相模湖-47
 無造作に何かしらの理由でそのまま放置されていった残留物の中には、現在は相撲部屋の女将さんとして活躍する元アイドル高田みづえのシングルレコードもあった。ちなみに、旦那は元大関の若島津。

 シングルレコード「潮騒のメロディー」は1979年8月25日発売。パッと目につく「子守唄を聞かせて」はB面である。

潮騒のメロディー (MEG-CD)
高田みづえ
株式会社ミュージックグリッド


 大人気ロックバンド「ワンオク」のボーカルTakaのお母さん、森昌子のシングル・レコードはその下に。適齢期を過ぎた三十路手前の女性アイドル好きは、オーナーの趣味だったのだろうか。



写真アップ-3
 震える手で家族の思い出が詰まったアルバムを丁寧に一ページずつめくってゆく   

 峠のお宿、二代目女将とでも言えばいいのか、お父さんが大事に抱きかかえる記念すべき第一子「和香子」ちゃん誕生。

 よちよち歩きができるようになり、魔除けのために捨てたんじゃないかとさえ思われる今では恐ろしげな日本人形が睨みをきかせるあの荒れ地のどこかに昔あっただろうコカ・コーラのベンチの上で、ほぼ同じカットを何枚も撮られている、二歳ぐらいの彼女。この笑顔なのだから、お父さんのシャッターが止まらなくなったのも仕方がない。
 


写真アップ-4
 左の上から二番目の写真は、前回登場した台所の棚の前ではないだろうか。お母さんが和香子ちゃんをおんぶしながら台所に立って食事を作っている時に、お父さんがちょっかいを出しにやって来た。妻の背中から奪うようにして玉のような和香子ちゃんを抱きかかえ、お母さんにカメラを渡して一緒に収まった。

 大声で泣いたかと思えば、一秒後には吹きこぼれそうな笑み。何一つ災いの付け入る隙の無い幸福を絵に描いたような家族が、その象徴を置いたまま、どこへ行ってしまったのか・・・・・・



写真アップ-6
 二本足で歩き出す彼女。少しも曇りのない愛嬌のある破顔で”ガラガラ”を押す彼女のなんと愛しいことか。



写真アップ-7
 橋田壽賀子のドラマのセットのような写真がある。僕が今いるすぐそこの背後で、ほんの数十年前、お爺ちゃんお婆ちゃんも一緒に、あと親戚のお姉ちゃんもバイトに来てもらって、記念写真をパチリ。

 目まぐるしい成長をしてゆく、和香子ちゃんの足跡   



相模湖-37
 横には、十和田湖の写真集。青森県出身者の可能性もありそうだ。

 思えば、中一で初めての一人旅が青森と十和田湖界隈だった。当時は青森駅を出ると、すぐ右に戦後の闇市みたいなリンゴ売り場が軒を連ねていた。粗末な木製の屋台売り場と、足元が土だったのにまず驚く。大きな都市であるはずなのに、未開の地かと。しかも僕一人に対して数十人がかりで青森弁の圧迫セールスを行うものだから、まだ旅行初心者であった僕が断れるはずもなく、旅の初日に重たいリンゴのお土産を買わされてしまうという、大失態を犯すハメに。おかげで、コインロッカーにそのリンゴを帰るまでの一週間も入れて置かなければならなかったという、苦い思い出がつい昨日のことのように思い出される。それもあってか、今では、あの悪名高い、モロッコの纏わりガイドさえ逃げ出すような、強靭なメンタルを身につけることができたのは、一見無駄のように思えた重い重い”リンゴ”のお土産のお陰だったのかもしれない   



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 長男、裕之誕生。

 店舗にはカラフルなスナックブースのようなのも見られて、商売は拡大傾向にある様子。




全画面    by Wammys

 家族が特に大切にしていた場所(階段)がある。歯が生えたと言えばそこで記念写真。ガラガラを押せるようななったわねと言えば、また記念写真をパチリ。一家の歩み、その思念が色濃く染み付いた跡といったら良いのか。是非、この”廃墟ビューア”で、変わり果てた今と希望に満ち溢れていたあの頃の家族の幻影を、そこに見てもらい、高度経済成長を陰ながら支えていた名も無き家族の奮闘を、ほんの少しでも知っていただき心の片隅にでも留めていただけたなら、彼らも少しは浮かばれるのではないかと   



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 立て続けに、次女、菜穂子、誕生。

 それにしても、お父さんの写真は上手ですね。素人だと、なかなか対象から引き算をして切り取りきれずに、欲張ってフレームに全てを収めがちです。彼は輪郭を適度に省いて顔だけに見る者の目を見事に向けさせることに成功している。素人が陥りやすい過度の日の丸構図を避ける配慮も忘れていない。後のアルバムで察しがつくが、大学時代、カメラをやっていたに違いない。

 三人の子供は可愛い盛り。商売は右肩上がり。家族の絶頂期といっても、差し支えないでしょう。おまえはどういう立ち位置の人なんだと言われそうですが、廃墟の屋根の下で人知れず消え去られてゆく名の知れない人達の記憶を記録して後世に残し伝えて、こんな風に慎ましく生きた人もいたんだねと、ささやかな讃える場を提供したいと思っている、一般人といったら良いのか。



写真アップ-10
 和香子ちゃんの七五三。地味なほっかむりをしていたアルバイトの親戚のお姉ちゃんは美人になった。お婆ちゃんといっても、血色は良く、肌は艶々としている。

 コカ・コーラのベンチに座らせられるのは一家の伝統みたいだ。



相模湖-62
 箸休めといったらなんだが、傍らにはこんな水彩画。女性的な優しい色使いなので、お母さんの作品かも。

 次にめくったアルバムのページに、しばし、言葉を詰まらせてしまう・・・



写真アップ-11
 一体、どうしてしまったのか   




つづく…

「御主人の輝き」廃墟、家族崩壊のお宿.3

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