喫茶
 その場の雰囲気を取り繕うかのように白河が言った。

「そうだ、金山さんのほかに宮脇さんとか山角さんとのお名前も出てくるんですが。」

「宮ちゃんはなあ・・早かったよ、成人して直ぐに事故でなくなったよ。早かった・・」

 金山はグラスを拭く手を止めて、ため息と一緒に感慨深げに答えた。亡き旧友に思いをはせる金山の寂しそうな表情に、皆一瞬言葉をなくした。金山は気を取り直したように続けた。

「・・それとサンカク、か。あいつは中学を卒業してから・・」

 興奮に顔を赤らめた白河が、遮った。

「ちょっとまってください!え、”三角”って!??」

 金山は照れくさそうに言った。

「ああー、ごめん。アダ名ねあだ名。山角の。・・山と角で”サンカク“。サンカクっ、てね。あ、山角はねえ・・・」

 澪が再び金山の言葉を遮った。
sankaku
「・・ちょっ、それ、あの、山角さんのことは、中学の皆さんが”サンカク”と呼んでいたんですか!?」

「やまかど、ってよびにくいっしょ!?みんなよ。みんな。先生もだもん!”サンカク君、サンカク君”って。ちゃんとやまかど君、と呼んでたのは西村君と校長先生ぐらいじゃないか?」

 金山は笑いながら答えた。サブが追求する。

「行間辺中でも?」

「あー。もちろん、でも何で?」

「たとえば年上の・・・キョーコさんのお姉さんぐらいの年の子でも、山角さんのことはサンカクさんとよんだのでしょうか?」

 澪が震える声を抑えて続けた。
校庭
「小さい学校だもん。『集体』っていってさ、体育も一緒にやるのよ。うちも行間辺も。後輩も先輩もみんな同級生みたいなもんだよ。特にあのころはね。行間辺中はおれたちの卒業で廃校になったのよ。統合されたの。だから、あー、キョーちゃんの姉ちゃんも、もちろん”サンカク”でしょ。」

 金山の話によると”サンカク”こと山角良司は中学卒業後間もなく一家で仙台に移り住んだようだ。次の年の正月には仙台で開店した父の理髪店で見習いをしている、という年賀状が金山の家に届いたという。

 だが、それきり本人からの音信はなかった。

 希に、並木駅前で雑貨店を営んでいる山角の親族経由で、山角の消息が伝わることがあった。その噂によれば現在も山角良司は父の店を継いで理容師を続けているという。

 もちろん金山の手元に当時の年賀状はなく、正確な店の名前や住所は知る由も無かった。


sansan
 金山は最後に寂しそうに付け加えた。「・・キョーちゃん、俺より、あのサンカクに気があったんじゃないかな。なんとなくそんな気がするんだ。」



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