上厚内駅 正面
 北の大地を旅行中、通りにやけに廃屋が多くなって来たなと思っていたら、急にひらけた砂利の校庭のようなスペースに入り込んだ。なだらかなスロープになっていて、上り坂の行き着く先には、廃校になった校舎のような、薄汚れてくすんだ木造平屋建ての建物が。

 看板には「上厚内駅」とあった。

 湿気と乾燥を繰り返し歪(いびつ)になった木戸を腰を入れてこじ開ける。

 廃墟のような駅舎内へ入ってみることにした。



上厚内駅 戸口
 東京から来た人間にとっては、まず、駅の戸が閉まっているということが異体験。

 他人の家に上がり込むような罪悪感。



上厚内駅 戸口
 これだけ綺麗なら床に直寝もできそうだ。



上厚内駅 時刻表
 駅寝をするなら夜の九時以降がベストタイム。



上厚内駅 改札
 こちらもきっちりと閉められている。利用する人はマメな人ばかりの様子。



上厚内駅 ホーム
 東京だったら心霊スポットになりそうな駅舎。



上厚内駅 柱
 補強はしてあるようだが、耐用年数はもうそろそろ限界か。



上厚内駅 歩道橋
 現代か?といった砂利のホーム。



上厚内駅 階段
 無駄に間口が広い。



上厚内駅
 パスポとかはどうするのでしょうか。



上厚内駅 車輪止め
 引き込み線と車止め。

 滝川駅のホーム上には、いまだ機関車時代に客が顔を洗うために使用していた洗面台があるが、車止めの手前にある基礎跡は、同様に洗面台だったのではないだろうか。



上厚内駅 塗装
 再塗装は二度と行われないでしょう。



上厚内駅 皿
 鳥の餌やり用の台か。数十年前に存在していた、鳥好きの駅長さんによる微笑ましい痕跡を発見。



上厚内駅 トラベルミン
 SNS全盛のこの時代、もう誰も使うことのない余白だらけの掲示板を懐かしさをもってしばらく眺め続ける。

 じゅうぶんひなびた駅を堪能したので、駅前に停めた車に戻ろうとして視線を横に移したその時   

 
 
上厚内駅 言葉
 サイクリングがすき!

 歴代の旅人達による、びっしりと書き込まれた、熱きメッセージを発見する。
 


上厚内駅 1984
         20~21~22
     1984.10.1920
 びっくり しました。 こんなローカル(失礼)
な駅、 ツーリスト達が昔から停まっていた
なんて。
   僕も泊ります。
  SILK CAMPINGに のる
Hoshi Ishibe.  大阪は 富田林より
来ました .  なんと 北海道には 6/9に入って以来でてません
冬は 札幌国際スキー場で バイトなので
いつ抜けだせるか ? です、
 助けてくれ ~~~
今頃来るとは と     ぜん フリーです
     じゃがいも亭 必殺居候人
            Hoshi


 大阪は富田林のHoshi Ishibe君。「とんだばやし」という地名は耳では聞いたことがあったが、「富田林」と書くようだ。語感的に、「丹波篠山」の近所というイメージをなぜか昔から自分の中だけで勝手に思っていた。

 数ヶ月も北海道滞在中の彼。現代なら、死相を浮かべながらライダーハウスに長逗留している人、タイの北や中国の西で沈没をしている、目の下に黒ずみのようなクマを始終湛えている淀んだバックパッカーなどの、元祖のような存在だったのかもしれない。



上厚内駅 目の
 せっかくオフロードバイクに乗っているのに、林道を大して走らないのは、宝の持ち腐れではないかという論争のようなものを、下の書き込みに対してふっかけている書き込み。

 僕も同じバイクを中古で買って乗っていたことがありますが、壁の皆さんは、バイクで熱い青春を謳歌していたようです。

 今の北海道にも、こんな弾けるような青春群像が、バイクであれ自転車であれ、繰り広げられているのだろうか。

 ライダーハウスに行ったら、オーナーのおっさんと、泊り客もほぼおっさんで、酒を酌み交わしながら、『昔は良かった・・・』の大合唱をしているような気がしてならない。



上厚内駅 60
 最古の物と思われる書き込みは、なんと1961年。

   と思ったものの、指摘を受けてみれば、そうだ、これは昭和ではないのかと・・・



上厚内駅 駅前スペース
 北海道に初めてやって来た時のときめきが、あの壁には踊っていたような気がした。

 思いがけなく、歴史が積み重ねられた落書きを前にして、放心状態になりながらも、余韻を引きずりながら、駅前へと出る。

 屯田兵による開拓時代のような駅前がそこに。



上厚内駅 駅前建物
 究極の駅ブラ。廃屋ばかり。



上厚内駅 廃屋
 駅前に存在する、半壊気味の廃屋。

 タイヤを不法投棄する輩(やから)の餌食になっているのかと思いきや、屋根に乗せてあったり、吊るされているタイヤもある。個人的な価値を見出して、収集していた可能性もあるのか。

 中へお邪魔してみることに。



上厚内駅 中
 レトロな家具調ブラウン管テレビ。他はタイヤの山脈状態。

 

上厚内駅 遠望
 僕が旅をする際、宿泊先でのつまらない派閥や力関係などに殊更気を使うようになったのは、いつ頃ぐらいからだったろうか。

 かつては目を宝石のように光らせ、旅人から旅人へと屈託のない笑顔で、腹を割った旅のこぼれ話を、夜通し、外が明るくなるまで彼らと会話を弾ませていたこともあった。

 旅先で閉じこもっていてばかりでは駄目だ。言葉を交わし、議論をぶつけ、引き出しの奥の奥まで見せ合うような、人との厚い関係を持つことで、忘れていたあの頃の旅の醍醐味を取り返せるのではと、壁の彼らの装わない飾り気のない無垢な想いを目の当たりにし、旅での接し方を改めなければと、初心に立ち戻ってみようと、肩を落とすどころか、沸々と漲る気力が内側よりジンジンと熱せられることにより顔面が紅潮をし、かっかと顔を熱くしながら、的を得たりといった趣きで歯を少し見せつつ、生まれ変わったかもと自分に言いい聞かせ、次の旅の行き先での俺は少し違うぞと期待を抱かせ、先走る気持ちを抑えつつ、腰を浮かせ滑るように車へ乗り込む   
 


おわり…

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