ライト-1
伝説のウタリ山荘にたどり着いた『薄昏』のメンバー7人。闇を切り裂くヘッドライトがそこに照らし出したものは・・・。

隘路の終点にあたる砂利敷きの小さな広場に停車した1号車に、少し遅れて2号車が追い付いた。

2号車がサイドブレーキを引くのと、ヘッドライトが照らすものを確かめるために黒岩達が無言で車外に降り立ったのはほぼ同時だった。


黄色い光芒に照らされた景色の中に、高さ3~4m程の安全鋼板で覆われた鋼壁が浮かび上がった。鋼壁の上の薄暗がりには、山荘の二階部分とウタリレッドの屋根板がぼんやりと浮かんでいた。まるで鋼製の要塞のようだった。


「・・おいおい、どうなってるんだ・・。前回俺たちが来た時には・・・なあ?」

サブロウは戸惑いを隠そうともせず、同じく呆然とした表情で2号車から降り立ったホイさんを振り返った。ホイさんは目を丸くしたまま言葉もなくただ何度も頷いた。

立ち姿-1
そんなサブロウ達を傍目に、澪は初めて見るウタリ山荘の予想以上の壮大さに圧倒され、その場に立ち尽くしていた。

・・「山荘」とは控えめに過ぎる表現ではないか。澪の目には、月明かりに照らされた木造二階屋を覆う赤黒い大屋根が、まるで前面の鋼壁にのしかかってくるかのように映った。


黒岩は左右を眺め渡して、鋼壁の範囲を目測した。どうやら鋼壁は崖に張り出した山荘の両端まで続いているようだ。

“とうとう解体が決まったのか・・?”

ゆっくりと2号車に歩み寄ると窓越しにシートのQに声を掛けた。

「Q・・ウタリの最近の情報は入ってなかったのか?」


Qは無表情に黒岩を見つめ返すと、無言のままチューイングガムを膨らませた。ピンク色の薄膜が大きく膨らんで、割れる。

その割れかすをもぐもぐと呑み込みながら、ドアを開けて車から降り立った。
「こっちに来てみそ。」

左-1
Qはひとことそう言うと、訝し気に見つめる黒岩たちを無視して、鋼壁に沿って山荘の左手の奥へと進んでいった。

黒岩はサブロウと顔を見合わせてから黙ってこの小柄な女の後に従った。他のメンバーもぞろぞろと後から続く。

「・・なあ何やってんだよ・・?」

山荘を覆う安全鋼板沿いにQの後に従いながら、サブがイライラした口調で訊いた。

Qは懐中電灯の光芒を揺らしながら無言で歩き続ける。


やがて一同は山荘の南側の角についた。鋼壁はそこから右に折れ曲がり、崖から張り出した山荘の壁沿いにかなり先まで山荘の西側を覆っていた。

崖への張り出し部で鋼壁が途切れることを期待していた黒岩はそれを見て失望した。
これでは山荘の側面から侵入することもできそうにない。

Qはそこで足を止め、くるりと一同を振り返ると、崖下の方を指さした。

「あれ。」

崖-1
山荘の西側の崖は急な下り勾配となって闇の中へ続いていた。だがQが照らした懐中電灯の光の中でその坂道をよく見ると、うっすらと踏み段のような跡が見える。

「あれがね。山荘の崖下に作った薪置き場へ続いてんにゃ。で、その薪置き場の真上がレッドルーム・・」

ここでポケットから薄紙を取り出して口の中のガムを包んだ。

「・・高さはだいたい5m?レッドルームからロープ伝いに降りればこの小道沿いに帰ってこられるのらょ・・」

そこで性急に口を開きかけたサブロウを制して、黒岩が訊いた。

「いや、出口はそれでわかったけど、問題は入り口なんだ。・・それとも入る方法にも心当たりがあるのかい?」

「・・行きは車の屋根からはしごで壁を乗り越えればいいしょ?・・ロープと脚立は準備済み。ね、これカンペキ!?」


鋼壁は車の屋根から脚立とロープを伝って乗り越え、帰りはレッドルームからロープで崖下に降りて薪運び用の小道を伝って上がってくるということか。

黒岩はその時初めてQがワゴンのトランクに持ち込んだ謎の荷物の用途を知った。今更ながらこの小柄な「廃墟少女」の準備周到さに感嘆を禁じえなかった。

「この『ウタリ散策ニコニコルート』は、廃墟ライター『Yじろぅさん』ご提供情報なのれーす。」

澪とミッチーが笑顔を見合わせて思わず手を叩いた。ホイさんも続く。サブロウも参ったというように両手を上げて苦笑いを浮かべた。

戻り-1
「ようし、そうと決まれば時間がもったいない。さっさと車に戻ろう。」

黒岩はそう言いながら、こぼれる笑みの照れ隠しに腕時計の夜行表示を覗き込むふりをした。




つづく

「ウタリ惨荘」【第5話 ウタリルート】

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