チニカ山荘 道
 その昔は山男達の山荘として愛された宿。

 かつてのチニカを象徴的に物語る写真がある。マツダのサバンナというロータリーエンジン車のクーペに、フォークソングにどっぷり浸かっていそうな長髪の若者達が、ボンネットに十数人ぐらいで積み重なって乗って記念写真に収まっているという、ヒッピーの人達も訪れていたような、時代ごとに柔軟に顔を変えていた山荘。

 八十年代になり、空前のバイクブームが訪れると、バイク乗りを目当てにした、ライダーハウスへと重きを置く流れに。

 バイクで北海道を駆け巡る彼らは、その奏でられるエキゾースト音から、「ミツバチ族」と呼ばれた。当時は2サイクルエンジン全盛期ということもあり、乾いた独特のエンジンとマフラー音が、ミツバチの羽音に似ていたためである。

 ミツバチ族が北海道を席巻する前は、でかいリュックを背負って汽車の客車内の通路を体を横にしてすれ違うその様子から、「カニ族」と命名された若者達が、道内のそこかしこに出没   



チニカ山荘 ベッド
 部屋に入り目が慣れると、僅かばかりの採光に映し出される家具や家庭用品のシルエット。

 左は棚で、予備のポリタンク等が並べられている。右には山小屋然とした二段ベッドがあるが、布団が目一杯積み重ねられていた。ここは物置として使用されていたようだ。



チニカ山荘 ミッキー
 お客さんが忘れていったのか。ミッキーマウスのぬいぐるみ。

 日本人が我も我もと世界へ飛び出して行くことになる前、様々な「  族」が北海道にやって来たが、女性雑誌に影響を受けた女性グループによる旅人達、「アンノン族」も忘れてはならない。

 山荘には似つかわしくないことや、物置に律儀に保管されていたことを考慮すると、七十年代頃にやって来ただろう、アンノン族が忘れていったぬいぐるみであったとの可能性も考えられる。



チニカ山荘 部屋
 さらにもうひとつの部屋へと足を踏み入れる。

 ここも物置として使用していたらしい。チニカの末期は、いつ来るかもしれないバイクに耳をそばだてて、ギリギリで営業を続けていたというのか。


 
チニカ山荘 絵
 クレヨンで描かれたような絵。大胆なタッチが、オーナーのおおらかな人柄を物語っているよう。



チニカ山荘 蛾
 至って普通の蛾に見えるが、思う所があったのか。



チニカ山荘 案内
 漢字を間違えているような気もするが、指摘する人はいなかった様子



チニカ山荘 禁煙
 オーナーに恥をかかせられないと、誤字を訂正させることのない配慮。この時代に、先進的とも思える徹底した禁煙を実地。

 裏を返せば、確固としたリーダーシップがあったということの証明でもある。



チニカ山荘 風呂張り紙
 ワイヤーハンガーを曲げ、クリアーファイルで挟み込む。ビニテののたうった荒々しさは、チニカオーナーの気性そのものか。絵を描いたり、蛾を収集するような穏やかさを持ちながら、事務仕事では粗暴さを覗かせる。表裏一体。



チニカ山荘 脱衣所
 本格的な脱衣所に少し驚く。



チニカ山荘 効能
 立派な脱衣所といい、効用大の湯を喧伝するあたり、チニカオーナーとしては、最大の呼び物のひとつが、このお風呂であったことは確かなようだ。



チニカ山荘 扉
 さて、どんな風呂であるのか   



チニカ山荘 浴槽
 ちゃぶ台のように狭い風呂でがっかりする場合も多い、旅先での風呂。チニカのは山男数人同時にでも浸かれるような、ゆとりのあるものだった。



チニカ山荘 壁
 入浴施設は派手ではないが、必要にして十分であり、まとまっている。



チニカ山荘 説明書き
 物凄く複雑な手順を要求する、説明書き。

 僕が中学生の頃だったらきっと理解できそうにないし、かといって、あのオーナーに質問すれば「説明書き、見ましたよね?」と言われそうで、どうしたものかと、五分ぐらい立ち尽くしたかもしれない。



チニカ山荘 椅子
 ここにも、チニカの目も覚めるような鮮烈な赤が彩られているこを、見逃すことはなかった。これまで通り、一貫している。



チニカ山荘 山
 積丹半島の地平線に沈む、夕日・・・グラデーションのイメージか。



チニカ山荘 シャンプー
 こういった備え付けの、店で売っているようなシャンプーは、何か不衛生な感じがして、使う気にはなれない。



チニカ山荘 照明
 湿気を吸いそうな材質の壁。凝った照明。広さといい、手抜きはない。



チニカ山荘 大
 大勢で肩をぶつけ合いながらワイワイ入るのも良し。ひとり独占して大の字で浸かるのもまた良し。



チニカ山荘 桶
 風呂桶をよく観察すると、水垢が一切付着していないのに気付く。床も同じく。

 壁の材質による除湿効果にもよるが、最大の要因は、オーナーと従業員による尽力の賜物であろう。



チニカ山荘 席巻
 水切りの透明板の付いた石鹸ケースを採用。

 カビや水垢といった衛生面には、最大限の注意を払っていたことがうかがわれる。



チニカ山荘 扉
 オーナーによる、厳格なまでの衛生管理への徹底したこだわりを、今回、汲み取ってあげられたことに、まるで申し遣わされた役目を果たせたかのような、カタルシスのある心地よさを、感じるまでになる。

 さあ、風呂場は、これまで歴々たるチニカ山荘探索において、最大の成果をあげられたのではないかという、自負のもとに、まだまだ残る暗部へと向かおうかとした矢先、脱衣所の片隅にて、チニカオーナーの残していった、尋常ではない偏執的なこだわりを傾倒させた、給湯システムに関する膨大な資料を、発掘することになる   
 


つづく…