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 北の大地の、釧路は音別町、尺別にかつて存在した、鉄道マニアの間では”幻”と囁かれ、熟練の廃線駅巡りファンの心をも掴んで離さないという、「尺別炭山駅」の跡。

 前回、険しい道に抗いながらも突き進み、行く手を覆う密集した小枝に車のボディ側面をガリガリとこれでもかと擦られ続けながらも、なんとか辿り着き、崩落寸前であったものの、その全容を拝むことに成功。

【読んでおきたい】まぼろしの尺別炭山駅

 大満足のうちに帰途につき、自宅で落ち着きを取り戻し、よくよく思い返してみたら、優先順位は「尺別炭山駅」よりもむしろ高かった、牧場の中に寂しげに取り残されて孤高の佇まいを放つ、当時としては近代的なコンクリート建築が、山の中にはおよそ不釣り合いでありながらも、時にその緑と構造物の異次元の対比が儚くも幻想的に浮かび上がる光景が、一部の廃墟マニアを引き寄せてやまないと評価も上々なその炭住アパートを、付近の再訪問時に今回寄ってみることになった。



1
 まず、根室本線の「尺別駅」。前回とほぼ変わってない。トイレも同じく清潔さが保たれている。



2
 ひたすら寂しい、尺別駅前通り。

 朽ちることはあっても、活気が戻ることは決してないのだろう。



3
 前回、スマホの時代に、掲示板がどうのこうのという指摘をしたが、これからも使用されることはないのに、意味もなくこののっぺらぼうの掲示板は立たされ続ける運命にあるのかと思うと、心悲しくもなる。



4
 一生、汽車が来ないとさえ思えてしまう、最果て終末旅情を感じさせてくれるのが、北海道の駅舎特有の侘しい退廃的な風景である。

 もうこの先、どう転んでも、栄えることはないのだなと。

 漠然とホームに立ち、霞むレールの向こうの先を見続け、無情感を味わう。「ほんとに、何もないな・・・」と、いつもと同じ一言をつぶやいた。



尺別牧場炭住-1
 尺別炭鉱のあった山の方へ進む   

 道路脇には、かつて尺別鉄道がその上を走っていた、跨道橋の跡。

 そして、前回同様、廃屋や尺別給油所跡などを通り過ぎてゆく。



尺別牧場炭住-35
 言われてみれば、牧場なのだろうが、東京から来た僕にしてみれば、これは山の裾野に無尽蔵に展開する、人によって管理されていない広大な草原だと思っていたので、前の訪問時には見逃していたのだ。

 今回も放牧はされていないし、牧場なのか草原なのかの境界線の判断がつきかねた。



尺別牧場炭住-66.m
 視界も霞むような茫漠とした草原の中頃に、その廃墟となった二棟の炭住はあった。



尺別牧場炭住-2
 手前が白塗りで、奥のはレンガが剥き出し。

 まさか、閉山になって片方の一棟だけが未完成のままだったのだろうか。



尺別牧場炭住-33
 当然のように、周囲に全く人影はない。

 治安の悪そうな途上国の刑務所にも見えるが、朽ちて塗装が黒ずんでいるからであり、当時はさぞかし立派な近代的コンクリート建築アパートだったことでしょう。

 こちらの方から入って行ってみることにした。



尺別牧場炭住-4
 白塗りの方は、レンガというよりは、ブロック塀によく用いられるような素材のブロックで積み重ねてあった。

 二棟の素材の違いは、建てられた時期のずれによる、会社の経営状況を反映したものか、それとも、管理職と炭鉱夫との差別化であるのか、真相はわからないとしか言いようがない。



尺別牧場炭住-5
 他の炭住でもそうだったが、下手すりゃ今でも周囲は汲み取りなのに、何十年も前の山奥の炭住アパートがすでに水洗トイレを採用していたことが多く見られた。

 ここも驚くことに、水洗トイレだったようだ。



尺別牧場炭住-7
 板張りの床はすでに底が抜けて跡形もない。

 ヒグマなのか、乱暴な廃墟マニアなのか、風雪による時のイタズラであるのか、和式便器は叩き割られ、残る瓦礫も混沌として秩序を持たないで散乱したままに。



尺別牧場炭住-6
 信じられないことに、この窓から、街が見渡せて、隣家も覗けたことでしょう。



尺別牧場炭住-8
 山の奥過ぎて、心霊スポットマニアも来ないし、かつての住人再訪時の記念サインも見かけず。

 僕でさえたまに、バイクに乗ってフルフェイスのヘルメットを被り、中学の頃までいた家付近を懐かしんで行ってみたりするのに、津軽海峡を跨ぐのは遥か彼方なのか、道内であっても厳しい距離にあるのか、或いは、解雇という屈辱の忌まわしい思い出を封印したいのか、かつての住人の心境は部外者が思うより複雑なのかもしれない。



尺別牧場炭住-11
 二階へ行こうとして、途中にあったのは、
 


尺別牧場炭住-9
北海道の古い集合住宅で多く見られる、「ごみ+灰」のダストシューター。

 火災の危険が高くなりそうな気も。



尺別牧場炭住-10
 二階へ上がった先では、炭住アパートで慎ましくも暮らした子供達の、数十年の歳月を越えて届けられたかのようなメッセージのような愛くるしい名残りを発見し、涙腺が緩むような笑みがとまらないような、おもわず頬で擦ってみたくなるような痕跡と触れることとなった    


 

つづく…

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