秘境駅 小屋
 満身創痍の難破船のような、くたびれた小舟が息も絶えだえやって来たようだったが、条件反射のように、一目散に僕は来た崖を駆け上って行ってしまう。



秘境駅 線路の向こう
 廃棄物のような船に乗っていた人は、噂にきいていた、この小屋の主人であるのか。違うとしたら、こんな朝早くに、どこから来たというのだろうか。



秘境駅 橋
 懐中時計を携えて眼鏡をしたウサギが先導するかのような、幻想的な小道が目の前に。申し訳程度の板が通してある橋は、思ったよりも強度があった。



秘境駅 一歩
 漂流船のような船上にいたあの人が、この小屋の定住者であったなら、現在、中は留守のはず。

 こんな絶海の孤島のような無人駅の離れ小屋に居つく人の、生活空間を、誰しもが見てみたいと思っているに違いない。

 その期待に答えるべく、進み出てみる。



秘境駅 看板
 小屋の側面に固定されていた看板。

 密漁者への警告のようだが、あの船長がこの小屋の主だとしたら、全く意味をなさない掲示物。



小幌駅 梯子
 踏み入る前に、周辺チェックを。

 梯子がかけてある。おそらく、降雪時に、屋根の雪かきをするためのものだろう。真冬にそのままにしておいたら、こんなトタン小屋などすぐに潰れてしまう。

 一見、大義なき浮浪者も、施設の維持管理に、役立っているのかも



秘境駅 干し物
 宿主の物干し場を発見。たるみ過ぎなのは、取りやすさを考えてのことか。

 食物は密漁の疑いがあるものの、自分で用意しているようだし、洗濯もこまめにやっている様子。

 居住空間は決して広くはないが、全てタダで無税だとしたら、充実した生活を送っているとみていい。



秘境駅 ドア
 中の気配をうかがう。

 物音はしない。息づかいも聴こえず。誰もいないようだ。

 封鎖中とあるが、つっかえ棒はただ乗せてあるだけ。巻いてある紐をほどくと、二本の棒は上にすぐ外れた。



秘境駅 小屋全景
 中に入ってみる。

 漆をぬったような、油光りした茶色い簡素な板敷きの長椅子のみの小屋の中。男の生活備品など一切なく、空の状態。話に聞いていた、情報ノートさえ見当たらず。

 実際に施設を管理しているJRの職員に、男の品々などは撤去させられてしまったのか。寝るだけの部屋として活用されているの可能性も。秘境駅として注目されてからは、日の明るいうちは姿をみせず、終電が過ぎて暗くなったら、こっそり寝に帰ってくるとか。



秘境駅 トンネル
 崖の上の閉ざされた空間にある秘境駅の、離れの小屋に、人が住んでいるとは、心あたたまる、壮大な北の大地ならではの、ロマンのある話しだなと、直接対面はあえて避けたところはあるものの、その様子を拝見することに期待に胸膨らましていただけに、残念でならなかった   



秘境駅 汽車
 彼が居づらくなったのは、やはり、秘境駅ブームの影響だろうか。自分もそのブームに踊らされているうちの、ひとりなのだが。

 小屋で寝ている最中に、スマホ片手にガヤガヤ踏み込まれたら、たまったものではないだろうし。

 この駅へ来る最大の目的を見失ったようでもあり、軽い喪失感に襲われたような気がしないでもない。



秘境駅 汽車2
 礼文駅へ再び。



秘境駅 礼文駅
 行きの早朝にはなかった自転車が二台置かれている。通学に汽車を利用している学生のものだろうか。

 今度来る時は、真冬の大雪が積もっている時期にしようと思う。吹雪の中、大五郎の4Lビッグ・ボトルをお土産にでも持参すれば、案外大歓迎で向かい入れられ、すぐに打ち解けられるかもしれない。

 

終わり…

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