲南の山の中で中国人(もしかしたらナシ族)が独学で作るピザとはどんなもんだか・・・』

 とある穴蔵みたいな安食堂でピザを注文してみる。一時間弱もかかってやっとのことでピザが出てきたのだが、ピザ生地はどうみても昔の茶封筒みたいな色をしていて、質感も紙のようにパリパリ感がある。気泡で破けた箇所がまさにそれ。日本のピザのようにパン生地っぽくはない。良く受け取れば本場に近いのかもしれない。生地の上にのっているのがうっすら黄色がかった、どう見ても高野豆腐のようなものが数個、ドンと置いてある。中国人の作る、山の中で機械もない中、見よう見まねで手作りで調理をして出来上がったのが、豆腐のピザだったのかと、最初は呆然としたものの、次第に『なるほど。材料も揃わない中で良く思いついたものだ   』と関心させられてしまうことに。

 その豆腐らしき物がのった中国雲南土着ピザを食べてみると、これがたまらなく美味い。生地の食感は本場よりクランチーではないが、大胆に改変をしてしまった日本のよりは忠実で、コシがあり噛みごたえがありじんわり甘みが増してくる。豆腐だと思われたものの正体は、どう味わってもチーズだった。発酵した酸味がありほんのり塩味も旨味となって存在していた。歯応えは押しつぶした餅のようでもあるが、紛れもないチーズ。麗江に牧場は無さそうなので、ヤギの乳を使用しているのかもしれない。

 時代が変わり、今ではもしかしたらサニ族やナシ族の方々も日本へ観光にやって来ていることだろう。タイの空港ではよく中国の少数民族の服を着た団体が、旅行会社名が表示してあるあの例のアポロキャップをお揃いでかぶっているのをよく見かける。彼らも富を得た証拠である。

 爆買いが終わったと思ったら、次はタワマン高層階買い占め。それもバブルが弾けたと思いきや、次は中国ドラマに出てきた日本の撮影場所を周る聖地巡礼。一般の住宅敷地内へ侵入してしまうばかりか、タバコのポイ捨てまでしての迷惑行為の頻発。加えて踏切内で記念写真だとか。せっかく見せしめで松本伊代を書類送検したものの、中国の人はお構いなしというより、全く意味をなさなかった。

 感激の雲南麗江ピザを食してから中国には何度も旅行に行ったが、そのたびに街が目まぐるしく進化をしていく。

 あれからどれくらいたった頃だったか。上海の街の外れの半屋台のスープ団子系のお店に入った時のこと。木造の崩れそうなテーブルが縦に並んでいる間口一間小さいお店。店主が手に持つ袋を見て愕然としてしまった。コストコや業務スーパーで売っているような、業務用の冷凍団子のパッケージ。末端まで富を持つに至ってしまい、彼らは楽をすることを覚えてしまったのだ。中にはこだわりを持って一家総出で手作りを実践している店もまだあるだろうけど、今までだったら経済的困窮から機械や冷蔵庫も買えなかった店が、効率を優先して出来合いの冷凍饅頭で、悪く言えば客を欺いているのだ。あんな古びたお店で、年季の入った調理器具を使用しておきながら、日本の家庭でも手に入るような冷凍物を出してくるとは夢にも思いもしなかった。

 経済発展中の際に出逢えた奇跡的な雲南麗江手作りピザ   

 暗中模索、試行錯誤しながら、自らの手と知恵のみで、一家総出で生地をこねて、チーズを作り、見事、東京からやって来た一癖も二癖もある熟練バックパッカーの舌を唸らせることに成功をする。

 今の殺伐として経済最優先の中国人達が、遠くない将来にでもふと立ち止まって足下を見つめ直した時、考え方を改めて貪欲な利益追求より精魂込めたモノづくりにより人に享楽を与えるようなことへ価値観の重きを傾け始めようとするその時、再び、あの真面目さと素朴さを絵に描いたようなピザを作るようなゆとりができた頃、僕はまた雲南省の山の中の麗江まで行って、同じ物はもうないかもしれないが、土蔵のような食堂を見つけて、人肌の人情に触れられる喜びを感じられるあの料理を楽しみたいと切に願っている。あの全く期待しない状態からの温もりのある感激の料理との出逢いは再び訪れることがあるのだろうか。



北朝鮮 歴史
 中国とその人民達の意識改革に淡い期待を寄せながら、ひいてはそれは北朝鮮という国の安定化にも寄与するわけで、複雑なアジア情勢をバックパッカーの視点より睨みつつ・・・お次は世界遺産にも登録された古都「開城」へ。日本で言えば京都のような場所。



北朝鮮観光 開城
 千年の歴史があるとはいうものの、過剰に整備されていて建物も小奇麗すぎる印象を受ける。平壌が近代都市のデコイだとしたら、開城は歴史地区のそれ版ということなのか。



開城観光 古民家
 歴史地区の中にある当時からの古民家だという。北朝鮮だと現在もそんなに変わっていないという認識だったが、見せる側としては『昔からこんなにしっかりとした生活を営んでいたんだのだよ   』というプロパガンダ的な意味合いがありそうだ。



開城観光 古民家の中
 やはり平壌市内のハリボテ建造物の古民家版か。押し出し感の強すぎるエアコンにテレビに冷蔵庫にと、無理のあるアピールがここにも。



開城観光 広場
 日本だと倉敷の美観地区にも似ているが、かなり広大な敷地にもかかわらずお客が僕ぐらいしかいない。氷点下でもなければ人民の方々も見学に来るのだろうか。


 いよいよ、意図的ではなかったものの、反日ミュージカルを観劇させられるハメになる。大量動員された小学生達との出逢いなども。そして平壌空港からの出国。興味深い空港施設の紹介や、今に至るまで誰にも渡せていない実際に購入をしたお土産を公開。空港のロビーではあるズシリとした本を無料だからともう一冊手に取ろうとしたら、女性保安員からマークをされることになってしまう。



つづく…

「さらば平壌、思い出の地」 バックパッカーは一人北朝鮮を目指す.16