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 金山君という、現実世界での恋い焦がれる人が大前提として存在してはいるものの、キョーコさんには、現在、急に突発した熱病のごとく、連日に渡って”金山愛”そっちのけで、繰り言のように口さえ開けば、深夜ラジオを聴くような若者の間で目下のところ大人気の、ある二人のタレントの名前を執拗に口にするようになる。

 それは、タモリさんと 所さん。

 MAMMUT(マムート)のアウトドア・ジャケットをさり気なく着こなし、街中の段差に誰よりも興味しんしん。地質学の学者もたじたじの幅広い知識を披露して、毎週ご満悦なタモリさん。まだまだテレビ界は彼を放おっておかず、ヨットで御夫人と長期旅行の希望も当分の間、おあずけのようだ。

 基地(世田谷ベース)と称する自宅ガレージに、こだわりたっぷりの改造車を何台も並べ、その基地をイメージしたグッズ売りのサイドビジネスも、本業と同様に大成功。波の激しい芸能界において、もはや盤石の地位を築いている、所さん。スキャンダルとは無縁のその高感度の良さから、CMで見掛けない日はない。

 キョーコさんが近頃、うなされるように毎夜愛を語るその二人とは、1978年当時の、オールナイトニッポンをやっていた時の、「天下取ったる!」と、脂が乗ってバリバリいわしていたいた頃の、若き日のタモリさんと所さんのこと。と言っても、タモリさんは当時でも、そこまでのギラギラとした上昇志向はなかったかも。

 好きだけならまだしも、『私 も タモリ みたいなコメディアンに なりたい   .  所 ジョ ー  ジ み たいなかんじのコメディアン にもなりた い  .   』などと言ったり、しまいには『あ~~  んうわ さのチャンネルの  一員 に なりた い なあ   』と、現実逃避とも受け取れる発言が相次ぐ。

 読者の方からは、このようなご指摘を頂く。

若い子なら一度はかかる「芸能人になりたい熱病」も発症し・・・   

 ああ、それがあったかと。誰でも中高生ぐらいの頃なら、アイドルやお笑い芸人になってやろうという、夢を持ったりするもの。しかし、就職や進学、結婚や給料、年金受給などの現実問題に外堀を段々と埋められていき、夢多き大概の少年少女は、やがて、至極まっとうな現実路線を取らざるを得なくなる。

 キョーコさんは、さて、どういった道へ進むのだろうか。全くもって不明である。残り多い冊数の日記帳も、今のところ黙して語らず。

 お馴染み、結びの言葉の「負けるな、くじけるな」。僕は、キョーコさんが成長をし、自分に自信が持てたり、自分への叱咤激励を言うことを恥じるような年齢に達した時、次第にその言葉は消えて行くのではないだろうかと、予想していた。幸いというか、現在の段階では、時折忘れることがあるものの、まだ続いている。

 読者の方のご指摘では、

いつもの結びの言葉の まけるな くじけるな がほぼ形だけのものになってきていますが   

 僕がキョーコさんの立ち場であったなら、『痛いところを突かれてしまった・・・』と、悔しそうに漏らしたに違いない。

 当初、北の大地の、大草原の中の一軒家にて、数十年後に訪れる現実を知ってか知らずか、健気に恋愛に、学業にと、奮闘する若干中学三年生の少女に、多くの共感が集まったものだった。

 しかし、今のキョーコさんは、一時的な思春期特有の熱病とはいえ、受験勉強そっちのけで、所さんだ、タモリさんだと、地道に努力をしていた少女の姿は何処へやら。

 キョーコさんの芸能人病はまだ続くが、タモリさんにはそれとなく興味が薄れ、所さんひとりに絞られていく。そして、もうひとりのオールナイトニッポンのパーソナリティの人、道民のスターでもある、あの人の名前を口に出すけれど、所さんほどお気に入りではない様子。



