白鳥湖ホテル テーブル
 次なる行き先は、廃ホテルの「白鳥湖ホテル」。もう地図上では存在しない幻の湖と言われる「白鳥湖」という湖の湖畔にあるという。地元の人でも野鳥愛好家ぐらいしか知らない私有の湖で、正式名は「丹治沼」。

 この湖の近くには白鳥が大量に飛来することでも有名な「ウトナイ湖」もあり、紙の地図やPCの地図で大方の位置は掴めたので、準備万端向かってみることにする。

 苫小牧市内から国道三十六号線をひた走る。ウトナイ湖が右に見えたらやがて左前方に白鳥湖が望められるはずなのだが・・・

 その湖だか沼とやらも見かけぬまま、オドオド、キョロキョロしながら五キロぐらいも走りきってしまった。場所がわからなくて途方に暮れている時の廃墟”あるあるで”もあり、自分の愚かさが本当に嫌になる瞬間でもある。干上がったり埋められているわけでもないだろうし、どうしたものかと引き返し、また道路沿いを凝視しながら走ってみる。

 結局、三往復もしてしまうことに。事前の情報ではバス停があるとか、白鳥湖に併設してある遊園地の看板が申し訳程度に掲げてあるとかの情報を掴んでいたが、それらしき物は一向に見かけず。

 国道沿いから「白鳥湖」は直接目視できないということのようだ。

 それなら湖へと分岐する道があるはずだと、車をゆっくり走らせながら細い道を丹念に注視していく。地図上ではそこそこの大きさの「白鳥湖」を確認できているのに、三十六号線を普通に走っているだけでは全く気付かないのは大変もどかしい。

 四往復目。数回適当に細い道に入るものの、行き止まりだったり農道だったりを繰り返す。もう捨て鉢になり、期待もしないで選んだ道を勝手に突き進んで行ってみると、その先に遂に脈のありそうなさらなる小道を発見する。廃道なれど、完全には死んでおらず、かすかな人の息遣いがあるような。落ちている吸い殻や空き缶など、廃墟経験則に基づく”カン”ではあったが・・・。

 森の奥へ吸い寄せられるように直進。途中、右手に廃屋か人のまだいる住宅か、微妙な加減の二階建ての家屋があった。下が事務所のようで二階が住宅。車が住宅前に二台駐車してあったが、これも放置車か現役かギリギリの塩梅といったところ。徐行して住宅からの人の気配を察知しようと、全神経を研ぎ澄ましてみるが、それらしきものは感じられない。朝早いということもあるけど、もう八時過ぎだから誰かいればテレビの音ぐらい漏れてもいいものなのに。

 怪しげな小道は明らかに私道のようであり、半住宅の家の中に人がいれば車が通過したのはわかるだろうから、警告したり追いかけてきてもおかしくない。

 心にやましさと背中に立ち昇る災いの空気を感じながらも、覚悟を決めて細々とした荒れた小道を進む。

 かなり進んだだろうか。ほどなくして想像していたのより大きな湖が目の前に出現をする。道は湖への入り口手前で行き止まり。湖へは車一台分の狭い入口が一つ。なるほど、私有湖といった独占されたプライベート感のあるたたずまいがある。看板も何も無いが、湖の入り口手前に除草されたか単に枯れたのか、そこだけが砂場状態になっているたぶん駐車場らしきスペースが三台分ぐらいあった。そこへ車を駐車。やって来た道を振り返り、追っ手がいないのを確認。

 車から出て湖の湖畔に立ち、左に目をやる。DIY好きのお爺さんとまではいかない高齢者の方が、趣味の範囲で彼なりの世界観を具現化したような、見るからに微妙さの漂う遊園地が目の前に。

 散々日本のワイドショーが中国の偽物だらけの遊園地をバカにして一時期テレビでよく紹介をしていた時期があったが、それを遥かに凌駕するようなアトラクションが白鳥湖遊園地には集まっているようにも見えた   
 


