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 月あかりが青く照らす北の大地の草原の中の一軒家のロフト部屋のような二階にて、キョーコさんは感傷的になりながらも、また、受験生でありながら、お祭りの前哨戦でもある、「夜みや」に参加をしてしまう。

 人生を決めることになりかねない、受験日が近いというのに、特段、罪悪感のようなものは感じていない様子。
 
 さらには本祭りにも独り参じて、弟にピストルなどをお土産に買ったり。「人が少ないなぁ」などと批判しつつ、じゅうぶんに中学生最後の夏祭りを堪能してしまう始末。

「金山 君 とか  , 山 角 君  ,  宮 脇 さ ん  .来 てく れれ ば ね ぇ .」

 同級生が受験勉強に必死になる中、あえて、やらないようにも見えてしまう。

 酪農で苦労をしている親の逼迫した経済状況を見るにつけ、放蕩息子の兄弟たちは全く期待できず、それならば私しかいないと、内心では親の仕事を継ぐ覚悟をしていて、高校に進学できないようにと、自らをそのように誘導してしまっているのか。それとも、単なる自堕落か。

 そんな折、キョーコさんはまたもや、一遍の詩を創作することになる。

 隠喩を駆使したそのポエムは、いったいこの”時期”、あの、草原の中の頼りなくも建つ一軒の小屋のごとき木造家屋の二階の月の見える一室で、彼女は、何を言わんと、いや、残そうと、していたのか   



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16b
  1978 年    9月  1 6 日   (土)    雨  (17) 0: 05

  せっかく の  休 み も  こ の 雨 で   だ い  な し
  どうして  こ う な  っち  ゃ う の  か ね。  今   史之舞が 帰って
 来た 。 さいきん   私 たべて バ カ し   なの よ ねぇ 。
 金山君   どう して るだ ろ う  。  きっと   いっしょう け んめ いに

 勉強 して る だろう なあ   中三 にもな っ て   勉 強 して ない のって
 私く ら い だ もんね ぇ  。  おき た の  が   1 :00  ご ろ  .  (こんな
 はず で  は  ・・ ・・・  )   ど う な って んのか ね  い  った い 。
 金山友彦 .  山角 好 司  .   宮 脇 元 弘  。  みんな 好き。
 三人 とも 大好き  。 これが *  私 の 片思 い  。
    彼 は 風
    風せんの ご とく に  空 に 舞 い あが る
    彼は 風
    音楽 のご と く   なが さ  れ て  . . . .. .
    私 は 聞 こ う とす る  私 は さが  そう う と す る
    彼 は  なみ
    は げ しい  音と  な が れ の 中 に や さ しさ が  あ る
    つめ たさ の 中 に  お ち つ き が あ る
    青 さ の中 に  愛が ある
    彼は 空 に  舞 い 上  っ た  。
    私 の  いと し  い  彼
    私 の  心
    私 の 命
    彼は 今 大 空  へ  ...  。

せっかくの日曜日に、雨。

決まり決まったように、史之舞が帰って来る。当初考えられていたような、患者としての医療施設通いなのか、看護婦であるのか、社員寮住まいなのか、ここ最近、派手に暴れるようなこともないので、手がかりになるような追加の情報はない。

>中三 にもな っ て   勉 強 して ない のって 私く ら い だ もんね ぇ  。

少なくとも、キョーコさんの中学校では、就職組以外はそうなのだろう。一応、彼女の第一志望は、高らかに宣言した通り(あの頃は積極的で輝いていた)、金山君や佳子さんと一緒の、二択のうちの上の方の高校が希望だったはずだが、まるで、畳に根を張ったように、頑なに動くことを拒んだままでいる、キョーコさん・・・。

>おき た の  が   1 :00  ご ろ  .  (こんな はず で  は  ・・ ・・・  )

休みとはいえ、起きたのが昼過ぎの一時。穀潰しニートのような起床時間。親は四時起きで牛の世話をしているのだから、これはいただけない。

>三人 とも 大好き  。 これが *  私 の 片思 い  。

お馴染みの三人の名前を掲げた後、キョーコさんは新たなポエムを書き放った。本当は金山君ひとりに向けた言葉であったはずだ。しかし、折角愛した人達に申し訳ないと、心が痛み、律儀に、あえて三人へ贈るといったようにも見れる。過剰な気配り。最後の一節などは、恋とは決別しようとしたのかもとも読み取れる。