11a
 1978年   8月 11日  (12日) 2:00

 今日は ・金 曜 だったの れ 「  うわさの
チャン ネル  」  を みたの だ  ,
所ジョージ の へ ン たい  ,  オカマ
 だけど 大好き  じ ゃ      .
でも  へ んた い  ぎ  み て ん の よね
 だ って  せんだ に も ろ に  キ ス  を
すんだ も ん  .  きょうれ つ  と い う か
ホモだ という か  なんとも やる こと  が  大たん
なのよね   .  で も  カッ  コ イイ  シ ステキ よね
 (私も へんたいが  好きだなん て へんたいみ たい)
結婚しても  い い なあ 所 さんと な ら  .  所 ジョージ
の こと なんで  も いいから  とに かく すべてを 知りたい
あ~~~ん 所 さん   大好き ジ ャ   
 ( オェ     .  グェ      ,   ゲ ボ       )
大たんな  へ んたい ぎみ た所さんが大好き .
でも ああ ゆう人  っ   て かくし てないっ  ていう
かんじが し てて い い の よね   自分の せいかく まるだし
人間的  ,野性的で いいよねえ  ,私はそんな人
の 方がいいの ら ,  へ ん に  きどったりすると  どんな人より

キョーコさんが現在夢中なテレビ番組は「うわさのチャンネル」。現在あまりみられなくなった、多目的な内容のバラエティ番組。読者の方からのご指摘によると、

>せんだみつおと山城新伍のコーナー。「痴漢、まんごろうだぁ~」のセリフが記憶に残る。

山城新伍まで出演をしていた。彼は映画からテレビへとスライドしてきて、人気クイズ番組の司会者として成功。一時代を築いたが、MCにお笑い芸人が多数起用されるようになってから、出演機会が激減。消えかかる頃に、最後っ屁か知らないが、なぜかジャニーズ事務所批判を展開。しかも、事務所の社長でもあるジャニーさんのことを「あの人は、少年が好きなんでしょ、そんな人が・・・」とテレビでやるものだから、当然ながら干される結果に。

同様の批判を繰り返した、芸能記者の梨本さんも、テレビから消えていった。ネット放送に活路を求めたが、時はまだYouTuber前夜。試みは失敗に終わる。

そんな山城新伍を久しぶりにテレビで観たのは、週刊誌の衝撃的な記事を検証するという内容の”ミヤネヤ”にて。なんでも記事によれば、老人ホームに入れられた山城新伍が、ボケの症状が進行して、ご飯もひとりでろくに食べられないとか。

今や、ジャニーズやバーニングの広報とさえ揶揄される、井上公造が、真実かどうかを確かめに行くという大義名分のもと、山城新伍のいる老人ホームまで行き、独占インタビューを敢行。もう、醜態晒し行為でしかない。

週刊誌の内容は多少オーバー気味なところもあったが、まず、山城新伍が老人ホーム住まいというのも驚きだし、本当に手がプルプルと振動して、口の横からダダ漏れ状態で食べていた。山城新伍は「あんな週刊誌は嘘だろ、見ろ!」と強がっていたものの、スプーンの持ち方からして、どうみても不自由そうなのが、司会者としての全盛期を拝見していただけに、ただ悲しくてしょうがなかった。

>所ジョージ の へ ン たい  ,  オカマ だけど 大好き  じ ゃ      .でも  へ んた い  ぎ  み て ん の よ

現在の飄々とした所さんとは、まるっきり違う芸風で人気を博していた様子。和田アキ子や徳光さんが今でも番組の思い出を時折語るのにたいして、所さんが無言を貫いているのは、拭い去りたい”黒歴史”であるからに違いない。

>だ って  せんだ に も ろ に  キ ス  をすんだ も ん  .  きょうれ つ  と い う かホモだ という か

ダウンタウンが大阪から東京へ進出してきて間もない頃、いいともでの松本の立ち位置は、タモリさんのことが好きなホモキャラ。当然ギャグでやっているのはわかっていたが、中にはキョーコさんのように、半分疑っている人もいた。

>結婚しても  い い なあ 所 さんと な ら  .  所 ジョージの こと なんで  も いいから  とに かく すべてを 知りたい

平成29年の現在、ここまで、連日のように今さら所ジョージのことを、濃密に語り尽くすブログがあるだろうか。愛に、人間性にと。少なくとも、ライブドアブログには無かった。完全にアイドルとして捉えてはいるが、彼女の一時の熱の入れ込みようは、本物だ。結婚という言葉まで出てしまう。

>大たんな  へ んたい ぎみ た所さんが大好き .

