奥多摩の寮-83
 山の中で軟禁でもされているかのような禁欲空間で生活を送る寮生達が、つかの間の性の開放をそこに求めたのか、持て余した若い体の火照りを冷まそうと、毎夜、賑やかに、新作入荷の時は、沈黙と静穏さをもって、皆食い入るように、一心不乱に、この居間にて、性情報の氾濫する雑誌を、争うように貪り読み漁ったというのだろうか。

 ここには、それらとは決して相容れない、暖かな家族の痕跡も残されており、この場所の変遷についていくつかの疑問を残すことになった   



奥多摩の寮-82
 居間に上がり込む前に、右に目をやると、足元が寸断され、かつてあっただろう建物が落下して四散していた。



奥多摩の寮-84
 下駄箱の底が抜け、半開きに。

 建物は傾斜地に寄っかかるように建っているので、床などは宙に浮いた状態。居間の床下も支えだけで中は空洞だ。

 木造なら木の劣化具合で、ボロボロと、下に崩れ落ちていくだけ。

 下の階から上へ侵蝕するように、年月を経て崩れて行き、やがて、地滑りみたいに建物全体が崖底に雪崩落ちてしまうのだろう。たぶん、そんなに長くもない先に。



奥多摩の寮-24
 年頃の若者が毎晩のように集っていたに違いない居間。

 大人数用テーブルの上やその周囲には、かなりの数の主にエロ本が散乱していた。

 押入れや引き出しにも、エロ本が束となってあった。



奥多摩の寮-23
 輸入した洋物かと思ったら、日本の雑誌だった。

 「HORNY」=好色な、欲情(性的に興奮)した

ラブゲームに狂奔する世界の青春 ■なんの不安もない平和の世界に求めるものは暴力か?SEXか?

WORLD LOVE GAME

 
 奥多摩の山の中で、性欲盛んな若者が、世界のラブゲームの動向に一挙手一投足、注目していたわけでもないだろうが、ここにあるエロ本には特色があり、生々しい男女の絡みの低俗なエロ写真満載のではなく、モデルは外人が多く、美的センスを追求している、意識の高そうなアダルト雑誌が多かった。まるで、美大生がデッサンをするのに、裸婦モデルを必要としていたかのように。



奥多摩の寮-26
MONROE

 これは輸入版だろうと思いきや、円の表記がある。1980年出版。

 今となっては、中学生でも欲情しないような表紙だが、これでも当時は、青少年達を艶かしくムラムラとさせていたのだろうか。



奥多摩の寮-27
 控え目な内容と見るのか、それとも、情報の氾濫した現代から見ればそう見えるだけで、これでも当時としては、白人モデルの全裸が拝めると、洋物好きの愛好者にはかけがえの無いものだったのか。



奥多摩の寮-25
 今と全く変わらない「女性自身」。ただ内容は、石原裕次郎が入院中であったり、水谷豊と最初の嫁「ミッキー・マッケンジー」との破局記事が掲載。



奥多摩の寮-28
 かつては寮生達が読み、その後、廃墟になってから住み込んだ浮浪者が受け継いて読んでいたという、そういったところなのだろう。



奥多摩の寮-29
JACKER

 これも外人ヌードモデルの雑誌。

 徹底した白人好きは度を越えている。



奥多摩の寮-31
 人里離れた秘境のような山奥に閉じ込められ、特に性に抑圧された環境において、境遇にも不満が無かったわけではないだろう、多くのコンプレックスを抱えた彼らにとって、白い肌にブロンドへアーというのは、別世界への夢と希望を持たせてくれる、特別な神聖視された神々しい存在であったのかもしれない。とにかく、白人好きのようだ。



奥多摩の寮-32
GRANPEAK

トウキョウ金髪
みだら草紙

 東京の新宿や、ニューヨークにでも行けば、こんなモデルのように背の高い白人ブロンド女性が歩いていて、あわよくば、肉体関係を持てるかもと、山奥の寮で、役に立たない雑誌を読み耽り、ここでとどまらずに、絶対、俺はのし上がってやるんだと、大きな野望を胸の中で燃えたぎらせていた   



奥多摩の寮-34
特ダネ最前線
 
 秘境に住んでいながらも、最新の性情報は仕入れておきたいと、このような情報雑誌をも熟読。奥多摩駅駅前の書店まで、目を爛々と輝かせながら、毎週末のように買いに走って行っていたのだろうか。

 まるで新刊雑誌であるかのように、状態が良い。



奥多摩の寮-33
聖処女 

 もちろん、グラビアページは日本人だが、写真がメインの雑誌は、白人ヌードと決めていた様子。



奥多摩の寮-35
 週刊大衆の別冊。

 まだ気軽に海外旅行へ行けない時代、白人女性への想いは、その神秘性は、アイドル歌手や女優以上の羨望の念をもってみていたのだろう。今の感覚とは、大分違うようだ。



奥多摩の寮-36
 これほどのエロ本の山がありながら、驚いたことに、幼女向けのボードゲームもあった。

クリィミーマミ魔法ゲーム

 寮生が、とも考えたが、やはり、ご家族の娘さん達のでしょう。

 寮生が下を見ながらむっつりとエロ本を寡黙に熟読する横で、子供らがゲームを楽しんでいたという、教育上好ましくない状況があったのだろうか。



奥多摩の寮-37
 台所に蓋が落ちていたが、中味はここにあった。

 伊東四朗のはずなのに、山口良一にしか見えない。下町の零細玩具工場苦肉の策の、肖像権回避術なのか。



奥多摩の寮-38
HUSTLER

 スズキの大ヒット軽自動車「ハスラー」が発売になった時に散々言われた、ハスラーと言えば外国ではエロ雑誌のことだと。この雑誌が、まさに、ハスラー。

 スズキでハスラーといえば、かつてオフロードバイクで存在していたので、名前はその使い回しなのである。軽自動車もバイクも国内専用モデルなので、海外エロ雑誌と名前が被ろうが、知ったこっちゃないのでしょう。

 ページをパラパラと捲って一通り見終えた後、右手を何気なく右方向にずらしていくと、コツンと、何かに触れた。

 一冊の、フォトアルバムだった。

 中をのぞくと、エロ本寮生の姿など微塵もなく、微笑ましい一家、一族、人々の心和む交流がそこにはあった。

 一体、酷たらしいエロ本の山を残して、写真の中で眩しい笑顔を振りまくその人達は、どこに消えてしまったのか   
 



つづく…

「茫然自失の、写真の中の少女」森の奥の、廃墟エロ本寮.4

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