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 前日に寄ったのが、オホーツク海に面する浜頓別にあった、営業中なのか廃墟だかの見当がつかなかった、時の歪から転げ出たかのような、三菱スタリオンのポスターが壁に貼られたままという、今となっては、夢か幻にでも見た、いや、写真として残っていたので、現実であったことを否が応でも認めざるをえない、あの謎めいた、三菱の元?ディーラー   

 その翌日。

 地平線まで続く滑走路のような原野の中の一本道を飛ばしていると、背景の中に一点の障害物が突進して来るかのように迫って来たので、咄嗟ににスピードを緩める。

 民家か、お目当ての廃屋か   



2
 傾いてはいないが、安っぽいトタン屋根の外皮は半分が剥がれ落ちている。玄関のドアは半身ほど開かれたまま。

 セキュリティ意識の低いお年寄りが住んでいて、意図して開けたままというわけでもないだろう。

 空と大地の間に、この家一軒しかない環境において、車も無ければ、自転車も存在しない様子。

 そうであろうと、深く頷き、臆することなく、元庭だっただろう、今では多少の草が生い茂りながらも、ある程度の広さが確保されている砂地の空間に、愛車を道路に並行させて、リヤを来た方に、頭を次行くべき方角に向け駐車させた。
 
『おじゃまします』と、多少の罪悪感を振り払うために、柄にもない呟きを自分の裡で唱えて、正当性を得たような気に自らを持っていく。自分でもよくやるなというぐらいに大胆かつ豪快に敷居を跨いだ。この一線を越える時の緊張感は、いまだに薄らぐことはあっても、決して完全に無くなることはない。



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 窓にカーテンが無く、一階の部屋の中央に架けられたパイプに、なぜかカーテンが引かれていた。
 
 燦々と降り注ぐ太陽光も欲しいが、同時に、薄暗い部分も確保しておきたいとの思惑があったようだが、どういう事情でそうであったのか、少し考えても、見当もつかない。

 北国ならではの事情が、隠されているのか。



1
 壁のカレンダーは、1967年のもの。

 写真ではなく、写実的な絵だと思われる和服の女性は、女優の「いしだあゆみ」さんではないだろうか。

 建物の朽ち具合からして、1967年にここが放棄されたのではなさそうだ。どう見ても、そこまではいってないだろう。

 世帯主であるご主人は、いしだあゆみさんのファンだったに違いない。

 ポスター代わりに、かれこれ約数十年、凍てつく厳冬期を何度も乗り越え、そのたびにストーブの発熱とともに室内は露に湿らされ、それが染みて侵蝕されながらも、裂けることだけはなかった、この、ご主人お気に入りのカレンダー。



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 盗られ尽くしたのか、それとも、綺麗さっぱり身軽にされて、旅立たれて行かれたのか   



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 廃屋の壁に掛けられた、スーツの確立の、まぁ、高いこと。



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 しかも、同じ色とデザインのジャケット。

 朝選ぶ時間さえ勿体無いからと、スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグのような成功者は毎日同じデザインの服を着るというが、ここのご主人も、そういった主義の人でやがて成功を手中にし、この家を後にしたのだろうか。


 一階はどうほじくってもこれ以上何も無いだろうと思い、いよいよ、二階へ行ってみることに   



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 もし突き抜けたら、足が果てしなく下へ落ちていくと思われるぐらいに劣化して脆そうな板、体重のかけ具合により組板の隙間が目に見えて閉じたり開いたりして撓む階段をこわごわ登り、行き着いた先の二階の上がりには、前にハリウッド映画にチラッと出演していたかなと思ったら、今では、BSの山番組ぐらいでしか見かけなくなった、工藤夕貴のデビュー曲「野生時代」のシングルレコードが床に転がっていた。

 彼女のレコードの発売の年は昭和60年、1985年というから、ファミコンの「スーパーマリオブラザーズ」が発売された年、夕やけニャンニャンが放送開始、つくば万博開催の年でもある。

 ここには、1980年の息吹が閉じ込められているのかなと、顔をあげてみると、壁、天井、上から横から下までの部屋一面、なんとも異様な光景が広がっていた     
 



つづく…

「少年の集めた夢の跡」廃屋、80'sアイドルファンの館.3

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