白鳥湖ホテル 森
 右前方奥には湖を見下ろす小高い山に森。森の木々の間からは色彩の褪せた朽ちた建物が見え隠れしている。まごうことなきあれこそ廃墟ホテル「白鳥湖ホテル」。

 遊園地かホテルが先か。どちらを先に”こなす”べきかと   

 崖山を登らないと侵入することができない困難な条件の方のホテルを先に探索しておけば、後でゆっくりと陽の光でも浴びながら、湖畔沿いの遊園地を穏やかな観光気分で見学できるとの計算が咄嗟に働く。

 草木をかき分け、枝や蔓を登山ロープのように掴みながら、崩れやすい土の山肌を露出した急峻な崖を登っていく。ワークウェアで完全武装のジャケットとパンツは泥だらけだ。あとでわかったことだが、この行為はとんでもなく無駄なことであったことが判明をすることになる。

 山を登り切って、胸辺りまで生い茂っている草を人間ブルドーザーのように突進、なぎ倒しながら進むと、ホテルの側面に出た。朝露で全身グッショリなのは、紋別の陸の孤島の廃屋以来か。

 建物を周り込んで正面入り口を探そうかと考えたが、草木に阻まれてこれ以上進むのは無理と判断。



白鳥湖ホテル ガラス入り口
 先人が残してくれた侵入穴だろうか。

 体を屈ませてくぐったとして、頭頂部や後頭部を尖ったガラス片でガリガリと引っかきようものなら、いい歳をして勲章だなんてとても恥ずかしくて言えないような、傷禿をいまさらながらに作ってしまうことになる。

 ちなみに、短髪の人によくあるあの十円玉の縁で擦ったような禿部分の正式名は、「傷禿」と呼ぶとこのと。



白鳥湖ホテル 風呂
 どう見回してもこのガラス穴しかないようなので、アーチ状のガラス片の直下二センチに狙いを定めて、完璧な頭部の水平移動を成功させる。頭が入ってしまえば、後はロケットのようにして着地時の傷みなどは顧みずに勢いに任せて飛び込むだけだった。



白鳥湖ホテル 錆びた柱
 水泳の飛び込みか、手足を行儀よくぴんと真っ直ぐ揃えて人間大砲よろしく飛び込んだ。硬質タイル床着地時に膝と手首に激痛が走る。あまりの傷みに、誰も見ていないのをいいことに、タイルの上で多少演技かかってのたうち回るフリをして、手首と膝に集中する傷みを全身へ均等に回して和らげることはできないかと、ゴロゴロもんどり打ってみる。気休め程度でしかなかったばかりか、一層上下の服の汚れが増してしまうことに。

 錆だらけの円柱。

 さしずめこれは、古代ヨーロッパを意識した「王宮風呂」といったところか。ホテルの方向性としては欧風スタイルのようだ。



白鳥湖ホテル 眺め
 当時としては派手な作りだったのかもしれないが、窓のサッシが鉄枠ということもあり、療養所の浴場にも見える。

 ウトナイ湖が近くにあるから見どころとしての白鳥湖は訴求力としては弱いし、あの年寄りの道楽のような遊園地目当てに人が集まるとは考えにくい。どんな嗜好の人達が来ていたのか。



白鳥湖ホテル 山
 昭和の特殊浴場といった趣もある。

 苫小牧ということもあり「樽前山」かとも思ったが見た目がかなり違う。富士山でもないし、オーナーの思うがままの想像の産物のようだ。



白鳥湖ホテル 四柱
 お湯を張らなくなってから数十年。かつてここに賑わいなどあったことはなかったのではとさえ思えてくる。見込み違いでオープンした後、ひっそりと人知れず休業状態になり、今へ至っているとか。
 
 最大の顧客は皮肉なことに、金を落とさない廃墟巡り好きの暇人ばかり。名古屋に「レゴランド」なるものがオープンするらしいが、入場料が大人で6,900円もするらしい。ここなら無料でタイムスリップ感覚が味わえて、日本経済の栄枯盛衰が強烈なトラウマを伴って経験できること請け合い。



