人2
「おじょうちゃん、今、なんて!?何隊長だって!?」そう訊いたサブの声は興奮にかすれていた。

 朽ちかけた日記に幾度となく足跡を残したキョーコの実姉しのまい。その名が40年の時を経て幼子の口から、しかも生身の人間の名として告げられたことに、白河もサブも戦慄に近い驚きを感じていた。

「しのまい隊長。だって、菊田ってしのまい隊長のミョージだもん。幸子知ってるよ!」

 言葉もなく皆、互いに顔を見合わせる   

「あのお、みなさん、菊田さんのお知り合いの方ですか?」 

 その場の不自然な空気をとりなすように、幸子の母が皆の顔を見回す。

「しのま・・いえ、菊田さんとは、いったい?」動揺を抑えて金城が聞く。

「ええ、去年の秋からこの公民館の食堂にこられた女性で、なんでも昔、行間辺で牛ぽいをされてた菊田家の遠縁のお方だとか・・。」


疾走
 うん、しのまい隊長、しのまい隊長    と連呼しながら、幸子は部屋中を走り回っている。

「その菊田さん、とてもうちの幸子や子供たちをかわいがってくださいまして。子供たちと一緒なって遊んでくれてるんですよ・・・。猫の物まねなんか得意で。それであの子たち“隊長”って。そのう・・その食堂は養護施設の職業訓練も兼ねているんです。それで・・」

キョーコの日記から、しのまいの知識を得ていた白河は、言いにくそうに言葉を濁す母親の後を引き取った。

「それで、今そのしのまいさんは・・?」

「・・それが、じつは・・・・。」

 母親は言葉を濁して、横目で幸子を示した後に訴えるような視線を白河に戻した。

「幸子ちゃん、おじさんと、売店にお買い物いこうか?」


廊下2
 察したサブが幸子の手を引いて、病室から廊下へと連れ出す。シャボン玉をねだる幸子の声が、廊下の奥へと遠ざかって行った   




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