まもなく、人生の第一回目とも言えるターニングポイント。

彼女が「風」を表題にした詩に込めた思いとはなんであったのか。一時の熱に浮かされた   数十年後に読み返してみれば、顔から火が出るような、青春の甘酸っぱい、振り返りたくもない   暴走であったのか。さらに創り出されていくポエムを読み解いていくことで、彼女の真意に、もしかしたら近づけるのかもしれない。



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 い や ー つ か れ ま す ね ,  ”未来 で  一 つ だ け 確か なことが
あるよ  ・・・・・・ ・・  そ れは  ・・・  人生 の 残り を  そ こ で 過 ごすこと ・ ・・・”
 なん て *書 いて ある け ど   金山君 には 合わない 言葉
だね 。  金山 君 の 場合  は  ” 人生 を せい い っぱ い 生きる”
っ て か ん じ  . ”くいな く  生 き る”っ て か んじ 。 あこ が  れる
 なあ 。  言葉 づ か い が  悪くて も  男 ら し く て や さし  そう
で  ,  すなお そ う で   生き 生 き と し て い  て ・・・  ・・ ・ ・・ ・
 いい な あ  .  カッ コイイ モ ね  。 ヤッ パ  !
 遠 く で 見 て い る と い と しい 人 。  ちかく で 見 る と
おもしろい人 .  たの しい人  お っ か しい 人   ,.
 そ んな 金山君 に思 う のは 私が   彼 を よく 知  らんか ら?
イイ もんねえ 。  佳子 ちゃん っ て  やっはり 生き 生 き し
 て る し  . やさ し  そう だ し  .. ..  私 とは  く らべ もんにならん
感じだ も んね ぇ  。 つ ら い わ ~~~  。
宮脇さんは  や っぱ し  やさ しい 男ら しそうな  ,  お もろ い人
そ う い う 感 じ を う け ん の よ ねぇ  ,  ** 山角君は
 やさし い  . 男 ら しい , た より が  いのある  .  ガ チ リ とした
感 じ の人 。  な のよ ね え  。みんな 大好き  。 金山君
 に 会 いたい わ !!! それで は  おやすみ

いつもなら、あれほど真面目に書いた詩の後などには、「チョ      っ!」とやり、火消しようなことをするが、今回は、欄外にある、ジギーの言葉を引用し、金山君の人柄と重ね合わせて語り出す。

>金山君 には 合わない 言葉だね 。  金山 君 の 場合  は  ” 人生 を せい い っぱ い 生きる”っ て か ん じ  . ”くいな く  生 き る”っ て か んじ 。

燃焼型のタイプだと金山君を評する。逆に、自分はそうでないということの裏返しか。

>遠 く で 見 て い る と い と しい 人 。  ちかく で 見 る とおもしろい人 .  たの しい人  お っ か しい 人   ,.

憧れだけで見て、懐に入って行きにくそうだが、実は愉快で好感のもてる人間だと、手放しでかれこれ数ヶ月にも及び、いまだ、彼を絶賛し続ける、治まることのない、金山愛。

それ以外にも、例の、宮脇、山角君らも丁寧に褒め上げ、金山君のパートナーである、佳子さんでさえ、嫌味のひとつも言わず、称えんばかりに。

逆に自分を卑下し過ぎている所もあり、弱そうなメンタル部分が心配にもなる。特に佳子さんぐらいには、本来なら誰も読まない日記なのだから、嫉妬からくる多少のライバル心ぐらいはぶつけてもバチは当たらないのではないだろうか。ストレスがが溜まる一方になり、大きな揺り戻しが来そうな気も。



 キョーコさんの家に、今も変わらない、あの、勧誘が来る。しかも、何度も何度もしつこく来ているのだという。

 今も変わらないとは言ってみたものの、それは田舎ならそうなんだろうなという僕の勝手な推測であり、実際はどうなのかはよく知らないが。

 そこで、彼女は、”その”世界観について、結構なページを割き、説明を始める。中学三年生の女の子が、よくもそこまで考えているなと、関心さえさせられてしまったほどだ。それは、公開するにあたり、ホッと安堵する内容でもある。

 一昔前までは所・タモリと一日中騒いでいたキョーコさん。先生の影響もあったのだろうか。ついに、あの、北のスーパースターの魅力に嵌っていることを、隠さなくなってきているようだった   



つづく…

「シューキョーとの対話」 実録、廃屋に残された少女の日記.57

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