白鳥湖ホテル 控室
 王宮風呂から脱衣所へと。

 コインロッカーと棚。コインロッカーに使用感があまりなさそうなのは気のせいだろうか。



白鳥湖ホテル コインロッカー
 確認のため半分ぐらい開けてみました。忘れ物などはない様子。



白鳥湖ホテル 警告
 最近盗難が多発しているのでコインロッカーを使用した方がいいですよ、といった趣旨のお願いの張り紙。

 靴箱の数をみてもかなりの大人数に備えていたことが窺える。



白鳥湖ホテル お試し
 ゴザをめくるとそこには乾燥機。一度お試し下さいとは、まだ乾燥機が一般家庭では珍しかった頃の物か。

 各部屋は光のない暗黒の世界。懐中電灯で照らしながら進んでいる。霊とかは信じないので平気な顔をしてあちこちのぞいているが、ここで廃墟趣味の人と出くわしたら心臓が止まるかもしれない。全く灯りのない密室の部屋を歩く経験はそうないものだ。



白鳥湖ホテル ひかり
 懐中電灯だけだとこうなる。



白鳥湖ホテル シャワー
 個別のシャワールームまで完備していたようだ。



白鳥湖ホテル 広間
 サバゲー汚染を確認。構造上ここは地下なのか。閉ざされた窓から淡く漏れる陽の光。



白鳥湖ホテル 自販機
 手前から、ひげ剃り、クリネックスのシャワーキャップ、ヘアーセット、クリネックスのポケットティッシュ。

 奥にはゲーム機の筐体が。



白鳥湖ホテル 筐体
 大型筐体が二台。左はナムコのポールポジション。奥が室内ゲートボール・コーナーということは、この場所はかつてゲームセンターだったと思われる。売り捌きやすいテーブル筐体は引き取られていったが、基盤を変えようにも変えられない専用大型筐体だけが寂しく残ってしまうことになってしまう結果に。



白鳥湖ホテル ポールポジション
 今や手のひらの上で遥かに鮮明で高音質のゲームが楽しめる時代。スペースハリアーぐらいだったらマニアが自宅に置きそうだが、レース系ゲームは人気がない。スーファミでもレース系とジーコサッカーのようなスポーツ系ゲームの値崩れは毎度激しく、時には発売日に定価一万円以上の商品が千円以下で売っていたりしたものだ。スーファミ時代のあの狂乱の値付けは何だったのか。私的にゲームに一番夢中になっていた頃で、とんでもない無駄金を費やしてしまったものだと、今ではもう後悔の念しかない。



白鳥湖ホテル ネズゲー
 テレビゲームではなく、元祖・FPSやバーチャコップの呼び声も高い、エレメカ「チューチューハンター」。

 ベルトコンベアーに乗って右側から登場するネズミをライフルで狙撃するゲーム。パネルの絵では意地の悪そうなネコに追い詰められている可哀想なネズミの構図。そのネズミを銃で撃ってしまうとは、ストーリー展開とかは深く考えられていなかった様子。



RIMG0073
 一ゲーム、二十円という激安値段。一回で二十発打てるから一発一円。



白鳥湖ホテル 横
 ステンシルプレートで描き出された凹んだネズミと軽快そうな猫。ここだけ外して持って帰りたいぐらい。



白鳥湖ホテル 裏
 裏側より。

 ネズミと猫の方はリペアをすれば復活しそうです。



白鳥湖ホテル ゲートボール
 室内でゲートボールとは一体どういうことなのか。あのホチキスの針みたいなのは床に直挿しだったのか。北海道特有らしいかつて苫小牧に存在していた「室内ゲートボール場」とやらに入って行ってみることにする   



 つづく…

「成吉思汗コーナーでの伝達」 幻湖、森の上の廃墟「白鳥湖ホテル」.2