リリ 森
 札幌市内から車で行く場合は、道道三号線を由仁町へ向かって行く。長沼町と由仁町の境目あたりに、その廃墟ラブホテル「リリ」はある。

 かつて、この廃ラブホでは、首吊り自殺があり、当時のテレビや新聞のニュースで結構取り上げられたいう話だ。

 実は、訪問当時にはその場所で自殺事件があったことは全く知らなかった。今思えば、よくもまあ、怖いもの知らずの我が物顔で、その人がたたずんだらしき痕跡があったというのに、いつものように、あれこれとつつきながらほっつき歩いたものだと、我ながらあきれてしまう。

 首吊り自殺のことは、最近図書館で借りた本の中に書かれていたが、それにしても、十数年ぶりに利用した図書館の進化ぶりには、驚愕に近いものがあった。

 十数年以上前に杉並区に住んでいた頃に入った図書館は、昼でも夕方でもホームレスがたむろしていて、強烈とはいわないまでも、若干の腐臭が常に館内に漂い、おまけに座る席は彼らに独占されているという酷い有様。

 そんなものだから、もう二度と図書館は利用するかと固く心に誓い、以降、本は主にブックオフの100円コーナーを中心に漁り、たまのセールの時に、他コーナーで格安本を買うというのが自分での中でお決まりのコースとなっていた。

 時は過ぎて・・・、ブックオフの100円コーナーが縮小される傾向にあり、結構な頻度で見かけられた、レア本の発見もほぼ消滅。

 初期の頃など、ファミコンゲームのレアな攻略本が100円でズラリと並んでいたので、よくバイクや車であっちのブックオフからこっちのブックオフへと、巡り巡ったものだった。

 片手に端末を持った極悪な”せどり屋”が横行したせいもあるが、ブックオフはそれまで適当に値付けしていた体制を改め、希少本はヤフオクにしっかりとまわして売るようになった。店に陳列される全ての本の値段もなぜか、僕のような庶民の手の届かないぐらいまで上げてしまい、もはや行く価値のない店となってしまう。

 そのような経緯があるのと、ここ数年、視力が極度に低下してきたことも相まって、活字からは遠ざかっていたが、ある夜突然に、昭和の街並みを撮った写真集やレトロ自販機の本などを読みたくなり、でも、新書で買うまではいかないなと思っていたところ、何気にのぞいた自分が住んでいる市の図書館のホームページを閲覧し、胸を突かれんばかりに驚く   

 ネット上でIDをつくれば、本館や分館を含む、市内中の全ての図書館の蔵書を一括検索できてしまうばかりか、古くて借り手のあまりない本が眠っている地下書庫から、予約をすれば取り置きしてくれ、新書もしかり、遠く離れた分館にしか無い本も、取り寄せて予約取り置きをしてくれるという、これ以上ないサービスを受けられると知る。本を受け取る図書館は好きな場所を指定できる。図書館員がえっちらと無料奉仕で運んでくれるのだ。

 館内の本棚に普通に並んでいる本さえ、予約取り置きができるので、もう、わざわざ図書館内で右往左往キョロキョロして本を探す必要がなくなる。

 新書を誰よりも一刻も早く読みたいという人や、超珍本を収集してます、という人なら別としても、このことはもう、本を買う人がいなくなるのではというぐらいの、完璧なまでの、手厚くきめ細かく、懇切丁寧便利な無料閲覧サービスシステムが、確立されてしまったのだと言っても、言い過ぎではない。

 おかげで、常時十五冊前後の本を借りている状態が続いている。もうとまらない。例の失踪した美人中国人女教師「危秋潔」さんが、作家「渡辺淳一」のファンで、渡辺淳一によって書かれた「阿寒に果つ」に影響を受けて失踪したのではとニュースで聞けば、瞬時に、「阿寒に果つ」と「廃礦にて」をネットで予約して、次の日には借りに行ってしまっているわけで、便利なことこの上ない。







 ちなみに「廃礦にて」は、女教師「危」さんも、もしや訪問したのではと一部で報道された、雄別炭鉱の病院が舞台になっている。元医師ならではの施術描写は見事だし、廃墟となった病院の荒廃ぶり(下の記事よりは酷くない)もうかがえる。元女性患者の住んでいた朽ち果てた姿の炭住を見たタクシー運転手が「化け物の小屋ですな・・・」と最後に言い放つのが印象的。

【読んでおきたい】雄別炭鉱・病院と訪問者の証し







 十五冊以上借りると、持ち運びが非常に重いのでこれが限界数。便利だが、もはや希少になりつつある、リアル本屋にとっては、死活問題というか、罪深いというか・・・。

 廃墟関係の本なんてほとんど読んだことがなかったけれど、これを機に、市内中からありったけ集めて、数十冊は読んだだろうか。アマゾンでよくみかけるのも結構あるので非常に助かる。

