写真アップ-20
 謎につつまれた「峠のお宿」の歴史を紐解くために、震えが止まらない人差し指と親指で頁を一つ一つつまみ、パタ、パタと、適度な風圧に頬を撫でられながら、ゆっくりとめくってゆく。

 山間の寂しい土地に、一軒家を建設している写真。

 ある一時期まではお宿の経営が上手くいっていて羽振りもよく、本宅を近所に構えたのだろうか。それが、崩壊への一歩だったと考えるのは、ちょっと気が早すぎるのか   



写真アップ-21
 棟上げ式。気前よく紅白の鏡餅などが用意されている。



写真アップ-22
 自宅らしき家は完成。盛大な新築祝いが行われている模様。



写真アップ-23
 昔の加護ちゃんに似た可愛いお孫さんもかしこまってにっこり。

 ワックスでテカテカの床にて、お婆ちゃんの暑苦しいぐらいの扇子の舞。「殺してやろうか!?」と、おどけたお爺ちゃんがちょっかいを出し、客席はヤンヤの大盛況。



写真アップ-24
 社交ダンスのためにお色直しをしたお婆ちゃんは張り切りすぎて、化粧を盛りすぎ、生首みたいに顔がまっ白。華麗なダンスは新築の家に艶やかな空気を吹き込んだ。

 

相模湖-12
 そんな一家の絶頂期から、現在のお宿の姿を、誰が想像できたというのか   



写真アップ-25
 残されたアルバムは、緩やかにお宿の歴史を訥々と、語りだす。

 オープン当初、背後に控える山の所々に建てられた離れ小屋を鼻高々に自慢するような写真。

 この規模なのだから、相当な負債を抱えた大規模投資だったことは間違いないだろう。



写真アップ-26
 一家の大黒柱、父親の青春時代の赤裸々な記録が披露されている。

 守尾山というのが所在不明だが、秩父にある中津渓谷付近にある山の別名だろうか。

 山のキャンプでフォークダンスを楽しむ、御主人を始めとする学生グループ。学ラン姿なので、高校生時代と思われる。

 守尾山の山頂にて、遠くの峰々を遥かに見て、「山の自然の中で商売ができたら最高だろうな。男子一生の仕事って、こういうスケール感のあるものだろう・・・」と、この頃から早くも構想の芽を育んでいたのかもしれない。

風前の灯
悪運つきた
彼の運命やいかに
又来週のお楽しみ


 当時人気の刑事ドラマの予告編のパロディーを用い、ともすればむさ苦しいアルバムにユーモアを取り入れることを忘れない、光るセンスのアイデアマンは学生の頃からのものだった。
 


写真アップ-27
 昭和37年。

 町内の消防団の制服だろうか。



写真アップ-28
 箱根彫刻の森美術館にあるような妙な造形物のイラストがしつこく続く。

 昭和38年の「東青梅駅」から「立川駅」の切符。50円。2等! 夏目漱石「坊っちゃん」の一節に、ローカル線の場合、一等も二等もたいして設備が変わらず、見栄のために一等が存在する、というくだりがある。当時の青梅線もそうだったのだろうか。

 土手でお母さんらしき人と並ぶ子供は、お父さんの子供の頃のようだ。

 このアルバムには、峠のお宿の御主人の成長の記録の全てが収められている。それが、自由閲覧状態にあるというのは、本当にどういうことになってしまっているのか、薄気味の悪いものを感じずにはいられない。



写真アップ-29
 福島県 猪苗代 に 遊ぶ



写真アップ-30
 後の峠のお宿オーナー御主人は卒業後、太平製紙に就職。

 大企業に就職後、いずれかの時点で、脱サラを図り、峠のお宿のオーナーとなったことがこれでほぼ確実となった。



相模湖-66
 今まさに、僕の手により掘り起こされた、峠のお宿オーナーの歴史の一端   

 こうなることがわかっていたなら・・・タラレバが通用しないのが、選択し終えた後の人生の結果ではあるのだが・・・



写真アップ-31
 就職一年目。

 会社の同僚達と谷川岳へ。

 クセのあるコミカルなイラストは益々多用され、コラージュ技術も洗練されていく。



相模湖-64
 御主人、そして峠のお宿が輝いていた時代に、我を忘れて遡り、夢中でアルバムに見入るが、ハッと気づいて辺りを見回すと、小瓶一つさえ生気のない無情な光景が、現実へと引き戻す   



写真アップ-32
 東京の山奥から、石神井公園まで見学に来ていたらしい。



相模湖-63
 御主人の忘れ得ぬ遠い思い出と、残酷な現実がフラッシュバックする。

 見事に全員知らないアダルト女優。



相模湖-67
 あまりにも御主人の昔が充実していたために、現在の環境とのギャップに他人事ながら驚き、気が滅入り、たまらなくなって居間から抜け出した   



相模湖-68
 和香子ちゃん、浩之君、お婆ちゃん、お爺ちゃん、一体、どこへ・・・



相模湖-69
 かかってくるはずのない電話機を二十秒ほど見つめ続けた後、行動に移すことにした。

 真相追求を続けるべく、子供部屋のある二階へ直撃するのか、気分転換も兼ねて全体像を見通すために、離れ小屋の探索に向かうのか。

 この先では、和香子ちゃんの衝撃的なアルバムを発見することになるが、ひとまず、場を移動することに決めた   




つづく…

「世捨人の逝き様」廃墟、家族崩壊のお宿.4

こんな記事も読まれています