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 北海道は釧路、大草原のただ中にぽつんと一軒、取り残されたように佇む廃屋にて、酪農一家が、その抜け殻と化した家のつくりから察するに金銭的に決して裕福ではなかっただろうが、壁に貼られたポスターや服、土産物などの残置物などから、慎ましくも、さぞかし平和に楽しく暮らしただろう、じんわりと心温まる痕跡を、東京から来た、人生において、たいした辛酸をなめることなく、安穏としたくだらない日々を今のいままで送って来た男がそれを前にして、心の隅々までが漂白されるような浄化体験をし、そうなったからこそ澄みきった目に映った家族の残像に思いを馳せ、ある衝動に突き動かされることとなる。

 北の大地の下に、人知れず消えていった、名も無き家族達の物語を、僕の、うす汚れているかもしれない手だが、なんとかその手によって掘り起こして、ひとりでも多くの、人生に絶望をしている人らに、読み聞かせてあげて、普通に生きることの素晴らしさと尊さを、身に沁みて感じ取ってもらえたらなと、同時に、この世に、たった一つでも己の生きた証(あかし)、成果を世間に残すことができやしないかと、あの廃屋との出逢いにより、以降それからというもの、次なるそれこそ笑みの溢れ出てきそうな廃屋物語を探すべく、伝えるべく、北の辺境の地を彷徨いながら、今日も、視線は虚ろで右左に、落ち着き無く   
   
 細い道路を入って行くと、遠目に白いステーションワゴンタイプの廃車を発見する。このクラウンのような車、今では水道ホース置き場になってしまっているようだ。

 GPSによる記録やメモなどは一切していなかったので、詳細な記憶は曖昧だが、EXIFファイルのタイムスタンプによると、この場所はあの記事の家から、数十分ぐらいの移動をしていることになっている。

【読んでおきたい】廃屋、一家突然夜逃げの家



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 まだ完全な廃屋と確認したわけでもないのに、大胆にも横付け。今思えば、カマでも持った高齢者が飛び出て来てもおかしくないシチュエーション。東京でも、これよりくたびれた家はゴマンとある。

 ブラウン管の横長タイプの大画面テレビを所有していたということは、まあまあ実入りは良かったのか。それとも、単なる不法投棄であるのか。

 もし廃屋ならば、真新しい子供用自転車は新婚に近いファミリーがここに住んでいた”あかし”である。



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 これを見て、廃屋であることを確信。

 戸口に、イノシシが飛び込んだような大穴がある。凍てつく冬の北海道においては、あの穴は命取りになりかねない。よって、二次利用のホームレスさえいないことだろう。



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 中身がそのままで捨ててある? 
 
 それとも、自家製の木酢酢だろうか。

 戸はスルスルと開いた     



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 ゴミ収集日のカレンダーを貼っているぐらいなので、表のは不法投棄に違いない。



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 大地みらい信用金庫のカレンダー。2004年。

 厳冬期以外は丸印が連続でしてある。大地を耕す、農家だった可能性も。
 


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 家族団欒、満面の笑みの並ぶ食卓から紡ぎ出されるであろう廃屋物語の期待は無残にも打ち砕かれた。

 間違いなく、独り身の老人の家である。断言できる。

 話し相手のいない年金暮らしの老人が寂しさを紛らわすために、僅かばかりのお金を工面し、買い求めたのは、アル中になってくれよと言わんばかりの、酔えりゃいいの大容量アルコール飲料、ここでもまた、ビッグマン。

 ビッグマンの箱買いだけでも悲しいことなのに、そのダンボール箱をテレビ台にしてある。これに羞恥心を感じていないということは、この家には誰も客がこなかっただろうことが容易に想像できてしまう。

 障子紙が上から下へ引っ掻いたように千切れているのは、発作でも起こして「キ   ッ!!」と衝動的に爪でやった跡だろうか。

 思えば、紋別の鴻之舞でも、数多くの廃屋と遭遇したが、そのほとんどはここと同じような独居老人のものだった。アットホームファミリーの廃屋など、そうそうあるものではないのだ。

 目的と違う家に来てしまったようなので足早に去ることにする。家から出る前に玄関付近にて、振り返り、居間に向かって、目を閉じて手を合わせる    
 
 車は釧路を離れ、白糠へと。更に、
 


明治庶路炭鉱-1
 説明の看板や柵など一切なく、人も寄り付かない、今となっては手つかずの深い森の中に、消え行くとか共生ではなく、そのコンクリートの構造物は今も力強く頑固に立ち続けていて非常に野太いものの、あまりにも周囲が途方もない森なので、コンクリートの図体と木々の繁りが押し合っている絵がそこにはあった。



明治庶路炭鉱-2
 90年代J-POP全盛期の制作費の掛かったMVに出てくるスモークの焚かれた心象風景のような森・・・と書こうと思ったが、大して音楽は聞かないので引き出しもなく、どのMVか浮かばなかったが、それっぽいのは確かであり、静かな山の中に完全な一人きりになる。



明治庶路炭鉱-3
 これだけでも、「おぉっ!」となったが、後々に控えていた巨大骨太構造物に比べれば、まだまだ序の口だった。



明治庶路炭鉱-4
 どれも一様に屋根がないですが、取っ払ったんですかね。コンクリートだから自然に崩落はしないと思いますが。



明治庶路炭鉱-5
 中央は不燃性絶縁性の陶器製。配電盤でしょうか。



明治庶路炭鉱-6
 寂寥感。

 試しにひとりでバカみたいに声をあげると、向こうの山まで届いている様子。



明治庶路炭鉱-7
 スキー場のロッジみたいなのがあったので、中をのぞいてみることに    




つづく…

「森の構造物」さまよい森の明治本岐炭鉱.2

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