キョーコの金山への想いは実らなかった・・その事実を胸に秘したままキョーコと対峙する哀しきメッセンジャー、均・・。


「・・・すまん・・失くしちまった。手紙。」

校舎裏-1
放課後の校舎裏。早くも日は暮れかけ、呟いた均の口からは言葉と共に白い息が漏れた。

「は!?失くしたってどういうことよ!?・・どうしたのよ、あの手紙!?」

キョーコは気色ばんで均に詰め寄った。その時、均の唇に滲んだ血に気がついた。

「・・均!その顔どうしたのよ!?アンタ、ケガしてるじゃん!」

キョーコは慌ててポケットからハンカチを取り出すと、近くの水道に走って水に浸してから駆け戻ってきた。

「わかった、不良に絡まれたんでしょ!?アンタちびだし喧嘩弱いんだから、絡まれたらさっさと逃げないとだめだよ!」

キョーコは均を叱りながら、濡れたハンケチで均の顔の汚れをぬぐい続ける。

「・・手紙も取られちゃったの?・・馬鹿だねぇ・・・」

ぬぐいながらキョーコは、ふと、泥と血で汚れたそのハンカチが、修学旅行のなんだかプラザで買った思い出の品だったことに気づいた。

小さなため息。・・うぅん、また買えばいいわ・・それより均の唇、ひどい傷・・

みどり-1
「・・忘れちまえよ・・」

うつむいた姿勢のまま、均がつぶやいた。

「大体アンタは・・・ん?・・今、なんて・・?」

均の顔を拭うキョーコの手が止まる。均は汚れた顔を上げてキョーコの瞳を正面からとらえた。

「・・忘れちまえよ!・・忘れちまえよ金山のことなんか!」

言葉の意味を理解したキョーコの眉間にしわが寄った。

「・・!?・・なんで均にそんなこと言われなきゃいけないのよ!?」

興奮して思わず握りしめたハンケチから水滴がしたたる。

「バカヤロウ!・・あいつは、あいつはなあ・・・」

言葉に詰まった均の顔が苦し気に歪む。

「どういうことよ!?なんなの?・・金山君と話したの・・?」

キョーコは戸惑いながら均の顔を覗き込んだ。

「・・だめなのかよ。・・あいつじゃなきゃ・・?」

均の消え入りそうな呟き声が少しずつ大きくなってゆく。

「だめなのかよ。あいつじゃなきゃ。・・だめなのかよ。
階段-1
・・・あいつじゃなくて、あいつじゃなくて、・・・俺じゃ・・・だめなのかよ・・!?」

思いがけない一言に言葉を失うキョーコ。

幼馴染の均。

・・ひょうきんで、頼りなくて、面白くって、そのくせ不愛想で。

おしゃべりしてると楽しいのに、しばらく一緒にいると頭にきて必ず喧嘩になる。

掃除をさぼって押し付けるくせに、風邪で休むとかならず帰りに見舞いに寄りにくる。

本気で心配していたの・・?それとも出されるケーキや宿題のノートが目当てだったの・・?

幼馴染の均。そうよ、ただの幼馴染。

・・・・「ただの」・・・


「ば、バッカじゃない!?なんで、アタシが・・・均・・・なんか・と・・」

キョーコは急いで顔をそむけた。

つた-1
気まずい数瞬の沈黙。


突然大声で均が叫んだ。

「わかったよ、チクショウ!そうやって、いつまでも"金山""金山"ってメソメソしてろよ!!」

均は荒々しく手を振り払う仕草をすると、校門に向かって駆け出した。

「待って、均!ちょっと待ちなさいってば!」

走り去る均の背中に声はかけたものの、なぜかキョーコの足はその後を追おうとしなかった。


「・・身勝手で、独りよがりで、意地っ張りで、短気で・・・」

キョーコは一人立ち尽くしたまま、その手に握りしめたハンケチに目を落とした。

(・・あれ、私にそっくりじゃない・・)


頬に冷たい欠片を感じ、キョーコはぼんやりと薄昏れ空を見上げた。空にはいつの間にか小さな雪片が舞っていた。その雪片がなんだか滲んで見える。

かど-1
(やだ私、何で泣いてるんだろ・・) 

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