家4
 廃墟ドライブイン「かどや」の小説を発表し、波風もたちそうにない、静かなる反響を引き起こしかけた”彼”が、適度な冷却期間を置いた後、満を持して、更なる作品へと、ペンをとることになる。

【読んでおきたい】小説、ドライブイン「かどや」の活路

 思えば僕は、日記を持ち去ってしまったという罪悪感もあり、最低限の節度は残しておこうとの考えから、あの廃屋日記の少女の家の場所は、ひた隠しにしておこうと、当初より一貫して、決めていた。

 僕のせいで家を荒らされでもしたら、本望ではない(あの家族が)だろうし、自然の摂理によって、儚く消えてゆくのが、双方にとって一番の妥協点ではないのだろうかと考えていた。

 日記の連載をしておきながら、自分にとって大変都合よく考えているのは、否めないところではあるけれど。

 廃屋の探索を終えてから東京の家へ帰り、気になる”三文字”の地名を検索してみたが、その時は引っかかることもなかった。

 ああ、あの地は、過疎化などが原因で、地図上から消滅してしまっているのだと、そう認識していたのだが・・・

 廃屋の少女の日記を読み、興味を持った人が、自分で調べて行く分には、何も僕は土地・建物の管理者ではないので、止める権利も理由もない。

 行って来た当の僕がネットで調べても、場所に関する情報は得られなかったこともあり、まあ、読者の人が辿り着くのは無理だろうけど、念には念を入れて、家族の名前、家族に関する地名などは、架空の名前を付けることにした。

 ぱっと読みの人には、あの家族も、北海道にある廃屋というのも、ひょっとして書き手の想像の産物なのではという印象を与えるという効果もありそうで、謎めいて読み手の想像力の幅はひろがるだろうし、現実の世界で波風立たせずに(僕や廃屋の家族達)、物語を穏便に進行させるうえで、万全の策が講じられたなと、満足気に高をくくっていた、とある日   

 なんと、僕からは全くのノーヒントで、あの場所へ到達した人が、出現する。

 僕でさえ、場所の情報は、車のHDDナビの中にしかなかったというのに。

 僕がネットに築き上げていた、空想の家族と空想の家を  数ヶ月にも及ぶ綿密調査により  遂に現実世界と結びつけた、”男”。

 彼は成し遂げた嬉しさからか、コメント欄へ、気になるワードを書き散りばめた。僕は管理者なので、消そうと思えばできたが、あえて残すことにする。

 読者の人が、そこまでをも目を通し、情報を集めて行きたいと思うなら、そんなにまでして僕の放ったものに、入り込んでくれているということは、もう、感謝の言葉しかなく、どうぞ、お気おつけて行って来て下さいと、東北新幹線の始発駅、東京駅のホームから、直々に、送り出してもいいとさえ、思ったぐらいだ。

 以降、彼のヒントを参考にしつつ、「私も場所がわかりました!」と、コメント欄や、個人的にメールをくれる人が、続出することになる。

 中には、1978年の時刻表をヤフオクで落札をしてまで調べ上げ、妻に「あんたはストーカーか?」と、呆れられたと、報告をくれた人もいた。

   そんな先駆者でもある彼が、上梓した、仄暗い、第二弾、小説  
 
 

小説 少女が残した日記
『交錯のMEMORY』

written by SABU

   キョーコの謎を追って行間辺へ向かった白河先生、澪(みお)、サブ、そして金城。行間辺湖の湖畔を踏査中に、母子連れの散策者の娘が誤って湖に転落する場面に遭遇する。迷わず湖に飛び込む金城。澪は救いに飛び込もうとする母親を抑える。金城の活躍で娘は無事救助された。だが、金城はその場に倒れ込み、病院へと運ばれる・・・


【第1話 赤とんぼの唄】

 ベッドの周りに並べられた折り畳みいすに腰掛けて、心配そうに金城を見守る白河、澪、サブ。金城の意識は戻らず、うなされて弱弱しい声を上げている。

「う、う・・ん・・・だめで・・ごわす!あぶない、それ以上行くと・・湖に落ちるで・・ごわす・・・・!」


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「金城さん、もう大丈夫なのよ!金城さんのお蔭で女の子は助かったのよ!」

 澪が枕元に顔を寄せて必至で呼びかける。

「・・あぶないでごわす・・だめでごわす!とまるでごわす!キョーコ・・ちゃん・・・!」

「え、"キョーコちゃん"って??」

 思わず口に手を当てる澪。白河とサブも顔を見合わせる。

 自分の叫び声で目覚めた金城。自分が無意識に口にした言葉の意味に気が付く。

 病室の窓から差した西日が金城の反面を赤く照らしている。

 金城はパジャマ姿の半身を起して暫くその夕日を眺め、そして、おもむろに語り始めた。

「菊田京子・・・それが、彼女の本名でごわす・・。」

「・・えッ!?」

 思わず声を上げた澪を、白河が口に指を当てて睨んだ。


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「・・ちょうど今日みたいな暑い日でした。ええ。ちょうど今日あの女の子が落ちたあの石段から、キョーコちゃんも湖に落ちたんですよ。幼稚園の年でした。もちろん、あの日もおいが飛び込んで助けました。ずぶ濡れになったヨーコちゃんを背中におんぶして、赤トンボの唄を歌いながら長い道のりを家まで帰ったものでごわす・・。」

 今度は澪も何も言わなかった。

「そう、おいの名前は金城ではなくて・・・」

「・・菊田達也・・・つまり"小さいお兄ちゃん"・・・ですね・・。」

 言いよどんだ金城の言葉を、白河が静かに繋いだ。



つづく

【第2話 追憶】小説、少女が残した日記『交錯のMEMORY』