北朝鮮観光 待合室
 北朝鮮のガイドさんの「次はミュージカルを観ます   」の声とともに、劇場へ連れて来られることに。

 ちなみに、ガイドさんと話す時、「北朝鮮の人は核ミサイルについてどのように思っているのか・・・北朝鮮の人は普通、何時ぐらいに仕事が終わるのですか・・・」と僕は話してきたが、しばらくして、どうも二人のガイドの様子がおかしいのに気づく。

 顔が曇っているような感じというか。よくよく二人の会話を注視して聞いてみると、一貫して「我々、”共和国”では・・・」と言っているようなので、はたと気づき、以降、「共和国で人気の韓流スターは誰ですか?・・・」と切り替えて喋ってみると、あえて指摘はされなかったが、実に圧迫感もなく、自然な流れで会話をすることができた。

 北の人が、日本人から「北朝鮮・・・」と言われることに、どう引っかかるところがあるのか良くわからないが、これから北朝鮮へ行くという人は、ガイドさんや現地の人と話す場合、「共和国では   」と言った方が、余計なわだかまりを生まなくていいだろう。

 核のミサイルの質問では、高齢の方のガイドさんが突如、言葉が荒くなり顔を紅潮させ、「私達に持っている持っていないとアメリカとかが言ってくるが、あなたはチンコを、自分からありますよと、ズボンを下ろしてわざわざ見せますか?」と、相当下品な例えを使って、怒りを意外なほど爆発させながら、僕へ逆に問いただした。歳下のマフラーを巻いた方のガイドさんは無言だったが、思いは同じであるといった風だった。

 僕としては、国による余計な衝突は避けて欲しいとは思っているものの、核の無い世界を常日頃絶えず祈って、世界中を平和運動のために旅行している・・・というわけでもないので、それ以上の深追いはやめておいた。

 まず通された部屋は、貴賓室。



北朝鮮観光 椅子
 ここでもしっかりと、二人の肖像画がある。端でだらしなくのけぞっているのは、中国人観光客。



北朝鮮観光 劇場内
 僕が座っている横一列は、僕とガイドと運転手だけ。後方二列が無人。その後ろは小学生から高校生ぐらいの学生が、かき集められて座らされているといった具合。日本でもありそうな、体裁を保つように組織的に動員されている人達だと思われる。

 画像では混んでいるように見えるけれど、実際はスカスカ。見映えするように、狭い範囲に無理矢理押し込んでいる感は否めない。



北朝鮮観光 中国人
 僕の前方二列が無人で、その先には中国人観光客。

 北朝鮮の劇場にも売店がある。透明のプラスチックのコップにパックされた水と、新聞紙に包まれた豆を売っていた。日本やアメリカの売店と比べるとかなり華やかさに差があるものの、ミュージカルを観劇しながら、飲んだり食べたりという文化は、ここ北朝鮮でも変わらないようである。

 ガイドさんに「両端に字幕が出るので、内容は理解できると思いますよ」と事前に説明されたが、スライドで投影された文字は、左右とも中国語のみ。お金を払って観ているのは僕以外全員中国人なのだから、数の論理でしょうがないだろうと、これはもう諦めるしかない。

 演劇なので、字幕を読めなくても大体の内容は把握できた。太って頭のハゲたちょび髭の、悪徳大家の日本人がいて、その大家から家を借りている朝鮮人家族の家がある夜、大家の策略によって家が燃やされてしまう。家族は全員死亡。奇跡的に少女が生き残るが、顔に火傷を負い、片目を失明してしまう。悲観した少女は、やがて自殺をする。憎き日本人大家に、片目の幽霊に化けた少女が復讐をする   といったストーリー。

 お客の中国人にあわせた内容を用意したのか、見事なまでに反日的な内容のミュージカル。日本人の団体が来た場合は、それに迎合した話しだったのかもしれないが、横にいたガイドや運転手はもう何回も観た様子で、席を外して貴賓室に戻っていってしまったようだし、客席数百人、究極のアウェイ環境の中、客席中央にたったひとり、吊し上げのように座らされ、悪人の日本人が征伐されるような話しを、日本人の僕が最後まで観させられることになった。

 驚いたのが、舞台装置が大変凝っていたところ。

 舞台上にいくつか透過式の幕が垂れ下がっていて、そこに燃え上がる炎や、土砂降りの雨、流れる雲の映像が映し出される。透過幕は前後左右にいくつも設置され、舞台に奥行きや立体感を際立たせていた。家の火事の場面などは、本当に燃えているかのように感じられたほど。

 これはもう、プロジェクションマッピングのような技術。

 最近BBCでみた、世界最先端のハイテク・ミュージカルがロンドンで公演されたというニュースでは、同じく舞台上に透過幕を垂らして、そこにホログラムやプロジェクションマッピングを映し出していたので、意外にも、北朝鮮のミュージカルは先進的だったのかもしれない。そんなにまでするなら、人民にもう少し食料の配給をしろよと思わずにはいられなくもなるが。



