伝説のウタリ山荘は安全鋼板で覆われていた。侵入ルートの鉤を握るのは・・Q!?


車に戻ると、Qはステーションワゴンのトランクから大きなバッグを地面に引きずり出した。

タオル2-1
どさりと落ちたバッグのジッパーを引いて口を開けると、中から汚れたタオルとロープを取り出す。続いて展開式の脚立。

「黒岩たいちょ。車の屋根はもちろん土禁ちゃんだぉ・・ね?」

Qは黒岩に不器用なウィンクを投げると、黒岩の手に大判のタオルを押し付けた。


<廃墟サークル『薄昏(うすぐれ)』メンバー>
 黒岩(男)35歳:リーダー。
 サブロウ(男)34歳:開錠のプロ。
 (女)24歳:女子大生。
 金城(男)40歳:廃墟写真マニア。
 ホイさん(男)42歳:在りし日のウタリ山荘をよく知る元登山家。
 ミッチー(女)33歳:同、ホイさんの恋人。
 (女)29歳:廃墟情報の生き字引。
by sabu


黒岩はしばらく呆然とタオルを見つめていたが、やがてあきらめたように深いため息をつくと、大きくタオルを振ってステーションワゴンのボンネットに覆いかけた。


「・・黒岩隊長、メンゴメンゴ。」

言うが早いかQが意外な身軽さでひらりとボンネットに飛び乗り、脇に挟んだ二枚目のタオルをさっとルーフに広げた。

「おいおい、本気かよ・・。」

ルーフ上から手を差し伸べるQに開いた脚立を手渡しながら、サブロウは弱々しく頭を振りながら呻いた。

ちょっと-1
「ちょっと。」

車の窓枠にロープを結わえようと、白い華奢な手でロープと取り組んでいた澪の肩に、ミッチーが背後から手をかけた。

「・・そんな結わえ方じゃ、直ぐほどけちまうよ。」

乱暴な言葉とは裏腹にその目は温かった。ミッチーは澪の手からロープを取り上げて優しく脇へ押しやると、慣れた手さばきでドアの窓枠に結び始めた。


「あんたたち。何ぼーっと突っ立ってるのさ。動いてんのQちゃんと澪だけじゃん。」

睨まれたホイさんは、口をパクパクさせながら慌てて荷物を取りに車に向かった。サブロウは口の中で何か悪態をつきながらその後を追った。


ルーフの上から鋼壁へ慎重に脚立を立てかけるQを横目に、黒岩がてきぱきと指示を飛ばす。

壁-1
「これからロープを頼りに一人ずつあの鉄壁を乗り越える。・・フルに両手を使うぞ。荷物は邪魔になる。カメラやら携帯は車の中に残せ。懐中電灯は4つとも・・」

ここでライトに照らし出された鋼壁の天辺をぽかぁんと見上げる金城をあごで指す。

「・・金城さんのリュックに入れさせてもらおう。」

黒岩は金城に歩み寄ると、その背に掛けたアディダスのリュックを手のひらで軽く叩いた。

「背負えるタイプのリュックは金城さんのだけなんだ。携帯とカメラは金城さんのだけリュックに入れたままにしておいてください。何かあったらそれを使いましょう。・・みんなできるだけ身軽なほうがいい・・。」

言葉なくひたすらうなずく金城。

ホイさんがパジェロのドアを開けて、ダッシュボードにポケットから引き出した携帯やら財布やらを投げ込んだ。


車の屋根ではQがミッチーから太編みのロープの束を受け取ったところだった。ミッチーが一端を引っ張ってしっかりと車の窓枠に固定されたのを見定める間に、Qがもう一端を鋼壁の向こう側へと放り込んだ。

それらの作業を漠然と見上げていた金城の顔に、Qが投げた別のロープの束が飛んでくる。あわてて飛び退り、不器用に両手で受け止める金城。

「リュックにぃれといて、ちょ。」


なるほど、こっちがレッドルームからの脱出用ロープということか・・Qの計画性の高さに、改めて黒岩は舌を巻いた。

城-1
5分後には全ての準備は完了し黒岩の指示を待つばかりとなった・・。




つづく

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