母親がかつて、しのまいから伝え聞いた「妹は、もう三角ちゃんだから、帰ってこない・・・」の本当の意味とは。妹は当然キョーコさんのことであるとして、では、一体、「三角ちゃん」とは・・・・・・


ゴールド
 並木駅から国道を超えて住宅街に入り込んだ細い路地、JAの出張所を左手に進んだその突き当りに「ラウンジ ごーるどまいん」はあった。

 店主の金山朋彦は並木中学の卒業生の中でも数少ない、地元居残り組の一人だった。

 金山は行間辺中学のことも、もちろんキョーコのこともよく覚えていたが、高校進学後の消息、事に特に失踪後の行方については殆ど何も知らなかったのだ。

「そうですか。キョーコさんの日記には頻繁に金山さんのお名前が出てきたんですがねぇ。」サブが水を向ける。

「へえ、いやあ。正直中学時代にはちょっとまいっちゃってた時期はあるんだけどね。ギター弾いてやったり。手紙なんかもらったり、さ。・・・かわいい子だったから!」


カウンター
 照れ隠しのように目を伏せたままそう言うと、金山はカウンターの上で皿に袋入りのナッツを広げて、常連と思われる年配の男女のテーブルへ運んで行った。

 そんな金山の後姿を見送りながら澪がつぶやく   

「ざんねん・・。無駄足だったみたいね。」

 金山がカウンターに戻ったタイミングを見計らって、サブが訊いた。

「結局、キョーコさんと交際らしい交際はされなかったんですか?」

「だって、中学が違うもん!家もとおいしなあ。」


フォト
 突然、憤慨したように澪が決め付けた。

「中学とか、家とか、距離とか!お互いに好きなら関係ないんじゃないですか?障害がかえって愛情を深める事だって・・・!」

金山は卑屈な笑みを浮かべながら頭を振った。

「あんたたち、都会もんなんだなあ。」

 澪とサブが視線を合わせる   

「こっちじゃあさ、距離は距離なの。寒さは寒さなの。雪が積もれば歩きにくいし、吹雪が吹けば何日も家から出られない。距離は恋愛の刺激薬なんかじゃない。少なくともこの道東ではね。」


肖像画2
 澪がカウンターから腰を浮かせて何か反論しかけたのを、肩に置いた手でサブが抑えた。澪は黙って腰を下ろして、そのまま悔しそうに口をつぐんだ。




こんな記事も読まれています