富士見ヶ丘レタ-99
 杉並区の何の変哲もない住宅街の一角。突如として出現する、近所の人もこわごわ気持ち離れて行き来する、鬱蒼とした森   

 その森の中に眠り続けていた、怪しげな廃屋群。

 台所から裏庭を見渡してみる。

 ガスが補充されないまま数十年のプロパンガスのボンベ。独身貴族の家主がカップラーメンを食すのにお湯を沸かしただろう、やかん。

 特にこれといった物はなかったが、振り返って台所内を見てみると・・・



富士見ヶ丘レタ-100
 21世紀の今の今まで、そのままの缶詰が。一番左のは新宿にあるフルーツパーラーで有名な高野のだろう。醤油さしには醤油が入っていたはずだが、さすがに気化してしまっている。カセットコンロ用のボンベも。一番右は、ウォールマートに買収される前の旧西友のマークがついた、西友のプライベートブランドのみかん缶。

 独身ながら、フルーツを多く食し、ビタミンCの摂取には余念のなかった様子の家主。



富士見ヶ丘レタ-101
 足元には、バヤリースオレンジのロング缶。

 今もあるのだろうけど、明らかにデザインが古い。完全にこの森の中は時間が滞留してしまっている。



富士見ヶ丘レタ-102
 取っ手の幅の部分だけ家具調で、他は白塗りというまず普通の人は選ばないような変わったデザインの、シングルドア冷蔵庫があった。カサブタのような錆が全身を覆う。

 鼻が潰れそうな、とてつもない臭気が辺り一面に放たれるのを覚悟して、果敢にも、冷蔵庫のドアを数十年ぶりに、開けてみることに   



富士見ヶ丘レタ-105
 拍子抜けするぐらい、意外なことに、全くの無臭   

 あの筋骨たくましい家主が昨日まで自炊をしていたかのような、入れかけの食物や調味料がそのまま並んでいることに、怖気さえ感じてしまう。ある夜突然に彼は、誰かに追われるように家を飛び出し、そのまま、時間だけが流れているんじゃないだろうかと。季節は、冷やした麦茶がさぞ美味しかったろう、真夏の熱い夜だったに違いない。

 一応、ソースを逆さにしてみたが、垂れてはこなかった。



酔っぱらい
ほろ酔い家主

 大学のゼミの合宿の夜、酒の宴にて、次々と脱落者が出る中、カメラマンを含む、四名の酒豪が、まだまだこれからだと、意地の張り合いを続けている真っ最中。虚勢を張り、意識が朦朧としながらも、「もっと酒を持って来い!!」と、持てる限りの力を振り絞り、男気を見せつける。家主の最後の抵抗   



富士見ヶ丘レタ-103
 大和魂を背中に背負ったような豪傑な家主は、一体、何処・・・

 数十年の時を経て、台所から居間を見渡してみるが、視界に入るわけもなく   



富士見ヶ丘レタ-104
 昔のカルピスは、こんなに太い瓶だったんですね。



富士見ヶ丘レタ-106
 かつて登って来た居間のゴミ山を、台所方向からのショットで。セブンのクレイジーゴンみたいなテレビが、そのか弱き細い足で、いまだ立ち続けている、奇跡。あとニ年ぐらいで倒れ込みそうです。



表紙
 杉並区の森、竹林の中でただひとり、寡黙に、胸に手を当て、放心状態にもなる・・・ この目の前の光景は、現実なのかと・・・・・・



富士見ヶ丘レタ-108
 台所の隣の部屋は物置か。

 漫画雑誌の束がある。

 普段ならめくったりしていつの時代のか調べるところだが、いかんせん、湿度が高くてぐっしょりなので、そんな気も起らない。



富士見ヶ丘レタ-107
 出口へ向かって、一歩づつ・・・



富士見ヶ丘レタ-109
 和式トイレ。独り身なのに、洋式と和式の二つもあったのだろうか。



富士見ヶ丘レタ-110
 振り返る。

 何をどうしたら、こんなことになってしまうのか。ご親族の方は、彼との間に何があったにせよ、整頓しようという気すら、1ミリもないというのか。

 島田紳助が言うには、「年を取ってから残るのは、お金と友達と筋肉だけやで・・・」とのことだが、彼には、本当の友達がいなかったのではないだろうか。



富士見ヶ丘レタ-128
 出口を出たと思ったら、そこは玄関入り口であった。

 そして僕のむず痒い背中には、森に眠る廃屋がまだまだ控えているようだった   




つづく…

「青年家主と悲劇の有名人」都会の秘境、森の中に眠る空き家群落.8

こんな記事も読まれています