北朝鮮観光 鴨料理
 ラスト・ディナーは、鴨焼肉の名店だというレストランへ。

 小部屋に案内される。

 極寒の店内。着座をしてから壁にある家庭用エアコンをいちいち作動させるものだから、暖かくなろうはずがない。ここでもまた、底冷えのする中、ガイドと運転手の食事料金をひそかにかすめ取られつつ、鴨の焼肉に舌鼓を打つことになった。



北朝鮮観光 平壌空港
 翌日、ようやく、北朝鮮観光を終え、出国する日。平壌空港。



北朝鮮観光 保安員
 喫茶店のような店があったが、休業中。

 土産物屋などを見学していると、ある一画に本が平積みに置かれていて、無料でくれるのだという。



北朝鮮観光 本
 日本語でびっしりと書かれていた。英語やドイツ語のもある。一冊だけ持ち帰ろうとしたが、英語版も欲しいと思い、さらに手を伸ばすと・・・



北朝鮮観光 注意
 このおばさんに優しく注意を受ける。一冊だけですよと。

 税関の職員が指をさしているのは、写真を撮るなということらしい。



北朝鮮観光 金
 金日成略伝を開くと、一ページ目がこれ。間違っても、成田の税関では職員に見られたくない本。結局、一冊だけ貰う。

 平壌ではいろいろお土産を買ったものの、日本に帰ってから冷静になってみると、知り合いに渡そうにもわたせない物ばかり。



北朝鮮観光 Tシャツ
 朝鮮半島Tシャツ。いまだ未開封。



北朝鮮観光 ピンバッッジ
 年代いろいろ、平壌ピンバッッジ・コレクション。



北朝鮮観光 切手
 宇宙がテーマの、北朝鮮切手コレクション。自国では技術を持っていないので、ロシアに媚びているのでしょうか。



北朝鮮観光 キーホルダー
 日本国内では使いづらい、キーホルダー。



北朝鮮観光 チェチェ
 飾ろうにも、ためらわれる、チェチェ思想塔のフィギュア。

 金属製なので、思いのほか重量感がある。



北朝鮮観光 粉
 平壌デパートでは、高麗人参とこれの二品だけを購入。高麗人参コーナーの横にあって安かったからついでに買ったものの、何の商品かはいまだにわからず。



北朝鮮観光 ビデオ
 北朝鮮の映画かアニメのDVDでもないかとお願いしたら、ガイドさんがどこからか仕入れた来た。しかも、VHSのビデオ。

「今人気のアニメです」と言っていたが、日本に帰ってからそのままにしてあったこのソフトを写真に撮ろうと箱をじっくりと見たら、1990年代のクソ古い商品だった。



北朝鮮観光 中味
 どう見ても、使い古し。テープが途中のまま。

 まだ一回も再生してない。

 このビデオはNTSCだったが、もう一本の環境ビデオみたいなのはなぜかPAL(ヨーロッパの規格)方式だったので、日本のビデオでは再生できない代物。



北朝鮮観光 関税
 あまり欲しいものは並んでなかったです。



北朝鮮観光 タバコ
 お酒とタバコぐらいしかない。

 中国人のビジネスマンも期待はずれの様子で、購入には至ってませんでした。



北朝鮮観光 ショーケース
 置かれてから随分と日が経っていそう。



北朝鮮観光 搭乗口
 出国です。中国の瀋陽までのフライト。



北朝鮮観光 飛行機
 飛行機はよく知らないですが、多分、ロシア製ですかね。



北朝鮮観光 空港滑走路
 殺風景。

 何十年も前のハノイ空港もこんなでした。



北朝鮮観光 飛行機
 多いのか、少ないのか。



北朝鮮観光 ca
 以前、クバーナ航空に乗ったことがありますが、とんでもなく恰幅の良い客室乗務員でした。ある意味、実力主義だったのかも。

 平壌空港の待合室では、ガラス越しに到着口のロビーが見えるが、ガイドさんいわく「あなたと折り返しに来る、今年最後の日本人のお客様がいますよ」と言うので、のぞいてみると、確かに、日本のパスポートを片手に持って、ガイドらしき人と談笑する男性が椅子に座っていた。

 本年最後のツアー客も、彼ひとりだけなのだという。

 その後、僕は瀋陽に降り立ち、さらに一週間ぐらいかけて、中国旅行をした。

 日本に帰国をして半月ぐらい経った頃、テレ朝の夕方のニュースのコーナーで、「年末の北朝鮮平壌、独占潜入レポート」といった内容を放送していた。紛れもなく、僕の後にやって来た彼が観光ビザで取材?したに違いないものだ。素人でもできるようなことを、「独占レポート」と称して放送をするのが、日本のマスコミの実態なのか。

 あれほど二人のガイドさんが、僕にたいして、何十回も「あなたはマスコミ関係者ですか?」とたずねてきたのは、なるほど、こういうことだったのかと、妙に納得させられてしまったのだった。



終わり…

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