 それでまず言えるのは、軍艦島の写真集はどれも似たり寄ったりだなということ。お金を出してまで買っている人は、本当に好き者なんだなと   

 ただこれは、僕も普段から廃墟や廃屋を撮影していて、痛いほどわかるのだけれど、いろいろ屁理屈をこねて説明をしても所詮は血の通わないただの転がった有機物なので、『こうとしか撮りようがないよな・・・』と、同情してしまう。これ以上作品に変化をもたせようとするなら、よっぽどの広角レンズを使用して奇をてらうか、Lightroomなどの現像ソフトやPhotoshopで色をいじくり倒すしかないのではと思ってしまう。

   そんな、他人の作品集などにはからきし財布の紐が硬い、比較的このジャンル(廃墟)には新参の男が、情報だけは厚かましく拝借しつつ、北の森閑とした杜の中にたたずむものの、覆う樹木に取り込まれようかとしていた、一軒の荒みきった廃墟ラブホテルへと、赴くことになった。

 かつて、首吊りの自殺者がそこで発見され、騒動にもなったこともある廃ラブホテルではあるが、その自ら命を絶った人は実は従業員でなく、ラブホテルから経営者家族がいなくなり、相当の月日が経った頃、廃墟となったホテルの一室に、密かに住み着いていた、名も無き浮浪者であるということらしい。

 とある部屋の一室で僕は、彼の無念さが篭っていそうな、あるモノを足元に見て、触れて、訪問当時はそれと知らなかったにもかかわらず、しばらくの間、単なる気まぐれと偶然かもしれないが、じっと、見続けることになる・・・・・・



りり 木々
 車を降りて森を進むと、小洒落た観光ホテル風の建物が姿をあらわす。



リリ 奥
『道道3号にこんな森なんかねーよ!』とおっしゃる方がいるかもしれない。

 そんな時は、かつて、目を細めて、その実体をなんとか捉えてやろうと、熱心にモザイクを見つめ続けたあの頃のように、街並みを同様に注視してみると   

 まるで平行する奥にもう一本の道があるかのような、実は、本当にあるが、並ぶようにして途切れている一本の道が存在する。旧道なのだろう。

 その、失われた旧道沿いの森の中にあった。



リリ 車
 旧道に止めた我が愛車。

 土が盛られている道が道道三号線。普通に走っていたらここにはまず気づかない。



リリ 不法投棄
 まずはお決まりの、周辺チェック。

 廃墟三種の神器ともいうべき、タイヤに、ブラウン管テレビ、消化器と、東京と変わらず   



RIMG0439
 郊外型の廃墟ラブホテルにはよく見られる、犬小屋。住居も兼ねていた痕跡。



リリ ルーム
 下はああではないが、アメリカのモーテル風。



リリ 家
 こちらは住宅部分っぽい。



リリ 階段
 よほどの握力がないと二階へは行けそうにない外階段。



リリ 入口
 シューター式でもない、パネル選択式でもない、「旅荘」という言葉が当てはまる、質素な面構え。



リリ 廃材
 無許可営業ではなく、一応、モーターラブホテル?かなにかの会員だったようだ。



リリ タバコ
 スナック菓子やタバコでも店先で売っていたのか。



リリ 駐車場
 駐車場スペースにあったのは、せいぜい、この程度。



リリ 正面入口
 一息ついてから、入らせてもらう   



リリ 自販機
 当時、周囲は鹿が闊歩するぐらいで何もなかったから、これは貴重な水分補給源。



りり ハイシー
 侵入者により、こじ開けられた腹部分。根こそぎ釣り銭を持って行かれた様子。



りり カウンター
 一応フロントらしいが、旧式もいいところ。



りり テーブル
 病院の受付のようでもあるが、縁(へり)のメタリックな模様が僅かにラブホテルを主張する。



りり 床
 底のない脱衣カゴなど。撓む床。一斉陥没は近い。



りり 振り返り
 かち合わないかと、何度も後を見てしまうのは、何らかの神経症か。



りり 神棚
 神は一家を守れず、その後の、世捨人さえ救うことはなかった   



りり ビデオ
 今や魔性の女と陰口される、斉藤由貴がかつてCMをしていたNECのビデオデッキがこんなところに。今やっていたら、即刻降ろされていたことだろう。



りり 階段
 バイオハザードの洋館にありそうな階段があったので、強度を確認しつつ、登って行ってみることにする。

 洋室ばかりの部屋が並ぶ中に、とある一室のドアの上には「うめ」との表記。珍しい、純和室。身構え、入室すると、臭気を発していそうなくたくたのせんべい布団が、そこには敷かれていた。



つづく…

「最期の床」北の杜、首吊り自殺の廃ラブホテル訪問.2

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