一体、所さんが路線を変更したのは、どの時点からなのだろう。カケフくんと出ていた番組では、陽気そうではあるものの、良識のあるお兄さんといった感じの記憶がある。

>人間的  ,野性的で いいよねえ  ,私はそんな人の 方がいいの ら , 

実際の所さんがそうであるのかはともかく、キョーコさんの男性へたいする、偽らざる気持ち。



11b
 も きもちがわる い し  ,  いや な 感 じ するのよね
性かく  丸出 し の  方 が   個性的で いいのよ
自分の 個性が 出て て いっ そうよく なるのよ
あまり まる 出し す ぎ る  というの  は  い けないけど
ある程度  お さ えて   自分の  どく  とく の物を
出して  い る   人間 そう で なくちゃ  ,  (さっきから
同じ こと ばっかり)   私  っ  て どっちか というと個性的
な人が好きなのよね  . 顔が   くずれていた って
足 が短*か く た  って その人 その人 の 固性と
いう 物があり  そんな人 であれば   好きに
 なれるのよね  . 個性があっても  好きになれない
人もいるけど  .  .  .  .  。カッコ  つけ す ぎ  て   いやに 気どった
人っ  て  大  き ら い な のだ !
まけるな くじける な オヤスミ

>性かく  丸出 し の  方 が   個性的で いいのよ

野性味、素、プリミティブ、そういったところを重んじる、北の原野で育った、北限の少女。

>自分の 個性が 出て て いっ そうよく なるのよ

この時点で、大した恋愛経験もまだないのに、まるで数多くの経験を踏まえているかのように話す、キョーコさん。

>あまり まる 出し す ぎ る  というの  は  い けないけど

理想では、テレビの所さんのような大胆さを求めていながら、いざ、自分の前の現実では、凡庸さに落ち着きそうな気配がプンプンと漂っている、枠にとらわれている彼女。

>ある程度  お さ えて   自分の  どく  とく の物を出して  い る   人間 そう で なくちゃ  ,  

相反するアンビバレンツな発言の堂々巡りを続けてしまう。個性か。常識か。いっそ就職か。いや、このご時世、高校ぐらいは行くべきなのか。

>(さっきから同じ こと ばっかり)

所ジョージを愛してしまったばかりに、北の大地の素朴ないち女子中学生が、並外れた個性を受け入れざるを得なくなり、破綻傾向に陥った自分の恋愛観を、何とか取り繕って整合性を持たせようと、深夜に独り虚しい説明努力を続けてしまう、自分に律儀で嘘をつけない、キョーコさん。せんだみつおにキスをするのは、個性でもなんでもなく、芸能界で上へ行くための、所業でしかないのですよと。金山君と所さんを同じ枠組みに置いて、愛を語るのは無理がある。”アイドル”という擬似恋愛の熱病から、キョーコさんが醒めるのは、一体、いつのことなのか。

>顔が   くずれていた って足 が短*か く た  って その人 その人 の 固性という 物があり  そんな人 であれば   好きに なれるのよおね  . 個性があっても  好きになれない人もいるけど  .  .  .  .  。

常識ある、学園の紳士、金山友彦。

テレビの中の、飛ぶ鳥を落とす、若手タレント。コーナー人気を、あの和田アキ子と争う、モンスター個性、所ジョージ。

熱病におかされ、熱帯雨林に迷い込み、抜け出した先にいるのは、所か金山か。キョーコさんの恋愛における苦悩は、まだまだ、当分続くようである   



 療養所通いだけをしていると思われた史之舞だったが、どうやら働いていたようで、しかも結構な額のボーナスを貰い、キョーコさんにある食べ物をおごってあげることに。

 史之舞の住む療養所からの帰りの汽車にて、車内で遭遇したのは、あの時の既視感、そう、金山君、その人であった。

 リアルな恋心に再び着火された、心と体ともに熱くて痛い、”金山愛と”いう名の現実に即した恋愛感情。

 だが、あたふたとする彼女の心の声の支えになったのは、いまだ夢の中をさまよっているのか、そう、彼女の自宅の所在地やただの中学三年生という身分からすれば、絵空事の世界の住人とさえ思われる、あの人であった。



つづく…

「彼女の無関心、道民のヒーロー」 実録、廃屋に残された少女の日記.41