田浦-6
 都内から唯一、日帰りで行けるという、廃村に早朝到着してみたら、既に廃村集落の一部の取り壊しが始まっていた。

 大規模一斉取り壊し、ほんの一歩手前といったところであった。

 工事車両が数台あるが、まだ業者が来ていないのか、それとも、作業は一定期間中断中であるのか、よくわからなかったが、とりあえず、彼らが来るならその前に、出来るだけ廃屋の探索をしておこうと、まず、廃村集落に入ってすぐ手前右にあった、廃屋に足を踏み入れてみる。

 建物は、前面の壁だけがなぜか剥ぎ取られていて、まるでテレビドラマのセットのように、中が露出して、外から家の内部が丸見えになっていた。

 おそらく、手前の壁を取り払うと、家の中の家財道具が運び出しやすくなるので、そうしてから人海戦術で全部の荷物を運び出し、家の中を完全に空にした状態で、重機で建物をペシャンと、壊す計画なのだろう。

 最後に地面に残されるのは、建物の屋根や壁だけの至ってシンプルな残骸なので、片付けの後処理も楽であると。

 これがもし、建物の中に家具やら冷蔵庫が入ったまま取り壊し作業にかかったとしたら、鉄や板が入り乱れた大量のカオスな廃棄物の山となり、その撤去作業は無駄に時間がかかり困難極まりないものとなるに違いない。

 解体業者の見事な知恵に感心しつつ、またそれを推察し導き出した自分を褒めてあげたい衝動に駆られるがそれを抑え、少年の部屋の探索を続けていると、見覚えのあるといより、記憶にあるゲーム機の箱を発見。

 一部の廃墟マニアが、頻繁にここを訪れていた時期、この家に残されたファミコンは、まるで通過儀礼のような、第一の見物スポットアイテムのようになっていた。

 当時誰もが見て手を叩き一様に感嘆の声をあげていたのだ。

『うわぁ、懐かしぃ・・・』と。

 その頃は赤と白のファミコン本体とカセットがほぼ原型を保ったまま、机の上に置かれていたが、あれから十数年、すっかり中身は持ち去られ、汚れにまみれた箱だけが残されていた。



田浦-5
 1990年代にNECのPC9800シリーズを所有していた中高生ということは、比較的裕福な家の子だったようです。

 この頃、一般家庭なら、精々頑張ってMSXがいいところでしょう。



田浦-7
 コレクションでもなさそうだし、なぜか、お菓子の空き箱で一杯の引き出し。

 ラムネの容器の中には、グリコのアイスのスプーンが。

 夜にむしゃむしゃと、甘いものを我慢できない。スイーツ好きの少年だった。



田浦-8
 丸ボタンファミコンの箱。

 甘党少年は、剣道部所属だったようだ。



田浦-10
1979
あけましておめでとうございマス
~~~~~~~~~~~~~~~
今年もよろしくネ
クラブでもガンバンベ

 赤の他人が今読んでも心温まるような年賀状。剣道部の仲間からでしょう。

 蛍光ペンなので色褪せて判別できないところがあるが、ハンサムがどうとか書かれている。

 自分と同じくらいだと思われる年代の子が、同じ干支の年賀はがきを持っているのを廃墟で見かけた時、あるいは、廃墟ブログで見て、『あぁ、これ同い年かも、こんな絵を書いて、俺も送ったり、貰ったりしたっけかな・・・』と、激しい郷愁に襲われることが、皆さんも、あったのではないでしょうか。



田浦-11
 これを見て、送った人の方が、あいつ、どこへ行ったのやら・・・と、在りし日の思い出を胸に、むせび泣いているかもしれない。

 これが本当の最後の最後、双方から、お声を寄せていただけたなら、幸いかと思います   



田浦-12
平成7年5月2日(1995年)号

 最後のアイドルとか言われていた十代の頃の全盛期ではなく、二十代を過ぎて一気に老けたものの、熟女的な可愛さで再ブレイクを狙っていた頃の、高橋由美子が表紙か。表紙を飾っていながら、なぜか巻頭グラビアも無ければ、名前の表記が一切ないのは、トラブルでもあったのだろうか。



田浦-13
1980年7月2日号

 週プレと同時期のように思ってしまうが、高橋由美子の表紙のより、十五年も前のものだ。

 ゲーム&ウオッチ、ルービックキューブ、チョロQが発売、ポール・マッカートニーが成田空港で大麻所持容疑により逮捕、山口百恵が三浦友和と婚約を発表、松田聖子がレコードデビュー、といった時代。

 まさに廃屋タイムトンネルを今、くぐり抜けている最中のような錯覚に陥り、日常では味わえない興奮をこの瞬間体験している。足元がブルブルと、震えが持続して沼を歩くように、態勢が覚束なくなる。

 こんな非日常が、こうも手軽に味わえる場所、そこらにありますかと、感慨深く味わい噛み締めながら、時の地層を一つ一つ捲ってゆく   


 1988年の10月に、平凡パンチは廃刊となっている。



田浦-14
 1981年、横須賀の映画館に、剣道部の仲間と連れ立って、薬師丸ひろ子主演「セーラー服と機関銃」を観に行ったのでしょう。


 まもなく、こういった彼の思い出の全てが、塵となってしまうことになる   



田浦-15
 ファミコンやPC98世代にしては古いラジオ。お父さんが長年愛用した使い古したラジオを、貰い受けたのかも。

 実際使用していたのは、小学校低学年生の時だけではないだろうか。親から譲り受けた思い出の品だけに、最後の最後まで、捨てられなかったに違いない。



田浦-17
 高校生の頃は、小説家を目指していたのかもしれない。

 今となっては貴重な、彼の小説原稿の一部を発掘する。


                ムネ

 たばこにゆっくりと火をつけた。
 白く長い煙をはき出し、けだるげに左右に
頭を巡らせた。

 目に入る光景は、赤茶けた大地だけだった。
 見渡すかぎり生のみずみずしさをあらわすも
のなどない。
 奇妙にかわいた荒野**がただあるだけだ。
 岩塊とクレーター それのみだ。
「あれから何年たったんだろう。」
 男はぼそっとつぶやいた。

「一体何が起きたんだ。
 あの緑輝く地球は、ニ百億の人類はどこ
へいってしまったんだ!」
 のどの奥から絞り出した声を、風が静かに
払っていった。
 妙に乾いた、鼻を刺激するにおいがする風
だった。

 5・4・3・2・1・発車(ファイヤー)
 グォーー


 突っ込みどころ満載と予想していたが、導入部としては、淡々としたポエティックな文体で意外にも引き込まれ、先の展開が気になるようなSF小説作品のようだった。



田浦-16
SMマニア

 思春期の少年は、まず、グラビアアイドルに目覚める。恋というよりは憧れの対象であった。

 やがてソフトエロ漫画雑誌で性行為そのものに興味津々、その先では、恋愛経験を重ねた後に、ふと、SMの倒錯した世界を覗いてみたくなったのだろう。

 高校生ぐらいで「SMマニア」とは、かなり早熟した少年だったようだ。


 窓際の壁に備え付けの小さな棚があったので、引き戸を開けてみると、奥から彼のとっておきの秘蔵の蔵書がゴロゴロと転がり出てきた   




つづく…

「愛国廃村少年と、天皇陛下」廃村に行ったら取り壊し直前だった件.3

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