<廃墟サークル『薄昏(うすぐれ)』メンバー>
 黒岩(男)35歳:リーダー。
 サブロウ(男)34歳:開錠のプロ。
 (女)24歳:女子大生。
 金城(男)40歳:廃墟写真マニア。
 ホイさん(男)42歳:在りし日のウタリ山荘をよく知る元登山家。
 ミッチー(女)33歳:同、ホイさんの恋人。
 (女)29歳:廃墟情報の生き字引。
by sabu



徐行するステーションワゴンのタイヤの下で砂利が軋った。
ロープウェイ-1
ヘッドライトが夜霧を切り裂いて、笹薮の奥に巨大な廃構造物をぼんやりと浮き上がらせる。

フロントシートに身を乗り出すようにしてそのオレンジ色の廃構造物を凝視する澪の耳に、車体が路肩の笹を擦るサラサラという音が聞こえた。

やがて車は、道道から前輪を砂利道に乗り入れた中途半端な姿勢でゆっくりと停車した。


「ついたぜ。」

黒岩がサイドブレーキを引くと同時に、助手席のサブロウがシート越しに背後へ声を投げた。その声に、金城は目を閉じて寄りかかっていた側壁からがくりと頭を落とし、寝ぼけざまに慌てて周りを見回した。

「・・も、もう山荘ですか?」

「いいや、地獄の一丁目。」

サブロウが親指で左手正面のロープウェーを指さした。

「あ、ロープウェーですな!」

金城は大柄な身体を窮屈そうにかがめて、シート下のリュックからカメラを取り出そうと焦る。

よいこ-1
「・・『よいこもわるいこも、関係者ものぼるな』・・てね。ここからウタリまで一本道。あと5、6分のはずだよ。」

黒岩がフロントガラスから目を逸らさずに言った。半ばハンドルにのしかかるような姿勢に長距離運転の疲れが滲んでいる。

澪はシートの背にしがみついたまま、ぼんやりとライトが照らす景色に黒目がちの大きな瞳を凝らしている。


「お、やっとおいでになったよ。」

バックミラーに映る2号車のライトを見て、サブロウが呟いた。黒河が合図にハザードランプを手早く点滅させる。

「・・しっかし、あのセンス。」

サブロウがミラー越しに鼻先で笑った。

ミニ-1
2号車はミッチーのパジェロミニ。問題は全体をマットオレンジに塗り替えた車体の色だった。

「・・・別に私は嫌いじゃないけど、な。」

不満気に澪が呟く。

サブロウは“じゃあ運転してみたいと思うか?”と口先まで出かかった言葉を吞み込んだ。


2号車は徐行に入り、やがて停車した。

運転手のホイさんが追い付いた合図に軽くクラクションを叩く。


“目的地に向かう前に、降りてここで自由行動の時間を取ろうか?”

黒岩は腕時計に目を落とし暫し沈思した。

・・いや、そこにあるのは錆び付いた廃ロープウェーと二三の看板だけ。そんなことは、この廃墟サークル『薄昏』のメンバーなら当たり前のように知っている。

看板3
・・もちろん、笹薮の根元に突き立てられた黄色い看板に、『薄昏』の今回の目的地、「ウタリまで あと1200m」と殴り書きされていることも・・。




つづく・・・

「ウタリ惨荘」【第2話 赤の伝説】

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