奥多摩の寮-7
 観音開きのドアを押して中に入って行った。苦役を強いられ疲弊していながらも、食欲と性欲だけは溢れかえっていそうな、独身男性のみが寄り集まる、むさ苦しい建設現場の飯場をイメージしていたが、内装も地方の洋風の小規模美術館のような落ち着きのある洒落た作りになっていた。



奥多摩の寮-6
 入ってすぐが、縦に細い通路みたいな部屋。机がいくつかあるので、この場では事務所だと思ったが、今考えてみれば、食堂だったと見るのが正解に近いのではないだろうか。



奥多摩の寮-4
 こんな典型的な麦わら帽子をかぶっている人、最近見かけません。



奥多摩の寮-9
 事務所か食堂らしき部屋を過ぎると、左側に、タオルやフキンが干されたままの、ある時点からいきなり活動を止めたらしき台所が目の前に   



奥多摩の寮-11
西多摩 料理飲食 商業許可 組合員
 
 
にんべんの「フレッシュパック」の缶入れに貼られた、年月を表す紙ラベルには「55.10」。昭和55年の10月ということだろう。つまり、1980年。約40年も前の物ということになる。ちなみに、同年同月の10月には、山口百恵の引退コンサートが日本武道館で行われている。
 


奥多摩の寮-12
 せっかくなので、冷蔵庫、開けてみます。



奥多摩の寮-13
 調理師の人は、ある日突然クビを宣告されて、身の回りの整頓もせずに、即日辞めていったのか。カットチーズやチーかま、ブイヨンの顆粒が残されたまま。

 冷凍庫の蓋も開いてみる。



奥多摩の寮-14
 カップアイスや、コーンタイプのソフトアイスが。下のビニール袋の中のは、チューチューするタイプのアイスなので、これらはお子さん用の物である可能性が濃厚。



奥多摩の寮-15
 調味料棚のようだが、腐敗しているのか、酸化しているのか、容器以外は崩れ散って粉になりかけている。



奥多摩の寮-10
 壁のカレンダーは、1987年の10月。最終的にここが放棄されたのは、昭和62年か。安田火災がゴッホの「ひまわり」を53億円で落札したり、マイケル・ジャクソンが後楽園球場でコンサートをしたりと、バブル経済華やかしき頃だが、奥多摩の山の中では、ひっそりと、無名の寮が人知れずその役目を終えようとしていた。好景気による人手不足から、こんな僻地の寮に住んでまで働こうとする人手がいなくなったためなのか。



奥多摩の寮-16
 突如の廃業宣告、書きっぱなしの黒板のチョーク文字が如実に、それを物語っている。



奥多摩の寮-17
 なめこやタケノコなどそこら辺でいくらでも取れそうなのに、大量の缶詰をストックしていた。



奥多摩の寮-5
 宇宙猿人ゴリ、ストライクボウル!、キイハンター、などの番組がゴールデンタイムに並ぶ。個人的にはリアルタイムで知らない番組ばかり。当時でも、古新聞として置かれていのかも。



奥多摩の寮-18
 糠味噌が入っていそうな樽やバケツ、薬品箱、そして・・・



奥多摩の寮-20
 東芝の乾電池、キングパワーでしょう。子供の頃、東芝の特約店でパートをしている近所のおばさんが、家のテレビが古くなったかな?と少しでも感じると、絶妙のタイミングで「新機種が出たので買いません?」と、売り込みに来て、親がいつもまんまと買わされていたぐらいなので、乾電池も近所付き合いから東芝製ばかり。キングパワーはその頃の物なので、チラっと見ただけでもわかってしまった。全身液漏れの酷い状態はまるで今の東芝を象徴しているかのようだ。今やキングパワーといえば、イングランドのプレミアリーグ「レスター」のスポンサーにもなっている、タイで免税店を営む企業「KING POWER」ことだろう。僕からしたら乾電池のことなのだが。岡崎慎司選手も同クラブに所属している。



奥多摩の寮-22
 西城秀樹と山口百恵の賞取りレース夏の陣とか、松坂慶子に男の影など、今となっては全くもってどうでもいいニュース   



奥多摩の寮-19
 床にはTBSのクイズ番組のボードゲーム。伊東四朗が司会だったはず。本体は居間で見つけたが、そこに描かれたリアル調の似顔絵イラストは、伊東四朗とは似ても似つかぬ絵であった。いや、あえて似させなかったようにな意図が感じられ、肖像権による使用料を回避しているようにも思われた。



奥多摩の寮-21
 ともすれば、塞ぎ込みがちになりやすい、廃墟の薄暗がりで微笑む、美少女のパステル画に荒んだ心も癒やされる   



奥多摩の寮-89
 破れて向こうが見える障子の部屋は、居間のようだった。窓際の床には、大量のエロ本が散乱していた。どういったわけか、生々しい絡みの無い、主に海外素材の、美的センスに富んだ爽やか系エロ本ばかり。

 エロ本とは水と油の暖かい家族写真のアルバムも、これ見よがしに、テーブルの上に置いてあり、その写真の子供らが楽しんだだろう、懐かしい昭和の盤ゲームも豊富にあった。

 この建物は崖沿いに建っているので、本来の一階に行くための階段を下っていると、同行者に何かが起こったらしく、体調が悪いからと突如寮から出ていき、外に停めてあった車に閉じこもってしまう。

 ここではその理由(体調が悪くなった)を明かさなかったが、次の訪問先であるオカルト系食堂では何とか力を振り絞って僕に語ってくれた。あそこ(ここ)で口に出そうものなら、本格的に取り憑かれてしまうような気がして・・・、と。

【読んでおきたい】湖のきわ、廃墟、オカルト食堂

 大量のエロ本、家族の肖像、客間らしき畳部屋に残されていた世捨て人の痕跡、古い書籍や地図、などを充分味わい尽くした後、その階段を下って行くことになった   




つづく…

「寮生の欲望の山」森の奥の、廃墟エロ本寮.3

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